あかい、いろ
特に中身のないお話ですが・・・。
ねえ、知ってる?
ううん、知るはずない。
知らないはず。
あたし、あなたが好きで好きでたまらない。
あたしを呼ぶときの少しかすれた声や笑ったときに細くなる目。
大きな手と、きれいな唇。
薄い耳と、きれいな首筋。
ぜんぶ、ぜんぶ好き。
言葉にしたら安っぽくなっちゃう。だけど、好きとしか言えないの。だって、この感情を他にどう表したらいいの?
愛してる?
違う。
愛してるんじゃない、そんな大層なことじゃないの。ただ好きなだけなの。
愛してるなんてあたしには似合わない。
真っ赤なルージュも、スリットの入った際どい真っ赤なドレスも、ルビーの指輪もあたしには似合わない。
赤はあたしには似合わない。
だけど、あたしは真っ赤なマニキュアをつけるの。これだけは譲れない。短く切りそろえた爪に塗る真っ赤な色。あなたの好きな赤色。これだけはあたしに似合ってくれる。これだけがあなたに近づける。
マニキュアを塗るときにするあの独特のシンナーの匂いは嫌いだけど、週に一回、必ず日曜日にきれいにきれいに塗り直す。月曜日にはきれいに輝くの。あなたがくれた真っ赤なマニキュア。あなたが買ってくれたマニキュア。
別に貢がせたわけじゃない。誕生日に何が欲しいって聞くから、だからあたしは、
「真っ赤な真っ赤な、きれいに輝く赤いマニキュア。」
って言ったの。そしたらくれたこのマニキュア。毎日毎日大切に使ってる。一滴も無駄にはできない。いつかあたしの体の一部になっちゃう気がする。
だけど、ずーっと使ってたらやっぱりなくなっちゃうから。だからもう、使えない。あなたがくれたマニキュアを空にはしたくない。これがなくなった瞬間に何もかも終わってしまう気がするから。
だからこれでお終い。もう塗らない。明日からあたしの爪は赤じゃなくなるの。何にもつけていない赤ちゃんの爪と同じ薄いピンクの爪。そう決めたの。そう決めてたのに、そう思ってたのに、ある日机に真っ赤なマニキュアがおいてた。
「お前、ほんとにそれ好きなのな。もう無くなると思って買ってきた。やるよ。」
あたしは大事に大事に両手でそっと包んで笑った。
違う、好きなのはあなた。赤は、赤はあなたの色だから。
だからあたしは赤が好き。
「俺、お前の手が好き。」
って言ってくれたから、あたしは赤い口紅じゃなくて、赤いドレスでもなくて、あかいマニキュアをつけるの。
ねえ、好きなの。
こんなにも胸が苦しくて、心臓が壊れそうなくらい、あなたを、想ってる。
ねえ、ねえ、早く気づいて。
早くあたしの心臓を救って。
今度また、この真っ赤なマニキュアがなくなる前に。
すっごく久しぶりの投稿。
それも3年前に書いてたもの。
何の落ちもない、ただの言葉だけの文章。