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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第一部 小さな英雄
6/64

日常乖離のきっかけ 5

……俳優男がオレの元を訪ねてきたのは、入院してから三日後のことだった。


「なっ……」

軽いノックの後に入ってきたそいつに、オレは目を疑った。


「……お前っ」

オレはベッドから跳ね起きようとした。だが、直後に走った痛みに軽い眩暈を覚えた。残念ながらベッドから体を起こすのが精いっぱいであった。

「……。何しにきやがった、てめぇ」

片手で頭を支えつつ、オレは俳優男をにらみつけた。


「……」

俳優男は感情の読めない目で、じっとオレを見つめる。

が、その直後オレはさっきとは違う理由で目を疑うことになる。


「……すまなかった」


なんと俳優男が頭を下げたのだ。

「なっ。……は、え?」

突然のことに、オレはただただ驚くばかりだった。


「い、一体どういうことだ?」

オレはとりあえず思いついた言葉をそのまま投げかける。すると俳優男は頭を上げ、

「お前にそのけがを負わせたことに対する謝罪だ」


「はぁ?」

ますます意味が分からない―いや、意味は分かるが理由が分からない。

「……なにかたくらんでいるのか?」

すぐには信用できず、オレは再びにらみつける。すると俳優男は軽く手を横に広げおどけて見せる。


「別に何もたくらんではいないさ。ただ単に落ち度がこちらにあると思っての謝罪だ」

「落ち度……?」

「そうだ」

俳優男は軽くうなずき、口を開いた。


「前にお前を連れ込んだのは、……ツンツン頭がお前にやられたと言っていたからだ。……が、実はそれだけじゃなかったようでな。聞くところによると、あのツンツン頭がカツアゲしてたところにお前が出くわしたそうじゃないか。しかも手を最初にあげたのはあいつの方らしいな。お前はただ不運な友人をかばっただけ。それだけ聞けばどちらに落ち度があるか、なんて明らかだろう? それを知らずに俺はお前を殴り飛ばすのに手を貸してしまった。……いまさら謝っても遅いだろうがな、……すまないとは思ってる。今なら二,三発食らっても文句は言わねぇよ」

そういって自分の頬を指でぽんぽんとたたいた。殴りたければ殴れ、と言っているのだろう。


それにオレは……。


「……ふーん、そうかよ。ま、友人じゃなかったんだけどな」


そういって再びベッドに横になった。俳優男は予想外とばかりに目を丸めた。

「……殴らないのか?」

「殴るわけないだろ」

聞いてくる俳優男にオレは面倒臭そうに答えた。


「わざわざ謝りに来たやつを、どうして殴らなきゃならないんだよ。逆にこっちが悪者になるだろうが。……オレもかっとなって殴り返したのも事実だし、もっと穏便に片づける方法もあったかもしれないのに、ケンカに持ち込んだのはオレのほうも一緒だ。無理に殴る権利はオレにはないよ」

……お前らが起こしてくれたきっかけのおかげで、少し歩き出す気持ちになれたのだ。こうなったことは正直憎らしいが、けがの功名でもある。そこには、……少し感謝してるかもしれんしな。


……そんなことを心の端で思いつつも口には出さず、もう言うことはないとばかりに、オレは寝返りを打って俳優男に背を向けた。

と――、


「っははははは!」


突然俳優男が笑い出した。何事! とオレが振り返ると、俳優男は面白そうにオレを見ていた。

「ははは。っお前、面白いやつだな!」

「な、なんだよ面白いって!?」

「言葉通りの意味だよ」

「はぁ?」

俳優男がくくっと笑う中、オレはただ首をかしげるばかりであった。


「……お前、名前は?」

ひとしきり笑った後、オレに向かってそう言った。

「ん、オレの名前?」

オレは脈絡のない問いに不審げに聞き返した。俳優男は気を悪くした風はなく、むしろ小馬鹿にするような様子で、


「そうだよ。まさか、自分の名前も分からないほど頭がダメになったわけじゃないだろ?」

「んなわけねえよ! ……オレの名前は宝条雷牙だ」

「雷牙……。またアレな名前だな」

「うっせ」

「ははは、三割ほど冗談だ」

「それはマジと言っても差しつかえないだろ!」

「ま、病室前に名前の札があったがな」

「……て、知ってたんかいっ」

「どちらか……と言わなくても知ってたな」

「うわ、何コイツ!?」

ははは、と俳優男は再度笑った。

「知ってたのは場所だけさ。名前はさっき確認した。どうして知ったのかは……まあ、ちょっとしたツテを使ってな」

「はい? ……ツテ?」

「おそらくすぐ知ることになるさ。おそらく、な」

俳優男は苦笑いを浮かべた。それにオレは眉をひそめるばかりだ。


「名乗らせるだけなのも気が引けるな。……俺の名前は氷室勠也(ひむろりくや)だ」

そしておもむろに自分も名乗る。そして小さく肩をすくめて、

「……まあ、これで俺の要件は済んだわけだ。そろそろおいとまさせてもらうぜ。……じゃあな、雷牙。早く治って彼女を安心させてやれよ」

「はぃ!? か、彼女ってなん――」


「……またな」


「あ、おいちょっと待っ――」

オレが止めるのも聞かず、俳優男―勠也はあっさりと病室を後にした。


「……なんなんだ、あいつ?」

若干呆れ気味にオレはつぶやく。昨日まで目の敵だったのにここにきてこれだ。そりゃ複雑な気分にもなる。途中の言葉意味わかんないし。


「……ん?」

ふとオレは勠也の言葉を思い出し、首をかしげる。


「……またな、て言ったかあいつ?」


またな……。……次にどこかで会うときのセリフだ。

……まあ、確かにいつか会うときもあるだろう。

しかしそれでもわざわざ『またな』なんて表現をするか? これじゃまるで近いうちに必ず会うみたいじゃないか。

「……なんなんだよホントに」

オレはただ、答えの出ない問いに早々に白旗を上げ、ため息をついた。


とりあえず、これらが入院中オレの気になったことだ。あとは至って暇な入院生活であった。


そうして搬送からちょうど一週間で、オレは晴れて退院の日を迎えた。一週間たっても変わってない―むしろ誰かさん(大方お隣のお節介さんだろうが。いや、それ以外は考えたくないな……)が掃除してきれいになっていた我が家を見て、オレはむずかゆい思いをしながら、「ただいま」と小さくつぶやいた。


家に入ってすぐに自室に向かう。そして自室のクローゼットをおもむろに開けた。

目当ての服を探す。

そして見つけた時に、久しく着ていないその服が全然傷んでいないことに軽く皮肉気に口元をゆがませた。小さな高揚感とともに少し大きな不安感がつのる。


明日は、これを着てみるか。



その視線の先には、古宮高校の男子制服が掛けてあった。


次回はついに学校に行けそうです。


1/25 指摘があり、雷牙が名乗ったあたりの場面を一部編集しました。



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