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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第三部 引き継がれし炎
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夏休みの計画 2

「さて、もう少しで夏休みだね」

生徒会室に上がり、みんなが一息ついたところで黒塚がみんなを見渡して口を開いた。

「……で、そこで提案なんだけど」

「……提案?」

それを聞いて、オレは若干顔をしかめる。話がある、と聞いた時点でなにかあるなと思ったが、「夏休みだね」と言って続きが「提案がある」だ。……この流れ、下手すれば貴重な夏休みが黒塚の思惑で潰れかねない。こいつなら、夏休み全部使って何か無茶をやらかす、と言われても不思議じゃないからだ。


「ん? ああ、心配しなくても夏休み全部使って無茶をやらかそう、なんてこれっぽっちも……いや、ちょっとしか考えてないよ」

「っ、だから人の考えを読むなよ! しかも、悪い方向に言い直すなっ」

ますます怪しく見えてしまう黒塚の笑顔。オレは黒塚をにらみつけた。それに黒塚はあははと笑った。

「まあ、そんなに警戒しなくてもいいよ。君たちにとっても、悪い話じゃない筈だからさ。提案って言うのは、夏休みを使ってどこかに旅行でも行こうよってことさ」

「……旅行?」

オレたちは揃って首をかしげた。

「旅行って……このメンバーで?」

「そそ。ちょっとしたレクリエーションにでもならないかなと思ってね。実際は、僕がある場所に用があって行きたいだけなんだけど、その場所って言うのがちょっとした名所の近くでさ。温泉も湧いているらしいから、どうせならみんなで行こうかと考えたわけなんだ」


「温泉とかなら、みんなも悪くないでしょ?」と黒塚。みんな突然の提案に眉をひそめていたが、各々思案するような姿勢を見せた。確かに温泉に行くなら悪い気はしない。温泉は冬に行くという個人的なイメージから、時期は外れていると思うが、まあいつ入ってもいいものだろう。少なくとも、オレはそう思ってる。


だが、心配なのは黒塚の用がある場所だということだ。それだけで危険な香りがしなくもない。厄介ごとに巻き込まれそうだ。……というか、夏休みのどのあたりにいくつもりなのだろうか? いつなのか明確に言ってくれないと、こちらとしては参加するとかできないとか言えない。まあ、オレは大体大丈夫だけど。予定ないし。


「その旅行って、いつ行くんです?」

そこでみんなを代表するような形で、ソロナが首をかしげながら言った。それにみんなを見回していた黒塚は、ソロナの方を向いた。

「僕の用の関係があるから、行くのは八月に入ってからになるよ。お盆のあたりになっちゃうかなー」

「……盆のあたりか。また微妙な時期だな」

勠也がぼそりとつぶやいた。耳に入ったオレは、隣にいた勠也を見上げその後他の役員を見渡す。勠也のつぶやきは、みんな同様に頭に浮かんでいるのか、表情が晴れない。盆のあたりといえば、家族内で様々なことがある時期であろう。親の仕事が休みになるのを機会に旅行へ行ったり、墓参りしたり……。少なくとも、オレが知っている限り毎年そうして過ごしている楓は、渋い顔をしていた。その楓が、申し訳なさそうに口を開いた。


「あの……。その旅行って、絶対参加しないといけませんか?」

今年もやはり例年通り家族と過ごす計画があるのだろう。物言いからして、楓は参加は難しいようだ。それを察してか、黒塚は朗らかに言った。

「いや、別に絶対ってわけじゃないよ。時期が悪いのは僕自身分かっているし、みんなにも予定があるのは仕方ないと思ってるよ。さっきも言ったように、この旅行は僕の用事のついで。暇だったらでいいさ、参加は」

「……ごめんなさい。私そのあたりは用事があるんです。ちょっと参加出来そうにないです」

「謝らなくてもいいさ」

ぺこりと楓が頭を下げ、黒塚は苦笑して首をひそめた。

「日向君は不参加、と……他はどうかな?」

確認を取るようにつぶやいた後、黒塚は役員たちを見回した。すると、みんなあれこれ予定があることが判明した。正直、オレもみんなが行かないのなら行く気失せるな、と考えだしていた。だが、オレにはそのあたり特に予定はない。両親はどこかに雲隠れしてるし、親戚筋からも話は回ってこない。昔は楓の一家と遊びに出ていたものだが、最近それもしなくなっていた。楓は毎年残念そうにしていたが。


「ふむ。みんな用事があるか……。あ、でも少なくとも夏目君には来てくれると思ってたんだけどなぁ」

「え、なんでや!?」

まだ予定云々を言っていない紅汰が、突然の指名に鼻白んだ。紅汰も、特別何か用事があるわけではないようだが、他の二年は用事があるということなので、あまり行く気はなかったらしい。オレと同じだ。

黒塚は「いやね」と言って体の向きを若干変え、横目で紅汰を見始めた。

「僕の用事がある場所って言うのは、近くにちょっとした名所があるって言ったよね。そのその名所って言うのが、実はある一族の隠れ里の一部なんだ。公にはなってないけどね」

「……それがどうしてオイラが行く理由になるんだよ?」

景色になんて興味はないぞ、といった様子で、紅汰が半眼になった。もう自分の中では不参加を決め込んでいるらしい。それを見てオレは、今回は流れたな、と思った。これだけノリが悪いなら、オレ一人参加してもつまらないだろう。黒塚とペアなんて、絶対嫌だし。温泉は魅力的ではあったが、仕方がない。


「紅汰君なら知ってると思うけど。その一族の名前は……焔之狐(ほのこ)一族って――」



「なんだって!?」



このまま紅汰もそっけない反応を示すだろうと思っていたオレだったが、予想外に紅汰の反応は大きかった。聞いたことのない一族の名前を聞いた途端、突然椅子を蹴り倒して立ち上がったのだ。紅汰の過剰な反応に、その場にいた全員が目を丸くした。当の紅汰は、そんなみんなのことは眼中にないようだ。驚愕の事実だったらしく、まっすぐに黒塚を眺め、語気を強めて問いただした。


「それ、マジなのか!?」

「ああ。マジマジ、大マジさ。僕が今回行くところのすぐそばに、焔之狐一族の隠れ里がある。嘘は言ってないよ」

それに黒塚は、おどけながら返した。それを聞くと、紅汰は机に身を乗り出して言った。

「だったら、オイラは行く! 行かせてくれ!!」

さっきまでのやる気のなさはどこに行ったのか、紅汰は懇願した。された方の黒塚は、してやったり顔で「もちろんいいよ」と承諾し事は進んでいたが、はっきり言ってオレは紅汰の態度の変わりように目を白黒させたままだった。右隣に座る楓に目配せを送ってみたが、彼女も首をかしげ「……私もよく分からない」と釈然としない様子だ。同様に左隣に座る勠也にも目配せしてみたが、勠也は口を開かずにただ首をひそめた。もし何か言ったとすれば、その言葉は「さあな」だったであろうと思う。二人ともオレと同じく、紅汰の変わりようが理解できてないようだ。


……焔之狐一族? さっぱり聞いたことがない。どういう一族なんだろうか……?


「……えっとぉ、確か紅汰君のお師匠様が、焔之狐一族だったよねぇ?」

あまり自信がなかったのか、歩美が確認を取るように言った。それを聞いて紅汰が目を輝かせた。

「ああそうさ! 師匠は焔之狐一族だって言ってた。てぇことは、その一族の里に行けば師匠に会えるかもしれねえんだ!」


「なんたって、十年くらい前に別れたきりだからな!」と拳をぐっと握りながら話す紅汰を見て、オレは納得した。普段から、事あるごとに『師匠』と言っていたので、紅汰がどれだけその『師匠』とらやらを尊敬しているのかは分かっていた。そしてその師匠とは、随分前から会ってない状態だったらしいということも。その師匠と会えるかもしれないというのだ。紅汰にとっては、夢にまで見たチャンスなのだろう。


オレには、そんな物事も人物もいないので、紅汰の気持の細部まで分かるわけではないが……まあ、この調子なら一人でも行くだろう。むしろそういう再会の場面って、一人でってのがセオリーなんじゃないか?


結局、紅汰にゆかりのあるらしい焔之狐一族の名前を聞いたところで、オレのモチベーションは上がらない。やっぱり、オレは不参加か。

他人事のように聞き流していると、不意に思わぬ振りが飛んできた。


「……でも、男二人でっていうのもさびしいから、ここはフルミナ君に一緒に来てもらうか」

「はぁっ!?」

全くの不意打ちに、オレはもたれていた椅子から転げ落ちそうになった。なんとか姿勢を戻して、黒塚を見やる。

「どうしてそこでオレになるんだ!」

すると黒塚は「だってー」と口をすぼめながら言った。

「同じこと言うけど、男二人で旅行なんて嫌じゃないか。そこはやっぱり女の子欲しいじゃない。でもみんな参加できないって言うしさ。でも、その中フルミナ君は、『みんな行かないなら、私も不参加でいいか』みたいな顔してたから」

「うっ……あ、いや。オレにだって予定があってだな……」

「へぇ、どんな?」

「えっ? ど、どんなって……。そりゃ…………色々だよ」

「……つまりは、ないってことだよね」

「なんでだよっ。いや、だから色々あってだな……」

「家で過ごすことの、どこが色々なのかなー?」

「あ、一人暮らしなめるなよ! 家事全般を一人でこなすのは、結構重労働なんだぞっ。休みで何もないとしてもだな、生活するのは大変なんだ!」

「やっぱり、なにもないんだね」

「うぐっ……」

オレなりに、必死に言い訳を積み立てようとねばってみたが、結局は墓穴を掘る結果になってしまった。黒塚と口でやりあって勝てるとは思えなかったが、まさか自滅してしまうとは。そう言う風に誘導されてしまったのだろうが、なんか悔しい。オレは言葉に詰まり、目を泳がせた。


「……あのねフルミナ君。この旅行は、僕のツテが使えるものでね。僕は色々としなければならないけど、僕以外には実質無料の贅沢な旅行なんだ。景色はきれいだし、温泉にも浸かれる。フルミナ君にとっては、その重労働とか言う家事を一時忘れることが出来るんだよ? ……たまには都会の雑踏を離れて、緑豊かなところで過ごすのもいいと思うなぁ、僕は」

不意に黒塚が諭すように言った。それが黒塚のとどめの一撃だったのだろう。その言葉は、渋っていたオレの心を揺さぶった。

「……」

オレはうつむき、葛藤するかのように唇をかんで思案気に顔をゆがめた。


……確かに、温泉と聞いた時から多少は魅力を感じていたのは事実だ。でも、問題はみんな行かないらしいということで……そうなると日がな一日黒塚の相手をしなくてはならなくなる。ストッパーの水穂や勠也がいない黒塚は危険な存在だ。オレにとっては、実害さえ被る。だから気が乗らない……のだが、無料で温泉に浸かれるらしいし、旅行自体長らく行っていなかったから、行きたいという思いもある。一応黒塚と二人だけってわけじゃないし、なにより個人的に温泉が魅力的だ。無料だっていうし……。あーくそ、どうしようかな……。……てか『女の子欲しい』て、オレ女じゃないし! いや女の子だけど、男だっての!



「…………わかった、行くよ」

「おお。フルミナ君ならそう言ってくれると思ってたよ!」

葛藤の末、オレはぼそりと参加の旨を伝えた。すると黒塚は喜色満面に両手を広げた。


「さぁて、フルミナ君も参加ということで、これで三人だね。他の子は無理だから、盆の旅行にはこの三人で行こう」

言いながら、机に手を置いて黒塚は立ち上がった。その後皆を見回す。

「さて、今日話したかったのはそれだけだよ。今日は早いけどこれで解散にしよう。夏目君、フルミナ君。詳しいことは、また後日メールするから。じゃ、お疲れ様―」

一度黒塚はオレと紅汰の方を眺め、その後いつもの解散の言葉を言った。解散後にも、これでよかったのだろうか、と若干思わなくもなかったが、結局何も言わずオレはいつも通り楓と勠也とともに生徒会室を後にした。悩むオレとは対照的に、紅汰は興奮気味にその日を期待している風であった。




そして数日後、黒塚からの詳細なメールが届き、予定通りオレと黒塚と紅汰は三人で旅行に行く手筈となった。


更新がかなり遅れてしまって申し訳ありませんでした。最近書けるだけの精神的余裕がなく、なかなか流れが思いつかなくて……。……言い訳がましくなってしまった……。


誤字、脱字、修正の指摘、感想をお待ちしています。

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