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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第一部 小さな英雄
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日常乖離のきっかけ 6

……世の中には、いい予感と悪い予感がある。『なんか今日調子いいかも』とか『この試合、勝てるかもしれない』とか、そういうのをいい予感とするなら、その逆―まったく自分に利益のない負の要素を含むのが悪い予感だ。

そう、例えば――


   ††††


「……」


オレはちらりとあたりを見回した。すると何人かの生徒と目が合うが、どれも長くはもたない。目があったと思ったら、向こうがささっと目をそらすのだ。


「……はぁ」

オレは小さくないため息をついた。オレが今いるのは、古宮高校一年二組の教室。念のため頭に包帯をしたまま退院した翌日―つまり今日、オレは意を決して一か月ほど離れていた学校に足を向けたのだった。楓は子供のように喜んだが、その様子に小さく笑みを浮かべつつオレはある予感を感じていた。


……絶対に歓迎はされないよな……。


言うまでもなく悪い予感であるそれは、オレの中では予感と言いつつ確信に近かったのかもしれない。

悪い予感も確信も(確信のほうは当たり前だが)よく当たるものだ。現に……

「……明らかに敵意の的だよな」


オレはほおづえをつきつつ、今度は窓の外を眺め始めた。視覚を使わなくなった分、クラスメイト達の声が少しだけ聞こえるようになった。


なんで――、いまさら……、てかあの包帯なに――……。


決して良好とは言えないつぶやきが耳に入る。まだ朝のホームルームも始まってはいないが、早くも来たことに後悔し始める。楓はなにか生徒会に用があるとかで教室にはいないが、このまま黙って帰ってしまおうかと思いだした。

そして本気に机の横にかけた自分のバッグに手をかけたその時――、


「君が宝条雷牙君だよね」


バッグを取るために頭を下げていたその頭上から名前を呼ばれた。一応呼ばれたので無視することもできず、オレは顔を上げ声の主を見た。

見覚えのない、細身の男子生徒であった。その後ろには、生徒会室に行ったはずの楓が立っていた。


「……なんだよ?」

オレは警戒しながら細身の男子をにらんだ。よく見たら三年生ということを示すネクタイをしている。


「いや、ちょっと日向君の話を聞いてね。突然で悪いんだけど、今日の昼休憩、生徒会室にきてくれないかい?」

しかし細身の男子は特に気にした風もなくそう言った。


「はあ? なんで」

あまり機嫌がよくなかったオレは、とげとげしく聞き返す。

「なんでも、だよ」

「あ、でもそうだなー」と少し思案気に目を泳がせた後、オレの耳元でささやいた。


「しいて言うなら、日向君のためだよ」


「なに?」

オレは予想外の応えに、細身の男子を凝視した。その様子に満足したのか、細身の男子はくるっと背を向けて教室から立ち去ろうとする。

「それじゃ、待ってるよ」

「おい、待て!」


オレの制止の声を聞き流して、そのまま立ち去って行った。オレは突き出した手を、所在なさそうにだらんと下げた。


「何か言われた?」

楓が不思議そうに尋ねる。「いや」とオレは小さく首を振った。


そして――

「……なあ、楓」

オレは細身の男子が去って言った方向を眺めながら言う。

「昼、生徒会室に案内してくれ」


   ††††


生徒会室。


それはこの学校をより良くしようと立候補した生徒会役員が、活動する場所。


はっきり言ってオレにはさっぱり縁がない場所でもあった。



「てか、ここまで来たのは初めてだぜ」

『生徒会室』と書かれたドアを眺めながら、オレはつぶやいた。


「普通の人はあまり縁がないからね。それに雷牙はずっと休んでいたから、余計に近づく機会はなかったしね」

「ちょっと待ってて」と言い残して、楓はドアを開け中に入って行った。オレは何気なしにあたりを見回した。昼休憩の真っ只中なのに妙に静かな気がした。


今朝のこともあり、気が気でない。楓のためとは、一体なんなのか……。


「……雷牙、入ってもいいよ」


オレが必死に呼ばれた理由を考えていると、答えが出ぬ間に再びドアが開いた。

オレはごくっとつばを飲み込んで、ゆっくりと半開きのドアに手をかけた。


「……」

そうして恐る恐る室内に入る。最初に見えたのは、ドアのほうを空けたコの字型に並べられた長机だった。そしてその長机に設けられているパイプ椅子に数人の生徒が座っているのが見て取れた。

最後にオレの、机を挟んだ真向かいで、ゆったりと椅子に腰掛けている今朝の細身の男子と目が合おうとしたその時――、


「っ、お主は!?」


オレの斜め横から驚きの声が上がった。こっちもびっくりして、無意識にそちらに目を向けると、

「……っ、どわぁっ!?」

予想外のものを見てしまい、オレは腰を抜かすことになった。


「な、なな、な――」

オレは言葉にならない声をあげつつ、腰を抜かした原因を指さした。そして一言、


「な、なんでライオンがいるんだよっ!!」


悲鳴にも似た声を張り上げた。


生徒会室には、なんと大きな獅子が鎮座していたのだ。白と黒の毛並みが美しいが、そんなことオレにはどうでもよかった。オレは部屋の端までしりもちをついたまま後ずさりして、震えだす。


「……どうしたんだい、レオン?」

オレとは反対に、獅子にかなり近いところにいる細身の男子は、平然とした様子で獅子に話しかけた。オレはたまらず怒鳴る。

「なに平然としてんだよ!」


すると、次の瞬間オレはさらに目を疑うことになる。


「……そうか、なるほどの。そういうことか」


「うわっ、しゃべった!?」


さらに驚くべきことに、獅子がはっきりと言葉を話したのだ。

な、なな、なにがどうなってんだー!?


「……。ああ、済まない。この獅子はレオンといってね。人語を話すんだ」

「はぁ!?」


細身の男子が口元に笑みを浮かべながら放った言葉に、オレは混乱した。今にも泣きそうになる。

それを察したのか、細身の男子はあははと笑いながら、

「心配しなくてもいいよ。こいつは賢いから、君を取って食ったりしない。もちろん僕たちもね。だから安心していいよ」


にこやかに言うが、到底オレはそんな言葉じゃ納得はできなかった。


な、なにこれ! しゃべるライオンとか……。ありえねぇ。夢か、夢を見てるのかオレ!?


「ら、雷牙大丈夫?」

パニックを起こし、がくがくと震えるオレの元に楓がやってくる。そして、


「大丈夫だよ雷牙。急にびっくりしたかもしれないけど、大丈夫。大丈夫だから……」


優しくそう言って、そっとオレを抱きしめた。


「……か、楓」

オレはすうっと落ち着いていくのを感じた。楓のやわらかな感触と甘い匂いに、優しく包まれる安心感を覚えた。


と、同時に一気に昇る血の流れ。顔が真っ赤になるのを感じた。

「か、楓っ! は、はは、離れろ!」

「……落ち着いた?」

「おお、落ち着いたから、早く!!」

よかった。と楓はオレから離れた。その顔はオレと同様赤く染まっていた。やはり楓も恥ずかしかったのだ。


「お前っ、何恥ずかしいことしてんだよ!」

「し、知らないわよ。雷牙があんまりにも取り乱してたから、つい……」

「ついって……、お前なぁっ」


「はいはい、君たちがそういう関係なのは分かったから」

パンパンと手を叩く音と同時に、細身の男子がため息交じりに声をかける。オレははぁ? と眉をひそめて、

「なんだよ『そういう関係』ってのは!」

「……あはは」

「笑ってごまかすな!!」


「……紅汰君みたいな感じの子だねぇー」

「はぁ? なんで?」

オレと細身の男子が言い合っていると、別の席に座っていた車椅子の少女と、机に脚を乗っけている活発そうな少年――紅汰と呼ばれていた――が口をはさむ。リボンとネクタイの色からして、二人は二年生のようだ。


「……会長、いい加減本題に入らないと昼休憩が終わってしまいます」

それでもオレたちが言い合っていると、細身の男子のすぐ後ろに立っていた長髪の女生徒がぴしゃりと言い放った。お、この人は三年生か。

「ああ、そうだね。つい楽しんじゃったよ」

そう言って細身の男子はふう、と息を吐いて改めてオレのほうに視線を向けた。


「……さっきは済まないね。紹介が遅れたが、僕がこの古宮高校生徒会の会長の黒塚鎌(くろづかれん)だ。よろしくね」

「か、会長だったのかよ……」


オレはほほを引きつらせる。まじかよ……。

「そう、会長さ。……本来はここから始める予定だったのだけどね。うちのレオンが驚かせてしまったみたいで――」


「そう、それだよ! なんなんだあれ!?」


オレはビシッと獅子を指さす。それが不愉快だったのか、レオンと呼ばれた獅子はふんと鼻を鳴らして、

「……まったく相変わらず礼儀がなっていない小僧だ」

「っ、しゃ、しゃべるとかどうなってんだよ!!」


出来るだけ獅子――レオンから体を離すようにしながら、オレは黒塚に怒鳴った。黒塚は、ん? っと不思議そうにオレを眺めて、

「こういうのは初めてかい?」

と、にこやかに言った。


「当たり前だろ!!」

オレは間髪入れずに言い返す。すると黒塚は、「だよねー」と肩をひそめた。そしてゆっくりと、しりもちをついているオレのほうへ寄ってきた。


「……でも、君にはこれから『こういうこと』に慣れていってほしいんだ」

そう言って手を差し伸べる。オレは何度か黒塚の手と顔を見比べ、やがておずおずとその手を借りて立ち上がる。


「……こういうことに、慣れる……?」

オレは不審げに眉をひそめた。黒塚はオレが立ったとわかると、くるりと背を向け、




「宝条君。……君は、『魔法』の存在を信じるかい?」


生徒会の面々がちらほらと出てきました。

ちなみにこの話は、中途半端に書いて少し(そう、あまり多くないのでいつストックが切れるのか……)ためていたものをちょっとずつ分けて投稿しているのです。それゆえに言えるのですが、


主人公のTSが迫ってきましたよー。

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