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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第一部 小さな英雄
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日常乖離のきっかけ 3

「……っ」


最初に気付いたのは、俳優男だった。

「おお、こいつ動こうとしてるぞ」

雷牙の手が動くのを見たツンツン頭が、笑いながら言う。それをきいて、その場にいた男たちがぞろぞろと雷牙に近づいた。


「……っ馬鹿、離れろ!」

俳優男がとっさに怒鳴る。しかし、遅かった。

「へ、あっ―」


次の瞬間には、雷牙の周りにいた男たちは、弾かれたようにビルにたたきつけられていた。

「っが!…な、なにがあったんだ!?」

飛ばされた男たちは、困惑した様子であたりを見回した。唯一離れていて飛ばされなかった俳優男は、驚きの表情を浮かべていた。

「……こいつ。……まさか」


「ひぃっ」

そのときツンツン頭が悲鳴を上げた。


血を流しながらゆっくりと立ち上がった雷牙から、薄く白いオーラが出ているのを見てしまったのだ。


雷牙は一歩ツンツン頭のほうに近づいた。血を流し、うつむいていて表情が見えない雷牙の様子は、白いオーラと相まってツンツン頭にとっては逆に恐怖を増幅させることになったようだ。


「ひぃぃー! ば、化け物!?」

ツンツン頭の男は、一人一目散に表通りに走って行った。それに我先にと口々に悲鳴を上げながら残り二人の男たちが続く。暗い空間に残ったのは、俳優男と、白いオーラをまとった雷牙だけになった。


「……」

雷牙が俳優男のほうを向く。俳優男は小さく舌打ちをして一歩前に出て拳を固める。


「……久しぶりだな。魔法使いとの戦闘は」

俳優男が小さくつぶやく。


「見たところかなりの魔力だが、ムラが多いな。まだまだ素人か。……だが、悪いな」

と、俳優男が自信ありげにつぶやくと、みるみるうちに俳優男の髪と目が銀色に変化し始めた。

「なにぶんこっちも久しぶりなんでね、手加減ができないのさ」

それと同時に、俳優男の拳が白いオーラをまとい始めた。


「殺さないようにはするが、もし最悪な事態になったら……恨んでくれるなよ」

俳優男が腰を下げ、右拳をためる。


「……いくぞ!」

俳優男が雷牙に向かって一歩踏み出した瞬間、


キュインッ!!


「っ!?」

俳優男の足元で何かがはじけた。俳優男は強引に踏み出そうとしていた足の軌道を変える。悪くなった体のバランスをすぐに修正しながら、俳優男は足元を見た。


「…これは」

先ほど足を踏み出そうとしていたアスファルトが、小さくえぐれていた。

そして、謎の光の残滓が漂っていた。

「攻撃魔法か。……いったい誰が―」


「あんた、雷牙になにしてるのよ!」


そのとき、表通りのほうから少女の声が響いた。俳優男は突然の聞き覚えのない声に驚き、思わず顔を上げ声のしたほうを眺めた。


「今警察も呼んだ。もう逃げ場はないわ」

俳優男の視線の先にいたのは、楓だった。

学校帰りであろう楓は制服姿で、かばんを足元に置き、両手には代わりに謎の長い杖のようなものを持っていた。


そして驚くことに、本来の黒髪と違い、彼女の髪の色は淡い亜麻色に輝いていた。

「…!?」

もちろん俳優男は楓のことは知らない。


しかし俳優男は、楓の姿を見るなり驚きの表情を見せた。

「…」

「…」


俳優男と楓は目を合わせたまま動かない。にらみ合い、言葉を発さない。


「……あんたは」

と、ふいに俳優男が二人の間の沈黙を破った。

「あんたは、古宮の生徒だな。…しかもその腕章、生徒会か」


「……そうよ。そういうあなたは一体誰? あなたも魔法が使えるようだけど」

突然の俳優男の質問に、まじめに答えるか悩んだ楓だったが、隠しても無駄だと思い素直に言った。だが、警戒は解かない。俳優男の背後で今にも倒れそうになっているが、謎の白いオーラを放っている雷牙をしきりに見ながら、俳優男をにらみつづけた。


「確かに、俺も魔法が使える。まあ、お前とは系統が違うがな。

 それより、こいつもお前らのトコの生徒会役員か?」

俳優男は後ろの雷牙を軽く一瞥しながら言った。それに楓は首を横に振る。


「いえ、雷牙は生徒会役員ではないわ。……あんたは、私たちの生徒会を知ってるの?」

逆に尋ねる。すると俳優男はすこし口元に笑みを浮かべて、

「まあ、多少な。……黒塚のやつは元気にしてるか?」


「……あんた、会長の知り合いなの?」

楓が眉をひそめる。


「会長……、あいつが、ね。……当然と言えば当然か」

懐かしそうに口元に笑みを浮かべる俳優男の様子に、楓は苛立たしげに、

「何一人で納得してるのかしら? ……いや、いいわ」

そういって楓は小さくうつむく。

「それよりも今は……」と楓は顔を上げ、一度雷牙を眺めて、


「今はあんたが許せない!」


言い放ち、勢いよく長杖を横に振った。すると長杖の先から小さな光の球が生まれ、そのまま俳優男のほうに弾丸のように飛んで行った。俳優男はサイドステップでそれをかわす。


「あんたが悪いんじゃない!」

怒鳴りながら楓は何度も光弾を俳優男に放つ。しかし俳優男は冷静にすべてをかわして見せる。

「雷牙は何も悪いことをしてない。全部あんたが悪いのに、どうして雷牙が痛めつけられないといけないの!?」

楓の怒りの言葉に、俳優男は眉をひそめた。


「……どういうことだ?」

思ったことをそのまま口に出す。


「……どういうこと、ですって?」

すると俳優男の言葉に、楓は光弾を放つのをやめ、ぐぐっと長杖を強く握りしめた。怒りのあまり、押し殺したような口調になる。

「……よく言うわね。もう善悪の区別もないわけ? 自分がやったことを棚に上げて、気に入らない指摘をされたからやり返して。あんた最低だわ」


「だから何のことだ」

「とぼける気? ……もしかしてわからないの? じゃあいいわ教えてあげる」

楓が、持っていた長杖の頭を俳優男の顔に向ける。


「あんたがやったのはカツアゲって言って、それはれっきとした犯罪なのよ!」


「……なに?」

俳優男は楓の言葉を聞き、声のトーンを落としてつぶやいた。そのとき後ろから何か音がした。白いオーラが消え、支えを失った人形のように雷牙が倒れた音であった。


「っ、雷牙!?」

それを見た楓は、俳優男の存在を無視してまっすぐに雷牙のほうへ駆け寄った。俳優男は横を通り過ぎる楓には目もくれず、何か考え込むように楓たちに背を向けてうつむく。雷牙のそばに駆け寄った楓はすぐさま雷牙を抱きかかえ、血が流れる頭へと軽く手を添える。

すると楓の掌が淡く光を放ち始めた。それと同時に、流れ出る血の量がわずかに減っていった。


「……本当か、その話」

俳優男が確認しようとする言葉に、楓は顔を向けて言った。

「当たり前でしょう! あんた、常識くらい学びなさ――」


「そっちの話じゃない!」


楓が言い終わらないうちに少し声を強め俳優男が言った。楓は気圧され言葉をのんだ。

「……カツアゲをした、というのは本当なのか」


その様子が背中越しに分かったのか、俳優男は一度落ち着くために軽く目を閉じた。口調は声を強める前に戻っていた。

楓はその質問に眉をひそめた。……なんとなくだが、俳優男が嘘をついているようには見えなかったからだ。


そういえばと、楓は少し思い出す。この狭い空間に躍り出る前に、数人の男たちが慌てて逃げ出すのを見た気がする。そのとき不審には思ったが、直後に雷牙の痛々しい姿が狭い空間の奥にあるのが目に留まり、怒りにその疑惑は吹き飛んでしまった。もしかしたらこの男と、その逃げ出していった奴らは仲間だったのではないだろうか。


さらに楓ははっとなった。今日学校でカツアゲの被害にあった生徒から犯人の特徴を聞いていたことを思い出したからだ。


……この人、聞いていた特徴と違う…。


「……ええ、本当よ。アンタの仲間か知らないけど、カツアゲをしたってのはホント。なんなら、被害受けた子を連れてきてもいいわよ」

楓は強く拒絶する姿勢を少し緩め、しかしすべては信用していないと言うかのように硬い口調で答えた。


「……そいつの特徴は、わかるか?」

俳優男はつぶやくように聞く。もしかしたらある程度予想をしているようだ。

「……金髪をむやみに立てた細身の男だって聞いたわ」

「……そうか」

俳優男の予想は当たっていたのか、強く握りしめられている拳からは押し殺した怒りが見て取れた。


その時少しの間静かであった空間に、遠くからパトカーのサイレンの音が響いてきた。


「……いまさら言っても遅いのだろうが…」


徐々に大きくなるサイレンを聞きながら、俳優男は楓に聞こえるように言った。

「……すまなかった」


そう言い残し、俳優男はその場で大きく跳躍した。

「あ、こら待ちなさい!」


楓は倒れた雷牙を抱きかかえつつ、俳優男に向かって言い放った。だが俳優男はビルの間を三角飛びの要領で登って行き、楓が言い終わる前にはビルの陰に隠れてしまった。

パトカーと救急車が到着したのは、それから間もなくであった。

ようやっと魔法登場という感じです。

俳優男さん、早く名前を呼ばせてあげたいですね。

ま、彼にはもう少し待っていただきましょう。


す、すみませんが、十歳程度の女の子はもう少し待ってくださいな。

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