緑と紫の軌跡 3
「くっそ!」
オレは空中で一回転し、その後地面に着地すると舌打ちをした。オレの体中には、生傷が絶えない。正直、劣勢気味である。
「っ!?」
双剣を構える間もなく、魔法弾が次々と飛来してきた。オレは横方向に飛び、そこに飛んできたものを避けたが、魔法弾はやむことはない。そのまま横方向に走り出す。
「……距離を開けたら、これだからなっ」
すぐ後ろに着弾する音を聞きながら、オレは口元で詠唱をする。楓の援護待ちであったが、相手は楓の方にも不定期に魔法弾を飛ばしていた。楓はそれでうまく詠唱が出来ないでいる。
……くっ、前衛のオレがもっとしっかりしないとな。
「……プティサンダー!」
オレは走りながら、相手に切っ先を向けて言い放った。すると切っ先から筋状の光が生まれ、槍のようにソロナに襲い掛かった。ソロナは一瞬それに気を取られたようだったが、軽くステップを踏んだだけで回避した。
だが、オレにとっては、その一瞬で十分。
「だああぁぁ!!」
オレは『光速』を発動させる。すると足を踏み込んだ時に、足元でばちんと光が弾けた。
「……しつこいな」
ソロナはいたく不満げにつぶやいた。止めていた足を再び動かしだす。それをオレは真っ直ぐに追いかける。
ソロナはまるで風のように滑らかに動く。それに対し、オレは直線で動いている。なかなか思うように対峙することができない。
「……っ」
しかし、いざ攻撃できる間合いに入ったところで、オレはどうしても攻撃に力が入らないでいた。
『いやー、それにしてもこっちの夏は暑いんだね』
『そうだね、ここよりは絶対涼しいよ。まあ、私の実家がかなり田舎の方にあったからだろうけど』
『そう、すごいよ。すごく田舎だけど、その森がすごくてね。すごく広くて、毎日森の中を探索しても未だに全部回ったことないんだよ』
『……仮に私が『なにかしていた』として、貴様はその剣でどうしようというのだ? 偽物だとのたまって、この体を切り刻んでみるのか?』
「……出来るわけ、ないだろっ」
オレは吐き捨てるようにつぶやいた。
「ふ、甘いな貴様は」
「なに――」
それに対し、ソロナの反応は冷たいものだった。直後ソロナは動きを変え、唐突にオレの目の前へと接近してきた。オレは不意に目の前に動いてきたソロナに、とっさに右手に持っている銃を弾こうと左手の剣を振りあげた。だがその瞬間、ソロナが左手に持っていた銃を鳴らした。魔法弾はオレの左手の剣の腹にぶち当たり、剣が吹き飛ばされオレの後方の地面に突き刺さった。
「しま――」
オレはとっさに右手の剣を体の前に立てた。直後、オレの体は残った右手の銃から放たれた魔法弾を喰らい、地面を転がる羽目になった。
「くっ……うぅ……」
魔法弾はどうやら地属性だったようで、弱点でしかない雷属性では、魔法の威力を軽減させることはできなかった。地面に叩きつけられた衝撃の上に魔力にもあてられてしまい、オレはすぐには体が動かない。
「雷牙っ、きゃ!?」
楓が唱えていた魔法を発動させようとしたが、オレが地面を転がったのに気を取られ、発動させる前に魔法弾の対処をしなければならなくなった。集中の途切れた魔法は、小さな光の粒子となって霧散した。
「くそ……」
口の中を切ったのか、血の味を感じながらオレはつぶやく。ふらふらと、体を起こす。
先ほどから、似たようなパターンにはめられている。あっちは魔法弾を地属性に変え、こちらの攻撃を軽減させている。そして、厄介なのは左手の銃だった。オレの攻撃は基本右手の銃でいなし、オレに隙が出来たと思ったら、すかさず左手の銃を撃ってくる。機動の柔軟性はあっちの方が上なので、左手方向に回り込むことは難しい。あの左手の銃のせいで、オレは近づいても引きはがされるのだ。
その上オレは『ソロナ』を攻撃出来ないでいる。今のソロナが、何者かに操られているのではないかというのは、おおよそ見当がついている。近づくと、彼女のものとは思えない謎の魔力を感じるし、先ほど彼女自身が『フライハイトの人間』と、まるで他人事のように言ったことからも想像できる。
だが操られているとなると、体自体はソロナのものであるはずだ。迂闊に攻撃できないのは、そのせいだ。
「……どうしたら、いいんだよ!」
その時、魔法弾が飛んできた。オレは痛む体を引きずって、なんとか避ける。
「あ……」
一瞬、ふらっと体が揺れる。そろそろ魔力が足らなくなってきている証拠だ。
「ちぃっ」
それでも敵は待ってくれない。ソロナは次々と魔法弾を撃ってきた。それを体に鞭打って横に跳び、避ける。魔法弾の軌道上、弾かれた剣からは離されてしまった。
「……どうしたらいいんだ!?」
オレは必死に魔法弾を避ける――
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