謎の風魔法使い 3
「っ、誰だてめえ!? 姿を見せろ!!」
オレは慣れない実戦のにおいを感じ、小さく冷や汗が出るのを感じながら、声を張り上げる。
「流れに沿ってこんなところまで来たが……正解だったのかもな……」
淡々とした口調で、少女のような声音だ。その声が林の奥から響いてくるが、肝心の姿が見えない。話ができるということは、人間なのか……いや、よく考えたらレオンのように人外でも言葉を話すものがいるのだ。
とりあえず、姿は見せないか。……こんな林の中だ。どこに潜んでいるか分からない。オレはぐっと双剣を握る。
どうする……あれだけ光弾が飛んできたんだ、オレの位置はあっちにばれてる。遠距離攻撃がやけに精確みたいだし……動いた方が得策か。
ちらと右横を見る。ほどよくすぐ横に木々の間隙が見て取れた。しめたとばかりに、オレはそこに一歩踏み出そうと――
「…………!」
――踏み出そうとした直前に、ふとかすかに林の奥から声がするのに気が付き、動きを止めた。不審げに耳をそばだてる。
すぐにその声の正体に気が付いた。
これは……詠唱!?
「エアースラッシュ!」
「くそっ!?」
反射的にオレは、木々の隙間に転がり込む。一瞬後、今までオレの立っていたところの地面で轟音が上がった。転がった先で倒れたまま振り向くと、オレが先ほど立っていた場所に、まるで刃物を振り下ろしたかのような、深々く鋭利な溝が作られているのが見て取れた。ざざざっとあたりの木々が嵐を受けたかのように揺れる。
「エアー……空気っ、風魔法か!」
オレは瞬時に起き上がり、林の中に身を隠しながら走る。逃がさんとばかりに、光弾が何発か足元をかすめていった。
「風か……初めて見た」
オレは出来るだけ音の立たないように走ろうと努めたが、それに反して辺りにがさがさと大きな音が立つ。苛立ちを覚えつつも、驚きに思わずつぶやきが漏れた。
風魔法については、実物を見たことがなかった。生徒会のメンバーに、風魔法を得意とした生徒がいないからだ。水穂が多少使うことが出来るのだが、『使えるだけ』なので見る機会はくれなかった。だから今見た魔法が、初めての風魔法だった。
「随分と威力がありそうだなオイ……っ!」
バシンと、すぐそばの木から光弾が弾ける音がした。オレは舌打ちをして、走るスピードを上げた。木々はさほど密に並んでいるわけではないが、油断すると木々にぶつかりそうになる。問題はぶつかりそうになるだけではない。時々木の枝などが、抜身の腕などに容赦なく傷を作る。
「くそっ、走り辛いなっ――」
ばしんと目の前の枝を払い落しながら毒づいたところ、不意にガッと足先が木の根に引っかかってしまった。オレはなす術なく前のめりに倒れた。先ほどまでの走っていた時の草をかき分ける音とは違う音が辺りに響く。
それを聞き分けたのか、はたまたオレが走っている軌跡が見えていたのか、オレが体を起こす頃には、先ほどまでのものよりも二回りほど大きな光弾が、木々の間のわずかな隙間をくぐり目前に迫っていた。
「このっ!」
オレは避けるのは無理と悟り、膝立をすると同時に左の双剣を光弾目がけて切り上げた。すると光弾は、先ほどまでとは違い、切り口からぐにゃりと歪み大きく拡散した。
「っがぁ!?」
拡散した光弾は、とてつもない暴風としてオレに押し寄せた。やすやすとオレの体はその暴風に吹き飛ばされ、後ろにあった細木に叩きつけられる。ミシっと細木から軋みが聞こえた。
「く……」
すぐに立ち上がろうとしたが、腰を強く打ち頭が揺さぶられた影響で、しりもちをついた状態から起き上がれない。
バババッ
そこに割と近くから銃声のような音が響く。かと思ったら再び小さな光弾が三発飛んできた。
オレは上の方に来た光弾を頭を反らして避け、残り二つをなんとか右手で叩き落とす。そして小さく口元で言葉を紡ぎ、空いていた左の双剣を光弾の飛んできた方に向けて言い放つ。
「プティサンダー!」
言い終わると左手から魔力が放たれる感触がした。魔力は小さな筋状の光となり、槍のように林の奥に光弾以上の速さで伸びていった。
「……っ」
すぐ近くから、少女のうめき声がかすかに聞こえた。どうやら場所はあっていたらしい。ザッと草むらをかき分ける音がして、木々の間から一瞬向こうの姿が確認できた。
見えたのは、長い緑色の髪、わずかに差し込むささやかな日の光の中で怪しくきらめく銃と……。
古宮高校の女子用制服であった。
「な……」
まさか、高校内に生徒会以外で魔法使いがいたのか!
オレが驚愕に包まれていると、不意にガラスを割ったような音が林に響いた。
この話を投稿するのに合わせて、今までの話にサブタイトルを付けました。ちょっとは見栄えするといいなぁ……。
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