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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第二部 ガンスリンガー
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謎の風魔法使い 1

数日後。


「……ふぁー……」

「随分と眠そうだな、雷牙?」


朝のホームルームが始まる前の教室。

相変わらずその時間帯の教室は賑やかだ。昨日あったことを友達同士で話し合い、中には他のクラスのやつも混じって各地で談笑が起こっている。その教室を、眠そうにあくびを漏らしながら横切り自分の机に腰を下ろすと、後ろからオレより先に教室にいた勠也が、皮肉気にそう聞いてきた。


「そりゃまあ……あんだけのことがあったらな。なんか気が立ってたのか、全然寝付けなくて大して寝てないんだよ」

ごしごしと目のあたりをこすりながら、オレはくるりと椅子に横座りして、顔だけ勠也のほうに向いた。

「初実戦があれじゃ仕方ないか。ま、怪我がなかっただけよしとするんだな」

勠也は首をひそめながら言った。


勠也の言う初実戦とはなにか。

それは昨晩生徒会役員で撃退した、民家ほどの大きさの異形な生物――魔物との戦闘のことだ。


オレにとって、この世界とは相容れない、今まで言葉だけで実体を見たことがない魔物との、初めての邂逅の瞬間であり、実際に武器を持ち戦う初めての実戦でもあった。といっても、オレのした仕事は、弱ってるところで弱点部位をさらけ出した瞬間に、不意打ちで一太刀切り裂いただけ。最初から戦っていたわけではない。


でも、それだけでも残るものはあった。自分よりはるかに大きく、凶悪な魔物と正面から目があったときの、身の震えるような恐怖。そして、切り裂いたときの生々しい感触……。思いだしただけで体が強張ってしまうような、鮮烈な体験であった。


「で……成果はどうだ?」

「成果、か……」

オレは自分の手のひらを眺めた。本来の自分のものではないのだが、とりあえず今はオレの手のひらだ。改めてみると、白く細く小さく……華奢きゃしゃだ。


こんな小さな手なのに、あれだけの魔物を倒すことが出来るんだよな。


この手には……いや、体の中に潜む魔力には、もともとオレの持っていたものとは少し違う、別口の魔力が混じっている。

それは昨日黒塚からもらった、一対の双剣の魔力である。


昨日黒塚が「そろそろこういうのに慣れていた方がいいかな」と言って渡してきた双剣は、今までの木刀とは違う、きれいな光沢を持ち実戦で使う、所謂『本物の』双剣だった。そろそろ、と言って渡してきた双剣を、ものの数時間後の深夜に使ったんだから、割と質が悪い。でも、木刀よりは遥かに戦力アップと言った感じだ。そのおかげで昨夜は勝てたのだ。もしかしたら黒塚のやつ、魔物が来ることを読んでいたのだろうか。


ともかく、昨夜はその双剣での初の戦闘でもあったわけだ。その双剣は、今は魔力の粒子に還元して体の中に取り込んでいる。こうすることで、少し意識を集中させれば、いつでも双剣を呼び出すことができる。オレは実体化させているわけではないが、なんとなくその双剣を握っているような形をとりながら、考え込むように目を泳がせた。


「……双剣のほうは、まあこんなもんかって感じかな。まだ慣れてないっていうのもあるし。でも、すごく手に馴染む感じがあるから、慣れるのもすぐだと思うわ」

軽くぶんぶんと手を振りながらオレは言った。実際に武器の扱いと言うのは、慣れが肝心だろうしな。どれほどの頻度で使うかは分からないが、早く『本物』特有の感触に慣れたいものだ。


「そうか。それじゃあ、本命の火のほうはどうだ?」

「あー、そっちは要検証ってとこだな。今までよりは火のイメージが固まった気がするけど。うまくいくかどうかは、放課後だな」

オレは苦笑いを浮かべながら、なんとなく少し体をのけぞらせた。


実は昨夜の実戦の大元の目的は、オレの火のイメージをより鮮明にさせる、というものだったのだ。発案者は黒塚。魔法の扱いが器用なオレは、強いイメージさえ持てれば意外と簡単に扱えるようになるのではないか、とのことだ。


黒塚の思惑通り(って言う言い方はあんまりいい感じはしないな……)、今のオレには昨夜の魔物のブレス……辺りを焼き尽くすような激しい炎の映像が鮮明に残っている。強く激しい火のイメージが、脳裏に焼き付いている。

「……なるほど。イメージの規模だけやたらと広がったから、一人で試すのは気が引けるんだな」

「……よく分かっていらっしゃる」

オレは図星を突かれてむっと顔をゆがませた。


勠也の言うとおりだ。オレの火のイメージは、あの魔物の強烈なブレスだ。だが、それは今までのイメージとはかけ離れたもので、それ頼りに魔法を行使したら、大規模なものになりそうだった。もしかしたら、試しに使ってみて制御できないかもしれないという可能性があったため、一人で試すことをためらっていたのだった。


勠也はオレのその様子に、口元に笑みを浮かべ小さく嘆息し、軽く乗り出していた身を深々と椅子に沈めた。

「そうか。じゃ、放課後だな」

「そうだな」


ちらとオレは前を見ると、教室に入ってくる担任の姿を確認した。おそらく勠也はその姿を廊下にいる時から確認していたから、座りなおしたようだ。視界の広いやつだな。

オレも勠也を見習って、横座りしていたものをさっと正した。


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