表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第二部 ガンスリンガー
44/64

謎の風魔法使い 4

「イエロスピアっ!」


謎のガラスの破砕音のようなものがしたすぐ後、今度は男の声が聞こえた。カチっと水が固まる音が聞こえ、次の瞬間には、それが弾けるような音がした。すると近くの木の一本が、ぐらっと傾いた。そしてがさがさがさ! とけたたましい音を響かせながら、ゆっくりとその木は倒れてしまった。


突然のことに、オレはしばし呆然とする。集中が解けて、シュインと両手の双剣が小さな音を立てて霧散した。

「な……にが、起こってるんだ?」

オレの口から思わずそんな言葉が漏れる。その時、バンバンと複数の銃撃音が響いた。その音にさっと現実に戻されたオレだったが、一向に弾が飛んでこないところを見るに、その音はオレの方に向けたものではないようだ。どうやら風魔法を使う相手は、突然乱入してきた男に集中しているのだろう。ほんの少し気の余裕ができたところで、オレはふと疑問を覚えた。


イエロスピア(あの魔法)は……。


突然乱入してきた男の声のやつが使った魔法――イエロスピア。オレはそれを見たことがあった。

大きさはある程度自由に変えられるらしいが、氷柱つららを作り出し相手にぶつける……氷属性の初歩の魔法だ。氷属性を得意としている勠也が、試しに見せてくれた魔法であった。


「……まさか、勠也が?」


その時、がさがさと木々の上から大きな音がした。その音は、だんだんと遠ざかっていく。まるで、なにかが逃げるみたいに……。



「よう、大丈夫だったか雷牙?」



音のした方を凝視していたら、不意に聞いたことのある皮肉気な声と、日が少なく薄いが、大きな影がオレに落とされた。オレはそのまま視線を真上に向ける。

見えたのは、小さく口元に笑みを浮かべ、大剣を肩に担いだ勠也の姿だった。


「り、勠也。……やっぱりさっきの魔法はお前だったのか」

「イエロスピアか」

「そうそう」

「……残念ながら、外されちまったがな」

そう言いつつ、勠也は何か――おそらくあの古宮高校の女子用制服を着た少女であろうが――が離れていった方向を眺めて、小さく嘆息した。


「なんだったんだろう、今のやつ……?」

オレも同じく少女の逃げた方向を眺め、つぶやく。

「さあな」

勠也はそっけなく答えた。おそらく彼もうまく状況が呑み込めていないのだろう。


「……ところで、どうして勠也はここに? お前も近く通って魔力波を感じたのか?」

明後日の方角から視線を外し、オレは勠也の顔を見上げた。勠也は横目でこちらを見下ろしながら言った。

「いや、俺のほうはレオンがその魔力波を感じたらしくてな。確認がてら寄ってみたら、結界が張ってあった。切り破ったら、あいつとお前が戦ってたってわけだ」

「そうか……」

言いつつオレはなんとなく視線を下の方に下げる。


「……お前は、結構手痛くやられたみたいだな」

小さな光を放ちながら勠也の大剣が消える。大剣を魔力の粒子に還元して、体内に取り込んだのだ。そのまま勠也は腰をかがめた。

「……そんなやられてないし」

「強がんなって」

「強がってなんか……むぐ」


不意に勠也がオレの口元を手の親指で拭う。赤くなって抗議の声を上げようとしたところで、オレはその勠也が拭った指先に血がついているのをとらえた。一体なんの血だと考え始めたところで、オレは口の中に血の味が広がっていることに初めて気が付いた。どうやらその一部が、よだれよろしく垂れていたらしい。

「あ……」

「さっきからお前の体が力が入ってなさそうだからな。おおかた木に叩きつけられでもしたんだろう?」

言いつつ勠也は、ズボンのポケットからシックなハンカチを取り出した。


「ま、拭いとけ。まだ残ってるから」

「あ、……ありがと」

オレは礼を言いつつ差し出されたハンカチに手を差し伸べる。ただ手を伸ばしているだけなのに、嫌に腕が震えた。


「あ――」


手をかけたハンカチがするりと落ちて、思わず声が出た。慌てて地面に落ちたハンカチを取ろうと手を伸ばし――



……伸ばせなかった。



「あ……、え」

腕の震えが激しく、震えが体全体にも伝播したからだ。


「ちょ、なんで……」


オレは驚きの表情を浮かべて震える自分の体を抱いた。(はた)から見たら、青い顔で小動物のように震えるその様子は、ひどく脆い印象を受けるであろう。

「なんなんだよ、一体……」

自分の体に何が起こっているのか分からない。何故だか、震えは止まらなかった。

「…………」

勠也はさてどうしたものか、といった様子で頭を掻いた。



「……恐怖、だな」



不意に、勠也がぽつんとつぶやいた。

「きょう……ふ?」

「ようやっと体が――意識が気づきだしたのさ。自分が殺されそうだった、ってことにな」

勠也はぽんと、呆けたように自分を見るオレの頭に手を置いた。


「昨夜の討伐のときも、もちろんそういうのがあったんだろうが、まだ『この世界』に慣れていないお前にとっては、どうしても『リアル感』が薄かったはずだ。それに対して今回のは相手が人間だったし、魔法用に改造されたモンなんだろうが、武器は銃だった。魔物なんてファンタジックな存在よりも、ずっとリアルに恐怖したはずさ」

ぐしぐしと勠也がオレの頭を撫でる。

「ま、安心しろ。とりあえず相手は逃げて行った。もう怖いもんはねえよ」



勠也の撫では、オレの震えが落ち着くまで続いた。


誤字、脱字、修正の指摘、感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ