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クルトゥース断章  作者: 高田玄武
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第四幕 鉄の塊

-4-


床に転がった、重々しい鉄の塊を見て、愕然とする。

別にそれ―――拳銃自体が珍しかったわけではない。

俺はそれの存在を知っていたし、この世界が、元の自分の知っている世界なのであれば、この黒い凶器を日常的に見ることもあったからだ。

しかし、何よりその殺傷能力のある凶器が、自分のものであろう部屋に存在していたことだった。

つまりは、コイツが必要な何か、護身用か、それとも本来の目的である殺傷用かは知らないが、少なくとも、コレを携帯することが必要な状況にある、という事に驚愕したのだ。

生活臭の薄い、何もない部屋。

足元に転がる、冷たい、黒く光る凶器。

パズルが一つ、組み上がった。その時、存在すらしていなかった記憶がうっすらと極断片的にではあるが蘇った。

―――俺はこの凶器を知っている。もちろん、コイツの扱い方も熟知している。そして、俺は誰かに追われているわけではない。逆に、何かを追い続けているのだ。

ソレが何かは分からない。ただ、俺は確かに何かを探して、追い続けている。人なのか、物体なのかすら定かではないが、何かを追い続けている。

確信したのだ。

危険があることに違いはない。こんな物騒なものが必要な程である。だが、俺はその探し物を必ず見つけなくてはならない。俺の中にある、未だはっきりとしない記憶が、確かにそう告げている。

俺は、足元に転がったそいつを拾い上げた。

掌にずしりと重くのしかかる重量感。―――スライドを確認して、マガジンを抜く。弾丸は込められていない。

辺りを見回して、それらしき場所を探す。

ベッドの横のキャビンの引き出しを開ける。


―――あった。


紅い箱。スライドさせると中にはきっちりと詰まった、小型拳銃用の弾丸。―――8ミリパラペラム弾だ。弾を一個ずつ引き抜くと、ソレをマガジンに込める。12発。

全弾を込め終えると、マガジンをグリップ下から銃身へと戻す。

暴発防止用の安全装置のスイッチをスライドさせ、腰に留めたベルト型のホルダーに収納し、背中のほうへ回す。


―――よし。これで大丈夫だ。


弾丸の詰まった紅い箱を元のキャビンへと戻す。

俺はコートを羽織ると、ポケットの中を探る。

出てきたのは、部屋のカギらしきものと、いくらかのコインと、紙幣。これだけあれば、しばらくは大丈夫だ。何より、通貨が俺の知っているものと同じだったことに安心した。少なくとも、俺の記憶にかすかに残っている生活の断片と、それほど違わないことだけは確だと確認できたからだ。

俺は、再度胸のポケットから曲がった煙草を取り出し、火をつける。そして、考える。

メモに殴り書きされた約束の時間と思わしき時刻は六時。ちょうど今の時刻が四時。地理的な感覚はないが、書かれているのが番地名と店らしき名前だけなのからすれば、そう遠くはないはずだ。車のカギらしきものが見当たらないことから、徒歩、或いは地下鉄か何かで行ける距離なのだろう。

しかし、逆に番地名までメモに残すということは、初めて行く場所なのかもしれない。これが俺の字であるのなら、だが。

まずは、地理を把握しなければならない。ここが何処で、なんという地名なのか。番地名、それから、目的の場所は近いのか。

兎に角、外へ出る。扉を開けたが、上下へ続く階段があるだけだ。他には何もない。壁も廊下もアスファルト造りで、階段を降りる靴の足音が周囲に響く。フロアを二つほど降りると、そこは路地。先程部屋から見下ろした路地裏だろう。人二人が通るのに肩がぶつかりそうなほど狭い。

俺はカーテンの掛った自分の部屋を見上げる。五階建ての建物は、周囲の背の高い建物の壁に囲まれている。間から覗く空は、どんよりと曇っている。部屋を出る時には気にならなかったが、少々肌寒い。

煙草を地面に押し付けて完全に火を消し、吸い殻をコートのポケットに入れる。まずは、辺りの検索だ。詳しい手掛りを求めて、俺は街のほうへ脚を伸ばした。


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