え、オンナノコ? 魔法? チョット待て! 1
「……君が付けてくれたブレスレットは、実は特殊なものでね」
愕然と鏡を見ているオレの横で、頭を押さえつつも平然とした様子で黒塚が立ち上がる。
「何が特殊なのかというと、使用者を選別するんだよ」
「……」
「……選別、ですか?」
オレが鏡に釘付けで反応しないことを悟り、代わりに楓が黒塚の相手をする。
黒塚は楓の問いかけにうなづいて、
「そう。まあ選別するといっても、そのものによって方式はずいぶんと変わるけどね。……それが見つかった当初は、僕は『一定以上の魔力を有するもの』を選別しているのかと思ったんだ。だってそれは――」
かの英雄、フルミナ・レーゲンのものだから。
「まじでかっ!?」
反応したのは、オレを呆然と眺めていた活発そうな少年―紅汰であった。
その反応に黒塚は意外そうな顔をして、
「おや、言ってなかったかな君には?」
「君には!? え、オイラだけ? ……そうなのか歩美?」
「え、あ~……。……そういえばあの時、紅汰君はいなかったねぇー」
「なんでぇ!? 『あの時』てのはぁっ!!」
あはは、と車いすの少女――歩美は笑う。他の役員たちも(といってもオレは話が読めなかった。楓も同じらしい。てか、オレはそれどころではなかった)『あー……』と気まずそうな顔をする。
「まあまあ。……とにかくそのブレスレットはフルミナ・レーゲンのものなんだ。それはレオンが保証してくれるよ。なにせレオンは、実際にフルミナ・レーゲンを見たことがあるらしいからね」
「……まあ、肝心のところには鉢合わせなかったがな……」
皮肉気にレオンはつぶやく。そして、ふっと鼻を鳴らすとオレのほうを向いて言った。
「……宝条雷牙」
「っ!?」
未だにライオンが目前で話すという非常識に慣れないオレは、蛇ににらまれたカエルのごとく固まった。
それにレオンは一瞬不快そうな顔をした後、毅然とした態度で、
「はっきりと言わせてもらおう。……そのブレスレットは、『お主だから』反応したのだ」
「……オレ、だから……?」
うまく言葉を飲み込めないまま、オレは聞き返した。
「『一定以上の魔力を有するもの』……。それは大きな間違いだ。現にお主は、それなりな魔力を有しているようだが、お主を遥かに凌ぐ魔力の保持者でも其れを発動させることは出来なかった。……当然だ。条件はそんなことではなかったのだからな」
淡々と、レオンは言う。
「そやつの発動条件は……、『使用者が宝条雷牙であること』だ」
……オレははっきり言って意味が分からなかった。
発動条件が『オレだから』――
「……なんだよ、なんでそんなこと分かるんだ? てか、なんでオレなんだよ?」
「それが小娘……フルミナ・レーゲンの望みだからだ」
「……意味わからねえ? フルミナ・レーゲンはおとぎ話の……いや、現実だって言ってたな。でも、遥か昔の人物だろう? それがなんでオレを条件にしてるんだよ?」
至極当然の疑問だった。オレは一度もフルミナ・レーゲンに会ったことがない。当然だ。だってついさっきまで、オレはおとぎ話と思っていたくらいだ。実際におとぎ話の人物に会ったことがあるとか、そんなの信じられるわけがない。
「……いずれ分かる。その時を待つのだな」
そう言って話は終わったとばかりに、レオンはそっぽをむいた。オレは反論するどころか、頭の整理もロクにできていなかった。
だって、色々なことが立て続けに起こって、正直夢を見ているみたいだ。
いや、夢なのかもしかして……。現実のオレは、今頃どっかの授業中に寝ているんじゃないかなー、なんて……。
「……いててっ!」
思わず声が出る。無意識にほほをつねっていたようだ。
……あれ、痛い?
「……(萌え)、っごほん。……ところでレオン。宝条君のこの姿はもしかしなくても……」
黒塚が呆然とするオレを見ながら(その顔はなぜか緩んでいる)、レオンに問いかける。
するとレオンはしれっと答えた。
「ああ、間違いなく幼少の小娘だろう。顔の雰囲気が同じだ。おおかた、小僧の魔力が小娘の魔力と釣り合うのが、この程度の年齢だったのだろう」
「なるほど。ナイスだよ宝条君、絶妙な魔力加減だね!」
ぐっと、黒塚がオレに向けて親指を立ててくる。オレは生気のない顔でそれを見つめる。
「……なあ、楓」
オレはぎぎぎと錆びた機械みたいにぎこちなく楓のほうを振り返る。
「はは、……これって全部、夢……だよな? いや、夢だろう! 夢と言ってくれ!!」
徐々に悲壮感を漂わせながら楓に助けを乞う。
だが……。
「……言いにくいけど。すべて現実なんだよ、雷牙……」
申し訳なさそうに楓は言ってくれやがった。
「そこは夢落ちだろぉー……」
がくっと肩を落とし、オレは床にへたり込んだ。無意識に女の子座りになったが、オレは気が付かないくらい疲弊していた。
「なんだよ、それ……。いきなり変なしゃべるライオンとかいるし、魔法があるとか言われるし、あげくオレ女の子になっちゃうし――」
……ん? 女の子……?
「……おい待て。ちょっと待て。……オレ、元の姿に戻れるのか!?」
がばっと顔を上げて、オレは近くにいた黒塚を見上げた。すると黒塚は他人事のように、
「んー、別にそのままでいいじゃないかい? 可愛いし」
「真面目に答えろ!!」
「えー、そこは『可愛い』って言われたことに恥ずかしがってほしかったなー。顔を赤らめて『な、何言ってんのよ!? ほ、ほめてもなにも出ないわよっ!』ってさ。せっかく絵にかいたようなツンデレボイスなんだから」
「殴るぞてめぇ!!」
「……ははは」
「だから笑ってごまかすなっての!」
「んもー、仕方ないなぁ」
「あー、その顔(二重の意味で)死ぬほど殴りたいっ!!」
オレが今にもかみつく勢いで怒鳴ると、「まぁ、いいか」と黒塚はつぶやいた。
そしておもむろに例のブレスレット――今はしっかりとオレの腕にはめられている――を指さした。
「戻れるよ。簡単なことさ。そのブレスレットを反応させている魔力の流れを切ればいいんだよ。本来は君じゃ制御できないような魔力の流れだけど、今は魔封具を付けさせてもらってるからね、君でも十分可能なはずだ」
「そ、そうか」
オレは握りしめていた拳を緩め、ふぅ、とオレは安堵のため息をつく。一応戻れる手段はあるみたいだ。さて、それじゃさっそくこの姿からはおさらば――
そこでふと『肝心なこと』に気が付く。
……平然と聞き流してたけど……
「……魔力の流れって……なに? どう制御するの?」
愉快な生徒会だなー。
いいかどうかは別として。