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クルトゥース断章  作者: 高田玄武
5/21

第五幕 遭遇

-5-


手掛りは、存外すぐに見付かった。

路地裏を抜けたすぐそこはメインストリートで、丁度夕飯の準備や、帰宅を急ぐ人々の群れで賑わいでいた。路上に立っている案山子のような案内標識に書かれた文字。


『サウスロタ タウン 25 ストリート』


つまり、この通りは、サウスロタという街の25番街だということになる。

目的の住所は、27番街。もし同じ街なら、そう遠くはない。

三十分くらい歩けば着くだろうか。

そんなことを考えながら、人ごみの中、標識を頼りに、目的の27番街へと歩みを進めた。


人混みを縫いながら、歩くこと一時間。思ったより時間は掛ってしまったが、27番街の立て札を見つけた。大丈夫だ、まだ時間はある。

俺は、「テスタロッサ」を探す。街の様子は、先程の25番街と比べると全くの別物だった。壊れかかった看板。淀んだ空気は、煙臭い。陽は沈みかけ、辺りは大分薄暗くなり、水銀灯の灯りがゆっくりと滲む。

街、というよりは下町と言ったほうが正しいか。先程の25番街とは対極の、薄暗い街。よくよく辺りを伺うと、路地のあちこちから微かに人の気配がする。

――見られている?

いや、違う。確かに微かな殺気のようなものは感じるが、それは俺に向けられたモノではない。というより、街中に殺気のような、怨恨のような、黒くて気持ちの悪いモノが渦巻いている。余り、ガラの良い地域じゃない。

早々に店を探そう。余計な面倒に巻き込まれる前に。

そう思った矢先である。俺の耳に怒鳴り声が響く。


「待ちやがれテメェっっ!!!」


ガラの悪い男の声。声は後ろのほうからだ。声に追われて、何かが駆け抜けてくる。


「―――っ!!」


逃亡者は、意外にも小さかった。紺色の帽子にジーンズ姿。


「――わ、わわっ!!」


小さな逃亡者と、目が合った瞬間、肩に衝撃が走る。


「っ!!」


小さな逃亡者が、俺の肩にぶつかって派手に転んだのだ。


「・・・あいたたた・・・。」


小さな体。・・・まだ子供じゃないか?深く帽子を被っているせいで顔は良く見えないが、少年のようだ。しかし姿を詳しく確認するよりも早く、後ろから追い掛けてきていた乱暴な言葉の主の声がすぐ近くで俺の背中ごしに少年を揺する。


「はぁはぁ・・・やっと追い付いたぞクソガキっ!!」


・・・どうやら、想像以上に穏やかではない。一体何をやらかしたんだ・・・。


「あ・・・っ!」


少年が、俺の陰に隠れる。・・・嫌な予感がする。


「なんだテメェは?」


「このガキの知り合いか?」


・・・思った通り、面倒なことになった。相手は二人。体格の良いスキンヘッドの男と、細身のリーゼント。どちらも、普通なら関わりあいにならないほうが良さそうな連中だ。


「・・・。」


少年を見る。俺を見上げて不安そうな顔をしている。・・・やはり面倒なことになった。


「おい!なんとか言えよ兄ちゃんよぉ!!」


「スカしやがって!テメェも痛い目に会いてぇかっ!?」


・・・ボキャブラリーの低い言葉。この程度の連中ならばそれほど面倒ってわけでもなさそうだ。だが、俺には、やることがある。・・・どうするか・・・?


「んだテメェっ!関係ねぇならすっこんでろっ!!」


スキンヘッドの男が、俺の肩を掴む。その瞬間、俺は反射的に動いていた。


「―――っうおっっ!?」


二、三メートル向こうへ吹っ飛ぶスキンヘッド。肩を掴まれた俺はとっさにスキンヘッドの脚を払い、腕を絡めて投げ飛ばしていた。どうやら、この体に染み付いている癖らしい。

・・・やってしまった。

リーゼントはとっさのことで、面食らって呆けている。仕方ない、この場はどうにかするしかない。


「・・・来い。」


俺は、隣で同じように面食らっている少年の腕を掴んで走り出す。


「え・・・あっ!!?」


走る、走る。


「ま・・・待てこの野郎っ!!」


正気に戻ったリーゼントが背中で吠える。が、無視だ。待てと言われて待つ奴はこの状況じゃ考えられない。


走る、走る、走る。


いくつか路地を曲がり、オンボロの看板を通りすぎたところでようやく止まる。男たちが追い掛けてくる気配はない。どうやら振り払ったようだ。


「・・・っ・・・はぁっはあっ・・・」


右手のほうで、息を切らした少年が中腰になっている。こいつのせいで、時間をくっちまった・・・。今、何時だ?

俺はポケットから懐中時計を取り出す。

・・・17時50分。・・・やばい、ぎりぎりじゃないか。

急がないと・・・ん?


「あ・・・あの・・・。」


少年が、俺の顔を見上げて不安そうな顔をしている。


「なんだ?もうあのチンピラは撒いたぞ。」


「い、いえ・・・その、う、腕を・・・。」


・・・いかん、腕を掴んだままだった。


「すまん。・・・痛かったか?」


俺は少年の腕を離すと、コートのポケットから煙草を取り出して火を点ける。落ち着いている場合ではないが。


「いえ、だ、大丈夫です・・・その・・・あ・・・ありがとうございましたっ!」


俺に向かってペコリと頭を下げる。


「・・・どうでもいいが、俺は探し物をしている。もしまた見つかっても相手はできんぞ。」


「探し物・・・?えと、何を探してるんですか?」


少年が、小首を傾げる。


「・・・テスタロッサ。」


簡潔に答える。


「テスタロッサ・・・?お店の名前か何か・・・でしょうか?」


まぁ、こんな子供が知っているとは考えにくい。まして、チンピラに追い掛けられるような少年だ。


「・・・いや、気にするな。そういうわけで俺は急いでいる。待ち合わせなんだ。」


「あ・・・でも・・・。」


立ち去ろうとした俺を引き留める。


「なんだ?知っているのか?」


「いえ、そうじゃないんですけど・・・。」


少年は、おどおどと指差す。


「・・・ん?」




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