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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第二部 ガンスリンガー
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これが俗にいうガールズトークなの? 2

「そういえばさー、聞こう聞こうと思ってて忘れてたんだけど」


学校の外をぐるりと回るコースを走っている途中、愛梨が不意に後ろを走る麗菜を肩越しに見てきた。

「? なに愛梨?」

「いやね。アンタのクラスに外国からの転校生が来たじゃない? どんな感じかなって」

外国からの転校生……。そんな珍しいのオレを除いたら学年に一人しかいない。おそらく愛梨の言っているのは、二度も接触して何気にオレと縁が出来た茶髪翠目の少女、ソロナのことだろう。


麗菜のクラスは、この場にいる麗菜以外のやつの隣のクラスで、場所的には三階に位置するオレらの教室の一階下に位置する。階が違うと、その分交流も減る。だからこういう質問も無理はないのだが……。


「……愛梨。そういうのは来たその日に言うもんじゃないの? もう先週のことなんだけど……」

「だから忘れてたって言ったじゃない」

走りながらあははと頭をかく愛梨。


「愛梨ってば、時間軸おかしいんじゃない?」

すると、愛梨の横を並走している小夜が、口元に手を当ててぷぷぷっと笑う

「うるさいわね小夜。漫画に価値基準のあるアンタに言われたくないね」

「いやいや。私はちゃんと二次元と三次元は区別できてるから問題ないもん」


『…………』


「え、ちょちょっと! なんでみんなしてそんな白い目を向けるの!?」

それはお前が真っ赤な嘘を自信あり気に言い張るからだ。


本人はそう言っているが、小夜の日常の言動は黒塚のそれに近い。

例えば、


『愛梨って、ボクっ娘の才能あるよね。あ、オレとかもありかも』とか。

『麗菜はクーデレとか入ってそうだよね』とか。

『ミナちゃんは、可愛い格好とか似合いそう。ほら、ゴスロリ衣装とか!』……。


女版黒塚恐るべし。そして何気にゴスロリ衣装で頬をひきつらせてしまうオレが悲しい。もう体験済みです……。


「わ、私のことはいいでしょ!? それより麗菜。実際どうなの?」

ぶんぶんと小夜は手を振って、さっさと麗菜に話を返す。話が回ってきた麗菜は、小さくため息をついて「そうね……」と言葉を探すように上を向いた。


「明るい、いい子ね。日本語も流暢だし、頭もいいみたい。留学してくるくらいだしね。もうクラスのみんなとも打ち解けてるわ」

「ほぉー、『留学してくるくらいだから頭がいい』と。……だって、ふーちゃん?」

「……なんでそのタイミングでこっちに話を振るんでしょうか?」

悪かったな、補習常連客で。てか、オレそもそも留学生じゃないし、もともとこんな姿でもないしー!


……そう言えればこっちも楽なのだろうが、あいにくとそれは叶わぬ希望と言うやつだ。今のオレは誰がどう見ても、日本人ではない異国の……可愛い女の子。その中身が、魔法で姿を変えられた、同じクラスにいた不良男だとは、誰も信じまい。それ以前に、魔法そのものが存在していること自体、普通の人にとっては信じられないはずだ。


オレだってつい二か月近く前までは、そちら側の……所謂(ちょっと世間のはみ出し者のような立ち位置であったが)普通の人間だったのだ。それがほんのちょっとしたきっかけで、魔法のあるこちら側の住人になってしまった。それをどう思うかと聞かれたら……オレは正直迷う。


確かに急に今までの裏側的な……聞くところによると、命まで懸けることもあるこの世界に巻き込まれたことは、抗議してもいいだろう。

でも同時にオレは、巻き込まれたことで、今までの自分から変わることができたと思うのだ。根本はなにも変わっていない。でも、今のオレには、以前にはない『やる気』のようなものが確かに存在する。なにもせず、ただぶらぶらと日常を過ごし、まわりから遠ざけられていた少し前の自分に『んな暇があるなら木刀でも振っとけ!』と怒鳴ってやりたい。そんな気概が――



「……どうしたのルミちゃん、ちょっとスピードが緩いよ?」

「え、あ……」

麗菜の声に、オレは我に返る。どうやら予想以上に思いふけっていたようだ。無意識に足の回転が鈍くなっていたのか、気が付くと愛梨ら三人から少し後方に下がってしまっていた。


「愛梨があんなこと言うから、気を悪くしたんじゃない?」

少しスピードを速め、先ほどと同じ麗菜の横まで来たところ、前列の小夜がその横の愛梨を小突きながら言った。

「え、マジ? そ、そうなのふーちゃん?」

「あ、いや。そういうわけではないです。……ちょっと考え事してただけ」

「そ、そうか。なんだよ小夜、違うじゃないかー」

申し訳なさそうに肩越しにオレのほうを見てきた愛梨だったが、オレの言葉を聞いて安心したのか、お返しとばかりに隣の小夜の背中をばしんと叩いた。


「いったぃっ! 少しは加減しなさいよ!」

叩かれた衝撃で少しよろめいた小夜は、恨めしげに愛梨をにらんだ。

「えー、加減はしたつもりなんだけどウチ?」

「あんたは規格外なんだから、触るくらいで十分なのよ!」

「それはちょっとひどくない?」

前列で再び口論が始まる。まあ、楽しそうだからいいんだけど。いつものことだし。


「考え事って、なにか悩みでもあるの?」

と、並走していた麗菜からそんな言葉が投げかけられる。まさかさっき考えていたことを暴露するわけにもいかないので、少し迷った末、オレは苦笑しながら答えた。

「いや、……最近忙しいなって」

「……なんか、ルミちゃんが言うと切実ね。生徒会の仕事もあるし、かと思ったらこうして走ってるわけだしね」

「え、うん。そうそう」


改めて口にすると、確かに忙しいなオレ。

でも、毎日地味に続けられているのは、何気にそれを『充実している』と感じているからか。単に何も考えていないのか。オレ自身にも分からない。


「……それにしても、前の二人元気ねぇ」

若干息を切らしつつ、麗菜がつぶやく。オレはそれに「そうですね……」と、ため息交じりに答えた。

愛梨と小夜の二人は、未だに口論を続けながら走っている。……が、走っている最中なのに辛そうな感じはしない。どんだけタフなんだよお前らは。


「……こっちは何気にきついのに……」

額の汗を袖で拭う。もうそれなりな距離を走っているので、暑い。

「ま、もう少しよ。こっちはこっちで、頑張りましょう」

「そうですね」

麗菜の言葉にうなづきつつ、オレはふうと深呼吸して、足に力をこめた。


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