ソロナ・フライハイト 4
ソロナに連れられてきたのは、北と中央の校舎の間にある中庭の大きな木の陰であった。どうせなら、教室よりもう少しゆっくり出来る場所で食べよう。とのソロナの発言により、この場に行きついたのだ。こんな暑い中クーラーの効かない外で食べるのかよ。とも思ったが、意外と木陰に入ると風が程よく吹いてきて、人が多くあまりクーラーの効かない教室よりは過ごしやすく感じた。確かにここならゆっくりできるわ。
「意外と、木陰は涼しいんですね」
ぽすっと芝生の上に腰を下ろして、オレは感心そうにつぶやいた。するとソロナがうれしそうに言った。
「そうだよ。人の熱気が詰まった教室よりは、断然こっちの方がいいと思うなー」
「確かに」
オレはソロナに同意して、ビニール袋から小さく小分けされた袋を取り出した。中身は三角トースト。それを袋から半分取り出し、袋から出てない部分を掴んで頬張る。
最近は慣れてそうでもないのだが、この姿になって最初の内は、ここで口が小さくなったなぁと思ったものであった。男の時なら普通にかぶりついても、このトーストなら数口で平らげていたのに、今ではその時の倍くらいはかぶりつかないといけない。そのせいか楓とか勠也なんかと食べていると、食べ終わる時間に差が出ること出ること。
当初は何気に気にしていたが、今ではもう慣れてしまった。……慣れたら慣れたぶんだけ、男の時から離れて行くような気がして、気が気でないが。
「いやー、それにしてもこっちの夏は暑いんだね」
弁当箱を開けながら、苦笑いを浮かべてソロナはつぶやいた。
そうか、ソロナは本物の『留学生』だったな。……オレみたいな設定上の留学生ではなく。
「ソロナが住んでたところは、涼しかったんですか?」
口の中にあったトーストを飲み込み、次の一口に行く前にオレは軽くソロナのほうを見いて尋ねた。するとソロナが首をすくめて言った。
「そうだね、ここよりは絶対涼しいよ。まあ、私の実家がかなり田舎の方にあったからだろうけど。私が住んでたところは、すぐ近くに大きな森が隣接した小さな村だったの。こんな都会っぽい雰囲気とは縁がない、ね」
ぱくりと、ソロナは器用に箸を使って、小さな弁当の中の半分を占めていた白米をほおばった。
「へぇ、そうなんですか」
外国の人は箸が使えない、という軽い偏見を持っていたオレは、目を見張りながら口を動かし始めた。
「そう、すごいよ。すごく田舎だけど、その森がすごくてね。すごく広くて、毎日森の中を探索しても未だに全部回ったことないんだよ。それにそこでしか生息していない動物もいるの。……ここじゃ考えられないかもしれないけど、森に入って狩りなんかもしてたんだから」
「んむっ!? え、本当ですか?」
狩り!? いつの時代だよ。
口に含んだ直後だったので、すぐには声が出なかった。多少余裕ができたところでオレは口元に手を添えて、驚いた様子で声を上げた。ソロナは、うん、と頷いた。
「あんまり大きな声で言えないかもだけど。……銃を使うんだよ」
「……銃」
「そ、銃。小さな銃なんだけどね」
「こんな感じのね」と弁当を膝の上に置いて、両手で銃の形を示した。その様子からすると、長さ的には一五センチ程度ではないだろうか。
「銃って、衝撃すごいんじゃないですか?」
「そうだね、慣れるまではまともに撃つことすらできなかったよ。でも、慣れなのか単に筋力付いちゃったのか……どっちもだと思うけど、今は割と扱えるよ」
「銃扱えるなんて、こっちではおかしなことなのかもしれないけど」と苦笑して、ソロナは再び持ってきた弁当に箸をつけ始めた。
「……」
どんどん弁当の中身を空にしていくソロナを横目で見ながら、オレはふと何とも言えない違和感を覚えた。
なんだろう。なんなんだ、この違和感は。
オレはソロナから視線を外し、きょろきょろと軽く左右を見回して、最終的に内心首をかしげた。単に体調が良くないところからくる寒気かと一瞬思ったが、どうやらそうでもないらしいのだ。それではない、なにか。感覚的には、オレの周りを取り巻く空気が普通の空気じゃないかのような。
そこでオレははっと気が付いた。
周りの音が、消えていることに。
今オレたちがいる場所は、校舎の間にある中庭だ。どの教室もクーラーの効きが悪いのか、窓が全開なところが多い。さっきまでは、その各教室内の喧騒がこちらまで降り注いでいた。
それが今は、ぱったりとやんでいた。
教室の中には、生徒の姿が遠目からでも見て取れる。口を動かし笑いあっているのが見える。だが、その声はここまでは届いていない。まるで何かに遮断されているかのように――。
「……っ!?」
不意に世界に影が差した。あたりが薄く色褪せる。それとともに、膨大な魔力の流れを感じた。
すぐ、横から。
オレは横――ソロナの方を振り返った。そこで見たのは。
「な、に……!」
弁当を地面にぶちまけ、右手で頭を抱えうつむいたソロナが。
その左手で、黒塗りの銃口をオレに突き付けている姿だった。
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