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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第二部 ガンスリンガー
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ソロナ・フライハイト 1

『…………』


そろそろ夏休みが目前ということで、少々浮足立った教室。やれ暑いだのクーラー効いてないぞだの不満の声があるが、あちこちから休み中の計画の話が湧き上がり、おおむね楽しそうだ。

……が、ここに休み直前にある期末テストの存在についての話題を振りかけると、途端に雰囲気は沈み込んでしまうかもしれない。そんなことしないけども。


そんな中、誰とも話さずにただ机に突っ伏す者がいた。それも二人。


一人は、このクラスの委員長をしておりクラス内の信頼が厚い少女、日向楓である。その楓は、集まる友人たちに心配そうに声をかけられ、気さくに返事をしている。が、顔は半分以上机上に投げた腕に沈んでいる。相当疲労がたまっているようで辛そうだ。それを見ると、『気さくに』と言うよりは『辛うじて』の方が正しいようにも思えてくる。


そしてもう一人はというと……。



「どうしたふーちゃん。やけに疲れてるぞ?」

「昨日なんかあったの?」

「…………」

もう一人は留学生のフルミナ・レーゲン――まあ、オレだ。


オレは心配、というよりは好奇心が先行している様子で話しかけてくる友人、元気娘の瀬川愛梨と女版黒塚(勝手に命名)の南原小夜に無言を貫いた。……どちらかと言うと、答える元気がないというのが本音だが。

「……。何があったと思う、小夜?」

「私が知るわけないじゃない。昨日の怪我の話は、大したことないってメール来たでしょ、そっちも。それじゃないわよね。その上楓の方も元気ないみたいだし……何があったんでしょうね?」

二人で顔を見合わせて愛梨と小夜は首をかしげる。だが、いくら考えても答えは出ない。


……真相は本人たちに聞くしかない。


そう思ったのか……、



「……起きろー!」

「ぎゃぁぁちょちょっはははは!!」



突然愛梨のやつが背後に回り込んできて、がら空きのオレの脇をくすぐってきやがった。

「ほれほれ何があったー!」

くすぐりながら愛梨は、その怪力を活かしてオレを拘束してくる。

「いやちょっ、放せっ、は、放してくださいぃー!!」


なんとかオレも愛梨の拘束を解こうと、躍起になってくすぐってくる腕を振り切ろうとする。が、これがなかなかうまくいかない。……というよりも、愛梨の怪力と力のいなし方が神がかっている。いくらオレがもがこうと、腕が離れるどころか、オレのブラウスがどんどんめくれたり、スカートがめくれあがったりするだけだった。オレの小さなへそや細く白い太ももが見えるたびに、付近の男子が生唾を飲む音がイヤに聞こえてきた。


「……なんだ、意外と元気そうじゃないか」

不意に半笑いで、そんな言葉が横からかかった。その声の主は愛梨や小夜ではない。その証拠に、愛梨は声の主の登場に「お」と小さく驚きの声を上げて、くすぐっていた両手の拘束を緩めた。間髪入れずオレは大きく体をゆすって、一気に愛梨の腕を外した。


まあ『声の主』なんて大仰な表し方をしているけれど、オレは声を聞いてすぐに誰か予想はついていた。

「……ど、どこ見てそんなこと言ってんだ、……言ってるんですか、勠也?」

身体を折りたたみ、今にも死にかけそうな物言いでオレは声の主――勠也を見上げた。見ると勠也は、いつも通り皮肉気な笑みを浮かべていた。どこも悪そうに見えないし、疲れているようにも見えない。


「……なんでそんな元気なの……」

ゆっくりと服の乱れを整えながら、オレはいかにも疲れた様子でつぶやく。

「ん? 見せないだけで意外と疲れてるぜ、俺も」

ズボンのポケットに両手を突っ込んで、勠也は首をひそめた。

「ま、感覚としてはお前らほどじゃないかもな。それなりに場数は踏んできたし。ああそれと、なんかあいつら遠慮して離れて行ったぜ?」

「ん? ……ああ」

その言葉を聞いて、オレは口調を男っぽいものに変えた。

勠也の言った通り、さっきまでオレを取り囲んでいた愛梨と小夜は、いつの間にかオレから離れていた。離れていながらも観察する気満々のようだが。

どうやら彼女らは、オレが勠也に気があると勘違いしているようだ。


「……そんなんじゃ、ないんだけどなぁ」

オレからすれば、その勘違いは正直やめていただきたいという感じだ。

こんな姿をしているが、今でもオレは、自分は男だと思っている。なのに男である勠也とデキてるとか……エンガチョである。

「心配すんな。俺はお前には一切そういう気は持ってねえから」

「……持ってたら困るっつーの」

オレはジト目で勠也をひとにらみした後、はぁぁと大きくため息をついて再び机に突っ伏した。


「あー、全身が死ぬほどだるい……。……見栄張って来るんじゃなかったぜ……」

「約束通り褒めてやるよ。よく来たな」

「……んな投げやりな褒め言葉なんていらねえっての。オレも楓もこんな感じなのに……ホント、なんでお前はそんな元気なんだよ?」

オレは突っ伏したまま横目で勠也を見上げた。勠也はやれやれと首をひそめる。


何故こんなにもオレと楓が疲弊しきっているのか。その理由は昨日……ぶっちゃけつい数時間前までのことが原因だ。



   ††††



昨日生徒会室で、例の二丁拳銃の魔法使いへの対策として『扉』を使うという話になった。メンバーはその場にいたオレ、楓、勠也、黒塚、水穂の五人。『扉』は学校にはなく、割と近くにある一見ただのオフィスビルに見える建物の地下にあった。

まあ中も普通に事務所とかが入っているようだったが、聞くとどれもそっちの世界――魔法のある世界で働く団体のものらしい。受付の女性に一言二言黒塚が言うと、オレたちは『扉』があるという地下への入り口に通された。その入り口には結界が張ってあって、常人には見えないような作りになっていた。結界はオレにとって案内がなければ見つけられなかったほど精巧で、「いずれはこういうのにも気づくようになってほしいね」というのは黒塚の言。こういうのって、やっぱり感覚……第六感(シックスセンス)とやらがものをいうのだろうか。あるいは経験? そう聞くと、黒塚曰く「どっちも」だそうだ。あーそうですか。


地下は学校にあるものと構造が似ていた。だだっ広く、整備された白い床や壁が、どこからともなく差してくる光を受けて輝く。その地下空間の奥に『扉』はあった。

奥の壁一面に見上げるほど高く大きく作られていた門『扉』は、印象としては荘厳、といった感じか。いくつもの魔法陣が複雑に絡み合って彫られ、幾何学アートだなとオレは思った。


まあ、のんきに辺りの散策が出来たのはそこまでだった。その『扉』に、黒塚が手をかざし何か唱えると、門が光を放ち始めた。光は最初きれいな白色だったが、すぐに色がくすみ始め、やがて光とは呼べない影のようなものが、門からあふれ出した。そして、門の先から何かの唸り声が辺りに響く。

「さあ、戦闘を始めようか!」

黒塚のその言葉の直後、門が開き、中から大きな翼の生えた長い龍が姿を現した。



   ††††



「……最初海龍とか言う水の化身だったろ? で、次が変なでっかい亀みたいなやつで、地……そして今度は風属性のでっかい鳥みたいなのと戦ってさ。最後は、変な巨人だったな、雷使う。……そんなやつらと、戦ってたんだぞ? つい数時間前まで! こちとらもうへろへろなのにさ、黒塚のやつ倒した端からどんどん呼びやがって。……何度死にかけたことか。最後にはオレも楓も立つのがやっとの状況だったんだぞ? ……同じく戦ってたお前は、なんでそんな元気なんだよぅ」

「経験の差だよ。俺は連戦ってやつは初めてじゃなかった。だから加減を知ってたのさ。……それに何度も言うが、俺も一応疲れてはいるぞ? 見せてないだけで」

「あー帰りたい! 帰って死んだように眠りたい……」

頭を机に投げだした両腕の内でぶんぶんと左右に振りながら、オレは今にも泣きそうな声で呻いた。勠也も苦笑いで「気持ちはわかるがな……」となんとなく窓の外を眺めた。


何度も遅れて申し訳ない……。


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