表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第二部 ガンスリンガー
51/64

ソロナ・フライハイト 2

「……ん」

不意に勠也が全開に開けられた窓の窓枠に手をかけ、外の一点を見つめ始めた。


「……なんかあったのか?」

オレは、腕に顔をうずめながらも横目で勠也の様子を眺めていたので、勠也の変化に気付いた。何気なしに問いかける。

「……あいつ、におうな」

「?」


聞いたところで、勠也からはそんなつぶやきしか聞けなかった。あまり乗り気じゃなかったが、勠也の表情が引き締まっていたので、どっこらせとイスから体を離し重い足取りで勠也の隣に並ぶ。

「なにがにおうって?」

オレは同じく窓枠に手をかけて、一度窓の外を見回してみる。かっと強い太陽の光が体に降り注ぎはじめ、思わずオレは顔をしかめてしまった。


室内でも暑かったのに、日差しのもとはそれ以上だな……。


軽く目を細める。ぞろぞろと生徒たちが校舎に入っていく様子が見て取れた。彼らは暑そうにタオルで顔を拭ったり、袖で汗をぬぐったりしていて、なかにはうちわを持参して扇いでいるやつもいた。うだるような暑さの中、みんな顔をしかめているが、別に最近よく見かける光景だ。どこもにおうなんてことはない。……汗のにおいならしそうだけどな。


「あいつだよ。あの茶髪で外国人の女生徒」

そう言って勠也がとある一角を指さす。オレは目で勠也の示す先を追った。そうすると、数人の女子生徒の集団の中に、確かに勠也の言う茶髪で外国人の女生徒を見つけることができた。

オレは「ああ」と声を上げた。その女生徒の名前をオレは知っていた。というか、会話もしたことがある。

「ソロナがどうしたって?」

オレが捉えた女子生徒は、学年内……いや、おそらく学校内でオレと並んで唯一『留学生』という括りにされる、先月この学校に入ってきた茶髪翠目の少女ソロナだった。


「知ってんのか?」

「ん、まあな。てか、お前も噂くらい聞いたことあるだろ。あの子が隣のクラス……下の階のな……に来た留学生だよ。名前はソロナ。ソロナ……フライハイト、だっけ? とにかくそいつ」

「ふぅん。あいつが、か……」

それを聞くと、なにやら勠也が考え込み始めた。


「……なんだよ?」

オレがそう言うと、ちらと勠也が見下ろしてきた。

「……そうか、お前はなにも感じないか」

「だから何がだよ……」

ジト目でオレは勠也を見上げる。まったく、いつも思うけど背高いなこいつ。……今現在オレが小さい、ということもあるんだけど。


そうすると、勠也は渋い顔をしながら視線を窓の外に戻す。

「なんて言うべきか悩むが……。強いて言うなら、不自然に自然というか……」

「……わけわかんないんだけどー」

ずるずるとオレはひざを折って窓枠に腕を置き、その上に顎を乗せた。窓枠は触れられないほどではないにしても、ちょっぴり熱を持っていた。その体勢になった後、若干後悔。そして体を下げた分、窓の外の視界が狭くなり、窓枠の陰にソロナを含んだ集団が隠れてしまった。


「……気にしすぎか? ……疲れてるな、俺も」

すうっと勠也が窓枠から手を離した。完全にソロナたちが校舎の中に入ってしまったらしい。

「ま、頭の片隅にでも置いておいてくれ。無視するには、個人的に怪しいと感じるからな」

そう言い残して、勠也はさっさと窓から離れ机に戻った。


「お前がそこまで言うなら、考えとくよ」

オレも窓枠から体を離した。同じく自分の机につく。朝のホームルームまで多少時間がある。オレはそれまで体を休めるべく、再びべったりと机に突っ伏した。



   ††††



「……どうしよう、この展開」

オレは先ほど買ってきたパンの入ったビニール袋を片手に持ちながら、廊下をとぼとぼと歩いていた。

基本的にオレの昼飯は、この購買のパンだ。昼時の購買は激戦区なため、手に入るパンはその日によってまちまちだ。今日はクリームパンと三角トースト、あと牛乳。もう一品くらい欲しかった気もするが、この体にはそれでも十分であることを、オレもそろそろ自覚し始めていた。

「どうしたものか……」

そして今オレが悩んでいるのは、パンのことではない。


「一緒に食うやつがいない……」


そう、今日は一人で昼食を済ませなければならなかったのだ。

いつも、オレは楓と勠也の三人で一緒に食べている。時々勠也が黒塚に呼ばれるときがあるのだが、そんな時は愛梨や小夜も加わってくる。勠也がいる時は、大方魔法とかそう言う話で盛り上が(といっても、怪しまれないように表面上ゲームの話っぽく見せてる)り、愛梨や小夜がいる時は、とりとめのないいろいろな話で盛り上がる。


大体はそう言う感じで過ごしてきたのだが、今日は勠也が黒塚のところに行き、楓があまりに体調が悪そうな様子だったので、現在保健室で休んでいて、とどめに愛梨や小夜たちは部活の招集を受けていた。

つまり、いつもの面子が誰もいないのである。


「……教室で一人で食うか」


オレはこんな珍しい格好をしているので、様々な奴から声をかけられる。いつもは楓なり勠也なり、誰か隣にいるからそうでもないのだが、今は一人。大いに声をかけられる可能性がある。オレはあんまりそう言うのが好きではない。どちらにせよ教室しか選択肢はないのだ。思わずため息が出てしまう。



「あ、フルミナちゃん」



不意に廊下を歩いていると、横から声をかけられた。


誤字、脱字、修正の指摘、感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ