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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第二部 ガンスリンガー
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『後片付け』

「……まさカ、あんナ小娘にやられるトハナ」

学校の隣に位置する大きな林の中、その奥まったところにうっすらと黒い影があった。

「予想外にチカラヲとられテしまった。あいつラの魔力をもらウつもりだっタのにナ……」

その黒い影は声を発しているが、ノイズのかかったような声で、人間性がない。


当然だ。


なぜなら、その黒い影は人間ではなく、そもそも実体がないから。


黒い霧の集合のようなものが、ふわふわと中を漂っているのだ。その霧の集合がどこからかノイズのかかったような声を発していた。

「いい根城だったノだが……。仕方ナイ、別の根城を探すカ――」



「いや、それはちょっと出来ない注文かなー」

「!!」



黒い影は、不意に発せられた言葉に驚いた。ばっと、声のした方に視覚情報を集中させる。

「君の正体はそんな風だったのか」

「キサマは、……生徒会長、とかいったカ」

「……ソロナ君の中から見ていたのか。まあ、僕は結構有名だから見る機会もあったって感じかな」

黒い影の話す先には、いつものように朗らかな表情をしている黒塚が立っていた。

「……キサマ、私の前に生身でのこのこト現れたというコトガ、どういうことなのカ分かっているノカ……?」

黒い影が、挑戦的に言った。それに黒塚は首をすくめた。


「……君は基本的に『身体』というものを持たない。代わりに、なにかに憑依しそこから魔力を吸い取るか支配するかで生きながらえるんだよね。さっきまでソロナ君に……正確には、左手の銃に、かな……に乗り移っていたみたいにさ。それなりに魔力を有しているソロナ君の意識を乗っ取るなんて、君意外とやるよね」

「そこまデ知っておきながらワザワザ来るとは。……キサマ、正気か?」

目の前の黒塚からは、ソロナほどの魔力は感じない。つまり黒い影にとっては、ソロナ以上に憑依しやすいということになる。それなのに、黒塚は生身で特に対策も講じていない様子で目の前に現れた。もはや自分の体を捧げに来たようにしか思えなかった。


「失礼だなー。僕はいたって正気さ。萌えを追求するくらいにはね!」

しかし黒塚はそのような様子は見せず、いつも通り気楽な感じを捨てていない。逆に突然目に光を宿して、場違いなほど力強く言い放った。黒い影は小さく笑う。

「ククク……。いや、キサマは狂っている。分かって来ているノだろう? 確かに弱っている状況ダガ、キサマほどの魔力の持ち主ナラ、憑依するのハ造作もない。わざわざ憑依されに来たヤツを、狂っていないト誰が言える」

かかかかと、黒い影が耳障りな笑い声を立てた。その後ゆらりと揺れる。


「望み通り、我が糧としてくれヨウ!」


直後、暗い影が大きく広がった。そして何本もの太い筋になり、その筋が弧を描くように黒塚へと押し寄せてきた。

「……まあ、正直に言うと僕は狂ってるさ。そんなことは分かってる」

それだというのに、黒塚は平然としていた。なんの構えも取らずに苦笑いを浮かべて言う。

「……ただ――」

そしてぽつりとそうつぶやいて、うつむく。影の筋はもう目の前まで迫っていた。

そんな状況を目の前にして、うつむいたまま黒塚が口を開いた。


その口から発せられた言葉は、まるで氷のようだった。



「お前みたいな低級魔族に言われる筋合いはない」



直後、黒塚の目の前を何かの軌跡が横切った。その軌跡の上にいた影の筋が、突然力なく霧散していった。

「なっ!?」

黒い影は、するすると離れた場所で元の霧の集合体に戻った。人のような表情を垣間見ることは出来ないが、どことなく驚愕に打ちひしがれているようにも見える。

黒い影は見たのだ。


黒塚から、信じられないほどの闇の魔力が発せられているところを。


人間には思えない、黒い……まるで光の届かない海底のような深い闇の魔力だ。



「き、キサマっ。その力は!」

「……僕は、君のような醜い魔族が、反吐が出るほど嫌いでね」

ゆっくりと、黒塚が顔を上げた。

その瞳は、血のような紅に染まっていた。

黒い影は、思った。


押しつぶされるような闇の魔力。そして闇の中に浮かぶ紅の双眸……。まるで、魔王の眷属のようだ、と。


「フルミナ君をレベルアップさせるために泳がせていたけど、結局その役割すら果たしてくれなかったね。全く……使えない」

黒塚の右手には、いつの間にか背丈ほどもある大鎌が握られていた。黒塚はその大鎌を片手で弄ぶ。その顔には、何の感情も見受けられず、ただただ無表情だった。


「君の出番は終わりだよ。さっさと消えてくれ」


ジャキ、と黒塚が大鎌の先を黒い影に突き付けた。

「……ア、アア……っ」

黒い影は、圧倒されて身動きが取れなかった。影のゆらぎが激しくなる。

「……」

黒塚は冷たい目で黒い影を一瞥すると、ひどく感情が抜け落ちた表情で大鎌を振り払った。


「っ――――」


声にならない音を上げて、黒い影全体が霧散していった。

後に残ったのは、ごく自然な林の光景だけだった。黒い影の名残は、一切ない。


「……」

黒塚はしばらく黒い影がいた部分を眺めていたが、やがて小さく息を吐き、目を閉じた。そうすると、手に持っていた大鎌が魔力の粒子になって掻き消えた。



目を開けた時には、瞳の色はいつも通りの黒に戻っていた。


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