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クルトゥース断章  作者: 高田玄武
12/21

第十二幕 圧倒

-12-


・・・

・・・・・・

ほんの、数秒間のことだと思う。

あたしは、衝撃を覚悟して目を瞑っていた。

・・・しかし、いつまで経っても男の振り上げた右手は降りてこない。代わりに、男の驚いたような声が、耳に入ってきた。


「―――てっ・・・テメェ―――っ!!」


その次の瞬間、あたしはスキンヘッドの重い腕から解放された。


恐る恐る、瞳を開けると、眼に映ったのは居るはずのない、あの人だった。


「――――っ!!」


スキンヘッドの躰が、物凄い勢いで地面に叩き付けられる。男は何かを言おうとしたけれど、それが言葉になるよりも早く、男の躰はもう一度彼の拳によって地面にめり込み、言葉になるはずだったものは、悲痛のうめき声にしかならなかった。

彼の拳が、二度、三度と男の顔面に叩き付けられる。その度に、骨が割れるような、何かを擦り潰すような音が辺りに響く。


「ひっ!ひぃぃぃ!!」


派手な男は、傍らで腰を抜かしたかのように座り込んで、目の前の壮絶な暴力に気圧されていた。


「がぁっ―――ぐぁっ―――わ・・・わるっ・・・。」


殴られている男が何かを言おうとしているけれど、構わずに叩きつけられる両方の拳。時間にしてほんの一分、いや数十秒のことだったかもしれない。突然、彼の動きが止まる。


待っていたとばかりに、スキンヘッドの男が言葉に出来なかった何かを、息も絶え絶えで言葉にする。


「―――おっ・・・俺がわる・・・悪かったぁ・・・もう、も、勘弁してくれぇ・・・。」


かすれそうな、涙混じりの声だ。しかし、彼はそんな言葉は微塵も気にせず、長いコートの懐から何かを取り出して、男の額に突き付ける。

それは、テスタロッサであの緋色の髪の少年を撃った、黒い鉄の塊。

少年が言った、『人の造りし刃』。

それは、拳銃だった。


男も、ソレに気付いたようだ。必死で懇願する。


「や―――やめてくれぇっ!!いのっ、命だけは、どうか、どうかぁっ!」


足をバタつかせて必死で抵抗するが、馬乗りになった彼の左腕にしっかり捕まえられていて身動きが取れない。男はまるで気が狂ったかのように命乞いし、懇願する。そしてやっと、彼が口を開く。


「・・・汚い血と脳髄で汚れたくなけりゃ、どいてろ。」


それは、傍らで腰を抜かしていた派手な男への言葉だった。

派手な男は、奇声を上げて転びながら逃げてゆく。まるで、悪夢でも見たかのように。


―――本当に殺す気だ。

あたしは、動かない躰を必死で彼のほうへ進める。声がなかなか出ない。


「だ・・・だめ・・・。」


あたしの為に、彼を人殺しになんてしちゃ駄目だ。

あたしは、必死で彼にやめてと告げようとするが、さっきのショックか、声にならない。

彼の指が、引き金をゆっくりと絞める。

男は、足をぴくぴくとしながら、か細い声で尚も哀願する。彼が最後の言葉を発する。


「・・・死ね。」


次の瞬間、暗闇に耳をつんざくような銃声が響きわたっていた。



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