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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第二部 ガンスリンガー
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緑と紫の軌跡 2

「っ!?」

紅汰は持ってきた弁当の中の白米を口に含む直前で、ぴたっとその動きを止めた。そして急に表情が強張らせ、教室の外を向いた。

「……ん? どうした紅汰?」

机を囲んで一緒に昼食をとっていた男子生徒の一人が、紅汰の変化に気づいて言った。

「……あ、いや何でもね、ってあー!」

聞いてきた男子生徒に応答しようと紅汰が振り返ると、その拍子に箸に挟んでいた白米が床に落下してしまった。

「何やってんだよお前―」

「そりゃお前、急に魔力を感じたから……」

「……は?」

「魔力……?」

友人たちが、床に落ちた白米を取ろうと横に身を乗り出した紅汰の一言に眉をひそめた。思わず口走ってしまった一言の異質さに、遅まきながら気が付いた紅汰は、慌てて訂正を入れる。

「え、あ、いや。ま、窓の外に変なもんが見えたんだよ。それに気を取られちまった」

「……あーよかった。ゲームのやりすぎで、カワイソウナことになったのかと思ったぜ」

「そうじゃなくても、成績かわいそうの一言なのにな」

「るせっ、それは関係ねーだろ!」


友人たちの毒舌に一言かみついた後、紅汰はちらと同じクラスにいる山城と歩美に目線を向けた。すると二人とも同じようなタイミングで紅汰に視線を送ってきた。正確には、目が見えない歩美はレオンの魔力を介して、オレの魔力を見ているのだが。……それで紅汰は、先ほどの感覚が気のせいではないということを悟った。


『勘の鈍いお主でも、気が付いたか』

不意に紅汰は声を聞いた。耳からではない。直接脳に響いてくる声であった。その声に紅汰は覚えがあった。

『なんだよレオン、オイラでもってっ』

『言葉通りの意味だ』

紅汰の脳に直接響いてきた声の主の名前は、レオンと言う。両目を閉じ、車いすに座っている少女、歩美が契約した聖獣――獅子だ。今は多くの一般の目があるので実体化していないが、魔力を媒介として、声を発せずとも会話ができる『念話』を通して紅汰と会話をしている。レオンが念話を行使しているときには、こちらも思い浮かべた台詞を、口を使わずそのまま相手に伝えることができる。


『で、なんなんだよこの魔力は?』

紅汰は椅子につきなおして、念話を続けた。

『我にも分からん。だが、一つ気掛かりがある』

「気掛かり?」

「は?」

「あ、何でもねえっ」

思わず口を開いてしまった。周りにいた友人たちから白い目で見られる。

『……いいかげんに慣れても良かろう』

『し、仕方ねえだろ! 苦手なんだよ念話!』

ため息すら聞こえてきそうなレオンの呆れ具合に、紅汰は慌てて言い訳をした。


『んなことより、気掛かりってなんだよ?』

口に何か含めばしゃべれないだろうと思い至った紅汰は、口いっぱいにものを詰め込む。友人たちがいよいよ「大丈夫かよコイツ」的な視線を送り始めてきたが、気にしない。

『……そうか。そういえばお主は、昨日あの場に居合わせなかったのだったな』

『昨日……? なんかあったのか?』

『……そうだな。とりあえずその昼食を片づけろ。魔力の源の場所まで行く。昨日のことは向かいながら話しをする』

『……分かった』

とりあえず口に含んでいたものを飲み込んで、紅汰はまだ多少残っている弁当のふたを閉めた。


「あ、わりぃ。オイラ生徒会室に行く用事を思い出したわ」

「突然だな、おい」

立ち上がった紅汰に、友人たちが不審げに眉をひそめた。それに苦笑いを返しながら、紅汰はさっさと弁当をしまい、その後ちらと山城を振り返った。「お前らも、後でいいから付いて来いよ」という考えをアイコンタクトで伝えようとしたのだ。山城はそれを察したのか、そそくさと近くにいた歩美に声をかけようと動き出した。それを見届けるか否かのタイミングで、紅汰は教室を出た。


「……何もないように見えるけどな」

廊下に出た後、北と中央の中庭からだというレオンの指示を聞いて、紅汰は廊下を歩きながら、窓の外の中庭を眺める。

『巧妙な結界のようだからな。……多少揺らぎが見えるようだが』

『オイラには分かんねえや。……で、昨日のあの場ってのは、オイラが一足先に帰った後のことか?』

『ああそうだ』

昨日紅汰は用事があり、いつも一緒に帰る山城や歩美とは別に、フルミナとの訓練が終わったらさっさと帰っていた。


『お主の帰った後、多少距離があったのかごく薄かったが、魔力を感じてな。氷の男に確認を取りに行かせたところ、小娘が何者かに襲われていたということがあったらしいのだ』

『襲われてた……らしい?』

『いかにも。我も直接その場には居合わせなかったのだ。歩美にも都合があったらしくな。我は実際には魔力を感じただけだ。その後の話は道化から聞いた』

『会長からか……。で、襲われたってのは、オイラ達の知らない魔法使いから?』

『らしいが……道化が言うには、そやつはここの学徒であるらしい』

『まじか! 魔力の暴走とかじゃなく、マジもんの魔法使いがオイラ達のまわりにまだいたってのか!?』

『どうもそうらしい』

驚きの情報に、紅汰の足が止まる。急に立ち止まった紅汰に不審げに視線を送ってくる者が何人かいたが、今はそれを気にしている余裕はなかった。


『……じゃあ、今のこの魔力ってのは……』

『……ああそうだ。我の気掛かりというのは、この魔力が昨日感じたものと同じであるこいうことだ』

紅汰は止めていた足を動かし始めた。今度は歩きではなく、走り始める。

『ということは、昨日と同じやつってことか。……狙いはフルミナか?』

『そこまでは分からん。実際にその場で検証してみないことにはな』

一階についた紅汰は、一気に連絡通路に飛び出した。すると連絡通路には、人影があった。

「か、会長。と、氷室じゃねえか」

連絡通路には、中庭を眺める黒塚と勠也の姿があった。最初紅汰に気が付いたのは、黒塚だった。


「やあ、夏目君。君もこの魔力に気が付いたんだね」

「なんだ、お前だけか。後の二人はどうした?」

続いて勠也が、紅汰の後ろに誰もいないことに気がついた。紅汰は肩越しに背後を見て、

「ああ、もうすぐあいつらも来るはずだ。……それより会長、一体どうなってるんだ?」

近づいたことにより、魔力に鈍い紅汰でもはっきりと魔力の元を感じることができた。

「この魔力……結界、だよな?」

「そうだね。それも、かなり高いレベルの、ね」

黒塚がちらりと中庭を見つめたのに合わせて、紅汰もそっちを振り返った。視線の先には、日が燦々と降り注ぐ見慣れた中庭があるだけだ。だが同時に、その見慣れた中庭から普通ではありえない魔力を感じる。

「中にいるのは、昨日フルミナを襲ったとか言う魔法使いか? しかもここの生徒の?」

「……事情はレオンから聞いたみたいだね」

黒塚は顎に手を当てた。じっと中庭を見つめる。


「確かにこの結界の作り主は、昨日フルミナ君を襲ったやつだよ。ここの生徒だって言うのも間違いはない。顔名前を把握してるからね」

「把握してるって……。え、それは前から知ってたってことか?」

「そうだね」

平然と言う黒塚に、紅汰は唖然とする。一体その情報はどこから仕入れてくるのだろうかと思う。一年黒塚を見てきたが、紅汰には黒塚の『底の深さ』が未だに分からなかった。

「じゃ、誰なんだよ。この結界を作ったのは?」

急かすように紅汰は聞いた。とそこで、中央の校舎から歩美の乗った車いすを押す山城が現れた。


「どういう状況だ、道化?」

姿が見えないが、今度はちゃんと耳からレオンの声が聞こえた。こういう芸当もレオンには―正式には契約した所謂召喚獣には、可能らしい。

「ふむ……」

言われて黒塚は一年の教室のある一角を仰ぎ見た。そこには、廊下の窓から水穂の姿が確認できた。彼女は黒塚が目線を送ってきたことを察知すると、両腕で胸の前で×印を作った。それを見て黒塚は小さく頷く。その後黒塚を囲んでいた生徒会役員の方を振り返る。


「現状は見ての通り、強固な結界が中庭に設置されている状況さ。壊せなくもないけど、これだけ一般の生徒の目がある中で、さらに結界を作って行動するのは、さすがに普通の人からでも分かる齟齬が生じてしまう可能性がある。例えば、この結界と新しい結界との境目の空間がが揺らいで見えたりとかね。つまり、僕たちの方から中にアクションを起こすのは難しいということさ」

「じゃ、どうしろって言うんだよ。人目がなくなる夜まで待てってか?」

紅汰が中庭を見ながらため息交じりに言う。すると黒塚が「まーまー」と紅汰の発言を抑えた。

「確かに、外にいる僕たちからは人目があって何もできないけど、幸いなことに、中にちゃんと生徒会役員がいてくれてるから」

「なんだって?」

言われて紅汰は周りを確認した。この場にいないのは、水穂と一年の二人だ。そして、水穂はさっき一年の教室前の廊下にいたから……。


「……って、一年二人かよ! 大丈夫なのか?」

「大丈夫さ。彼女たちなら、なんとかしてくれるよ」

自信あり気に言う黒塚だが、紅汰にはその言葉は信じられなかった。

確かに、二人のうち小さな方―フルミナとは、最近訓練で毎日相手をしている。だからある程度強いということは理解しているのだが、あくまで『ある程度』だ。紅汰の見方では、フルミナはただ速いだけけある。その速さが強さであり厄介なのだが、長くは持たないし、何より自分の属性がそこにしか活かされていないように感じる。雷属性の真価は、その速さと、攻撃力だ。彼女の攻撃は、手数は多いが非常に軽い。最近改善されてきてはいるが、まだまだ属性の強みを発揮しているとは言い難い。それにまだ火属性を習得している最中だ。火属性の扱いは……まあ、ひどい。


楓の方は、後衛であるということもあって、紅汰はあまり強さを知らない。光属性が強力なのは知っているが、まだまだ未熟な一年がそれを使いこなしているとは、到底思えない。考えてみれば、何度か魔力が足らなくて魔法を使った後ふら付くところを見たことがあった。不安が加速する。

「……じゃ、相手の方はどうなんだ? 強いのか?」

こうなったら、相手が似たようなレベルであるのを願うしかない。紅汰にとっては、初めての後輩たちだ。無残に負けるところは、あまり見たくない。


「んー、そうだねぇ。……はっきり言って強敵だね。おそらく夏目君でもそう簡単に勝てる相手じゃないと思うよ」

だというのに、黒塚はさらりとそう言ってのけた。

「……フルミナちゃんたちは、大丈夫なんですかぁ?」

同じように思ったのか、歩美が不安そうに言った。山城も無言だが、忙しなく中庭を見つめている。

「大丈夫さ。少なくとも、僕は必ず勝ってくれると思ってる」

二年生たちの不安な声を受けても、黒塚は相変わらず自信を揺らがせることはなかった。

「……くそっ」

紅汰は舌打ちして、中庭の方をにらんだ。そして歯がゆい気持ちを処理しきれないまま、拳をぐっと握った。


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