ある博士の人間診断
「君は実にすばらしい。
人という生き物はすべからく現象に絶望するものだ。だから原因をひとつひとつ丁寧に取り払えば、みんな生き生きしてくる。
まあ、ここですべてを取り払わないことが味噌なのだが、君にはそのような素振りが見られない。敢えていうなら君は生者であることに不安を感じているんだよ。
結局、絶望とは存在することを根底に成り立つ。なぜなら、魂への配慮も第一義的に存在者であることを肯定しているからだ。人である限り、それは免れ得ない。
なのに、だ。君は人が口にする幸福という概念に疑問を持ったことはないか? 相対とかじゃなくもっと根本的にだ。果たして幸福は存在するのか。存在の基本にある『思惟する私』は私であるのかと」