謎の風魔法使い 2
結論――
「……なにふーちゃん、その右手の包帯?」
「いえ、ちょっとした不手際で怪我をね……」
うまく制御出来ず、多少の火傷を負うことになりなした。
……大惨事にはならなかったが、地味に痛い。このくらいの傷じゃ、水穂先輩も魔法で治療してくれなかったし……。
そういう経緯で、放課後のいつもの面子での外周に、オレは右手にちょっとした包帯を巻いて参加していたのだった。
「大丈夫なの?」
麗菜が心配そうに覗き込む。オレは軽く右手を振って「大丈夫です」と笑った。
「それにしても、そんな怪我するなんて生徒会は一体どんな活動しているの?」
若干好奇心の入った目で、今度は小夜が口を出してきた。
「まさか、なにか得体のしれないものと戦ってたり!? 魔法とか魔法とか!」
「んなわけないでしょうがー。何? 今はそんな感じのアニメにご執心なん?」
「あはは。そうなのよねー。ヒロインの女の子がすごく可愛くてね……」
あははと愛梨と小夜が笑いあう。それにオレは若干ひきつった笑いを返す。
……何気に合ってるんだよな。さすが女版黒塚……察しがいいというかなんというか。
なんとなくそう思うと、小さく笑みが漏れそうになった。
でも、女版黒塚はあいつほど鬼畜じゃないな。あいつは平気で人様に害を運んでくる。なにやってもニヤケ面だし、しかも口じゃ……いや、実力でも勝てないか。地味に超人だからなあいつ。腹立つことに。いつか弱点を突き止めたいと心底思うわ。
とまあ、そう考えると小夜の規模は微笑ましいくらいだ。こうして愛梨と言い合うのもそろそろ見慣れてきて、こうやって麗菜と観察するのが日常になってきている。ここには、昨日のような魔物の影もないし、この手の怪我の原因でもある魔法も存在しない。あー、こういう空気も悪くない。昨日の夜の魔物の騒ぎのあとだと、そう思ってしまう。
「あ、そういえば昨日ね」
今日も今日とて、前列の愛梨と小夜というペアでなにか話し始めたのを見て、オレと同じく後列にいる麗菜がオレに向けて話を振ってくる。オレは走っているけれど、ゆったりとした気持ちを覚えながら、それに応じるべく麗菜の顔を見上げ――
ゾクッ
「……!?」
その時だった。
「大したことじゃないんだけど……って? どうしたのルミちゃん?」
「あ、いや……」
不意に立ち止まったオレを見て、不審げに麗菜も立ち止まる。
……まさか――
「んあ? どったの二人とも」
「なにかあった?」
先行していた愛梨と小夜も後列の異変に気づいてとことこと戻ってくる。
「いや、急にルミちゃんが立ち止まって……」
「どーしたふーちゃん?」
「早くしないとコーチの小言聞くことになるわよ?」
「…………」
三人の呼びかけに応じず、オレは木々の生い茂る小さな林に続く、脇道の先を凝視する。
…………今の感覚は――
さっきまでのゆったりとした気持ちは吹き飛んだ。オレは厳しい顔をして口をつぐむ。
そして――
「ちょっと、どうしたふーちゃ――」
「ごめん、先に帰ってて!」
オレは呆ける三人を肩越しに振り返りながら、脱兎のごとく林のほうに駆けた。
††††
「……さっきの感覚」
うっそうと茂る林の中の小道を走りながら、オレは注意深く辺りを警戒した。
「……間違いねえ。あれは魔力波だ」
普段の生活では、絶対に感じることのできない、押し寄せるような感覚。オレは林の奥からごくわずかだが、確かに感じた。
「生徒会の面子はみんな生徒会室の地下にいたはず。こんなとこから魔力波が感じられるわけがない。……ということは、だ」
ザッ、と舗装されずに踏み固められた地面を削りながら、オレは立ち止まる。
「生徒会のやつら以外に、誰か魔法使いがいる……あるいは、魔物が潜んでいるってことだな……」
そしてオレは道の脇、つい最近踏み分けられたように見える獣道を凝視した。
「……」
オレはうつむき一度両手を眺めた。少し意識を集中すると、両手に取り込んだ双剣の魔力が具現化する感覚がほんのりと現れる。
もしかしたら、一度生徒会の奴らに言いに行くのが得策だったかもしれない。だが、もうここまで来てしまった。
……一応、何があるかわからない。用心に越したことはないはずだ。
「…………よし」
オレはふっと集中を解いて顔を上げる。そして、その獣道に足を踏み入れた。
その瞬間、妙な壁……薄い滝のカーテンのような……を潜り抜けた違和感を覚える。
「……これは――、っ!?」
その違和感に一度振り返りかけたオレだったが、突然前から緑色の光弾が迫り来ているのに気づき、反射的にさっと首を横に反らした。光弾はオレの横すれすれを横切り、バシンと空中で壁にぶち当たったような音を立てた後、小さな風を残して消えた。
「っ誰だ!!」
オレは光弾の飛んできた獣道の奥に向かって怒鳴った。だが、返事は返ってこない。
代わりに四発の光弾が、まるで銃弾のようにまっすぐに飛んできた。
「くっそ! 一応のつもりだったのに!!」
オレは双剣の魔力を一気に開放する。すると両手に光の筋が飛び出し、次の瞬間には銀色に煌めく刀身を持った細身の双剣が具現化した。
「はあっ!」
オレは手に双剣の生の感触を感じた瞬間、下げていた右手の双剣を斜めに一気に振り上げた。先行していた二つの光弾が、小さなつむじ風を起こして掻き消える。それを確認する間もなく、オレは目にも留まらぬ速さで振り上げた右手を、今度は返しの刃で横に払う。残り二つの光弾が、先行していたものとコンマ数秒の差で同じ運命をたどった。
「なんのつもりだ! 出てこい!!」
オレは左足を軽く前に出し、半身で構え――がむしゃらな戦い方をするようになってオレの構えは、肩の力を抜き両手を下げ、両刃先を地面付近にまで下げるような、ごく自然体なものに変わった――ながら、林の奥をにらむ。木々が揺れる音以外なにも異音のない空間だ。オレの声は届いているはず。
……嫌な沈黙が、あたりを支配する。
「…………久しぶりにいきのいい、獲物が来た」
と、不意に奥の暗がりの方から、その沈黙を破る声がした。
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