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クルトゥース断章  作者: 高田玄武
3/21

第三幕 疑心暗鬼

-3-


嫌な感覚が脳裏と背中を冷やす。


追われている?俺が?


だとしたら、此処で居るのは危険だ。とはいえ、それならば他に何処で居ようが、安全な場所など思い付かないが。

思考と現状を照らし合わせて、今どうすることが得策かを必死で思案する。

落ち着け。追われているにしても、何も今すぐに逃げる必要はない。この部屋が身を隠す為の籠城ならば、少なくとも今はその役目を果たせているのだろう。俺はカーテンを開いて外を見る。目の前に現れたのは壁。他の建物の壁面だろう。真下を覗き込むと、そこは狭い路地。どうやら、界隈からは離れた場所らしい。辺りには人の気配はない。少なくとも、此処からは人影を確認することは出来なかった。

俺は少しだけ胸を撫で下ろし、次にすべき行動を考える。

そうだ、持ち物だ。

今俺が身につけているものは、素肌に胸ポケット付きの灰色の開襟シャツ、それに紺色のジーンズのみ。俺はジーンズのポケットを漁る。

ポケットからまず出てきたのは、それほど大きくはない銀色の懐中時計。それから、黒ずんだ銀色のオイルライター。よく使い込まれている。着火石は刷り減っていない。着火ドラムを回すと、シュボっと音を立てて芯材に引火する。・・・オイルも十分に補充されているようだ。

シャツの胸ポケットを探ると、白地に紅いマークの入った紙の包装に、数本残った、少し折れ曲がったフィルター付きの煙草を見つけた。どうやら、この躰の持ち主は愛煙家だったらしい。俺は折れ曲がった煙草を指で整え、唇に挟みフィルターを噛むと、息を強く吸いながら煙草に火を点ける。紫煙が辺りに立ち込めると同時に、芳ばしい煙が肺の中を侵食してゆく。

強かに紫煙を吸い上げると、肺に溜りきらなくなったそれを一気に吐き出す。

・・・頭が、心地好い痺れとともに冷めわたる。躰中の血液が、落ち着きを取り戻してゆく。

俺は、一通り煙を吸い終えると、更にジーンズのポケットを探る。

次に出てきたのは、紙切れ。くしゃくしゃになっているそれを広げて、しわを直すと、掌くらいの大きさになる。紙には黒インクで、文字が書かれている。


『27番街 テスタロッサ 18時 』


なんだ?番地と・・・テスタロッサ?店の名か何かか?時間まで記入しているということは、誰かと待ち合わせでもしているのだろうか。

俺は懐中時計を見る。時刻は、15時を指した辺り。


「三時間・・・か。」


誰にともなくそう呟く。この紙切れに書かれているのが誰かとの待ち合わせだとして、それが今日であるという保証はどこにも無い。もしかしたらすでに片付いた約束なのかもしれないし、明日、いや、一週間後の今日以降である可能性もある。

それでも何かの手掛りにはなるかもしれない。どちらにしても、この部屋にずっと居続けるわけにもいかないのだ。

大分長く延びた煙草の灰を鏡の横の空き缶に落とすと、コートの掛った上着掛けがある窓際に近付く。この部屋からは、外が暑いのか寒いのかすらも分からなかったが、薄出のシャツ一枚で外に出るには心もとない。少なくとも、この時間にこの気温ならば、真夏だというわけではないだろう。

俺はコートに手を掛ける。上着掛けからコートを解放した瞬間、ゴトっという重い音と共に、何かが床に落ちた。


なんだ?


床に落ちた重量感のあるソレを拾おうと手を伸ばした。


―――っ!?


そこにあったのは、落とした音よりも更に重々しく、黒く光る、鉄の塊。

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