飛び道具の申し子 3
「……そうかも、知れないけど」
勠也の言うことももっともだ。
この生徒会のメンバーで前……前衛と呼ばれる場所で戦うのはオレを除くと、勠也・紅汰・山城の三人。あと、臨機応変にレオンが参加するくらいだ。これらの中で、あの風使いに追いつけるのはオレくらいだろう。オレなら、追い付くどころか追い抜くことも可能なはずだ。
付け加えて、彼女は最低四色の属性弾も扱えるらしい。単色で戦う彼らは、さらに条件が厳しくなるわけだ。間違いなく苦手な属性の弾が飛んでくる。だが、オレはどの属性にも順応できる予定――ホント予定でしかないが――だ。これらを見ても、今回の敵にオレが最も適任なのは、明らかだと思う。
が、しかしである。
問題は、そのオレが本気を出していないそいつと戦った結果が、『これだ』ということ。
はっきり言って、今のオレじゃあいつには勝てないだろう。魔法も、戦い方さえもオレはまだ模索中なのに、あそこまで熟達した戦いをするやつにかなうはずがない。
そういうネガティブな思想が渦巻いた中での、かすれるような返事であったのだが……。
「じゃ、今回の要もフルミナ君で決まりだね」
……だというのに、黒塚のやつはあっさりとそう言って手を叩いた。
「っ!?」
オレはバッと黒塚の方を振り向いた。
「相手は遠距離攻撃が得意な後衛……いや、立ち位置的には中衛か。だから本来は前衛みんなで叩きたいところだけど、相手の速さについて行けれないんじゃ意味がない。今回は、前衛をフルミナ君一人に任せようと思う」
オレは驚きを隠せない様子で呆然と黒塚を見た。
理屈的には、分からなくもない。武器が二丁拳銃なのを考えると、剣や槍などと正面切って戦うのは不利なはず。だから前衛で畳み掛けるのは、こちらの前衛の数を考えても有効な策だろう。
しかし、先方はとてつもなく速い。前衛の大部分は、この速さの前に二の足を踏んでしまう。……オレ一人を除いて。
だが、それなら魔法で攻めればよいのではないか? 魔法は何も単体だけのものばかりじゃない。現に光属性を使える楓の得意魔法の『レイ』は、広範囲に光の槍を飛ばす範囲魔法だ。それだけでなく、おそらく水穂も範囲魔法をもっているはずなのだ。
……にもかかわらず、黒塚は魔法そっちのけで、明らかに荷が重いであろうオレ一人に任せようというのだ。
この生徒会メンバーの力量を把握しているはずの黒塚が、そんなあまりにも無謀――自分で言うのもなんだが――な決断をするとは思わなかった。
「かいちょ――」
「もちろん、範囲魔法重視の戦法も考えた。それを踏まえた上で、僕は君に任せると言っているのさ」
オレの言いたいことを先読みしたのか、あるいは口にした当初からその質問が来ることが分かっていたのか……。黒塚は、オレの言葉を遮って頑なな様子でそう言った。
「どうしてだよ? ……正直に言うと悔しいけど、オレじゃ勝ち目はないぞ」
「『今の』君じゃ、確かに勝ち目はないね」
それでも納得できないとオレが物申すと、黒塚は不敵に微笑んだ。
「……」
……なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「……なんかするのか、オレに……?」
オレはとりあえず、その嫌な予感を出来れば払拭したいという念を込めて、黒塚に確認をとった。
「んや、そういうわけではないよ」という答えを望んでいたオレだったが
「まあ、当たらずも遠からずってとこかなー」
なんとも評価し辛いコメントが返ってきた。
「……意味わからないんだが」
そう言いつつ、オレは若干返事を警戒しながら待つ。先ほどの言いようだと、『オレに何かする』という可能性がゼロではないからだ。
……一体なにをされるのやら。黒塚の企みは基本ロクなものじゃない(経験談)。
「んー、本来はもう少しゆっくりと段階を踏みたかったけど、先方は近いうち……下手すれば明日にでもまた攻めてくるだろうからね。そうも言ってられない」
少し悩む素振りを見せた黒塚だったが、やがてふっと破顔すると、オレの傍まで寄ってきて腰を下げた。
「最後は君の土壇場の爆発力にかかってるよ」
そう言って、オレの頭を撫でようとしたのか手を伸ばしてきた。
「……だから、意味わからんって言ってるだろ」
その手をオレはばしんとはたきおとす。
「……どうして勠也には触らせて、僕だけはそういう扱いなの?」
はたかれた手を体の前に抱えるようにしながら、黒塚はひどく悲しそうな顔をした。ふんとオレは鼻を鳴らして、じろと黒塚をにらみつけた。
「身の危険を感じるから」
「そんな、人を変人みたいに! ねえ、ひどいと思わない勠也?」
「自業自得だ」
「ぐっ、ど、どう思う瑞希君?」
「通報されないだけましでしょう」
「ぐっはぁー!」
黒塚は大げさに後方に転がる。それに楓が微妙な表情をしたが、横にいた勠也が「いいんだよ」と面倒臭げにつぶやいた。
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