訓練――なにも考えずがむしゃらにっ 10
「こほん。……二つ目は、戦い方さ」
びしっと、黒塚はオレを指す。
「今までの君の戦い方は、夏目君が言ったように、自分の強みを全く発揮できないものだったんだ。でもさっきの戦いでは、君の強みである速さが存分に発揮されていた。どこが違うか、分かるかい?」
「違い、って……」
何故今までは速さを活かしきれなかったのか。そして、その速さが活かしきれていたというさっきの戦いでは、今までとは何が違ったのか。
オレは少し思案してみる。
「……別に、いつも通りがむしゃらに戦ってただけな気もするが……?」
オレは首をかしげながら、自信なさげに答えた。
すると黒塚はそれが答えだと言わんばかりに頷いた。
「そう、いつもがむしゃらだったね。でもさ、さっきの戦いは、いつも以上に無我夢中だったんじゃない?」
「……確かに……言われてみれば?」
改めて振り返ると、いつも以上にがむしゃらだった気もする。なにも考えず、もはや体の動くまま、といった感じだったし。
「そこがよかったのさ」
「え?」
「だから、『何も考えず、無我夢中に戦っていた』ことが、君の強みを発揮できた理由なんだ」
「……どういうことか、分かんないんだが」
オレは困惑に眉をひそめる。
「今までのフルミナ君はさ……」
そう言って黒塚は、変な構えを取った。そのあと、何も持っていない右手をぶんと軽く縦に振り下ろした。
「右手の方を使っちゃった。てへ。次は左しかないよね!」
そう裏声で言った後、残った左手を右肩のほうに持ってきて、外側へと振り払った。
「あっ、敵が距離を置いてくれたわ。やった! あ、でもどっちの剣で追撃しようかしら? あーん、迷っちゃーう」
くねくねと、黒塚が気持ち悪く体をくねらした。オレは突然の奇行の気持ち悪さに顔を青くしながら、ふとある考えが浮かんだ。
「…………まて。それはオレの真似のつもりか?」
「そうだけど?」
「てめー、オレをなんだと思ってんだよ!」
「可愛い幼女」
「真面目な顔して言うな!!」
「否定はしないんだ?」
「ぐっ。……いやまあ、見た目はそうかもしれんがな、オレは男だっての!」
「その発言、地味に『見た目は可愛い幼女だよっ』って主張してるよね。何気に自分の容姿に自信あるんだ?」
「え!? や、そういうわけじゃない!」
「うん! そこで赤くなってこそ、フルミナ君だ!!」
「うっせぇよ馬鹿っ!」
くっそ、なんでこんな流れにっ!?
「んなことより、オレの強みが発揮できた理由ってのは、なんなんだよ!!」
オレは強引に話を戻しにかかる。このままでは、オレの(男としての)尊厳が危うくなりそうだ。
「そうだね。フルミナ君いじめはやめて、そろそろ話を戻そうか」
「……っ、そうだ早く戻せ!」
一瞬ツッコミをしそうになったわが身を必死に抑え、オレはそうはやし立てる。
「結論を言うと、今までの君はいちいち考えすぎてたんだ」
すると、黒塚はすぐにまともな話に戻ってくれた。ふう、と一息つくオレだったが、気になる話だ。すぐにオレも真面目な顔になる。
「考えすぎ……?」
「そう。フルミナ君はさ、もしかしなくても今まで木刀を振るとき、こう考えていなかった? 『次の攻撃はどうつなげたらいいだろうか』って」
「……それは」
……あるかもしれない。
勠也と戦うとき、そして紅汰と手合せした最初の時。オレは攻撃の仕方、受け方を一瞬だが思案していたように思う。
「でもそれは……」
「ああ、確かに重要なことさ。特に双剣は一度振り方を間違えたら、かえって自分が危険になる扱いづらい武器でもあるからね。一振り一振り考えながら戦うのは間違いじゃないよ。でもさ。君の場合、それがあだになってたんだよ」
そう言って黒塚はオレのすぐ目の前までやってきた。何事かとオレは黒塚を眺めていると、不意に黒塚は拳を握り、そのあとオレの顔めがけてその拳を振ってきた。
「な、なんだよっ!?」
オレはその拳を頭を横に傾けて避け、ついでに右手の木刀を小脇に抱えて、がしっと、横切る黒塚の腕をつかんだ。
「君の攻撃方法だよ」
オレの抗議の声に、黒塚はさらりとそう答えた。
「今僕は『フルミナ君の顔を殴ろう』と考えて、拳を握った。そのあと、実際に振ったわけだけど、フルミナ君はあっけなく避けたよね?」
「当たり前だろ。こんな分かりやすい攻撃……」
と、自分で言った言葉に違和感を覚える。
分かりやすい……攻撃。意図して振られた、読みやすい拳。
そして、それを補足するかのように、黒塚の言葉が頭に響く。
『君の攻撃方法だよ』
「……まさか、そういう……」
オレは思わずつぶやいた。
「気づいてくれたかい?」
その様子に、オレが黒塚の言いたいことに気付いたということを察したのか、黒塚は今度はそれを言葉にした。
「フルミナ君。君の『考えての攻撃』と言うのは、ひどく読みやすいものだったのさ。それにわずかながらでも、考えてる時間は一瞬動きが止まる。勠也も夏目君も、その一瞬さえあれば、攻撃に反応することは造作もない。だから君は二人に一発も当てられなかった。考えがまとまらないうちに放った一撃は、振りきれなくてひどく軽くキレがない、死んだ一撃だしね。無理に防いだとしても痛くないのさ」
「……そう、だったのか」
『お前は変に考えすぎな気がする。もっと自然に剣を振った方がいいと思うぜ?』
『てめえ、自分の持ち味をさっぱり活かしきれてねーんだよ。何考えてんのか知らねえけど、いちいち攻撃の時に止まりやがってよ。手加減のつもりか? なめてんじゃねーぞ?』
ぽつぽつと、勠也と紅汰に言われた言葉がよみがえってくる。
なるほど、冷静に考えてみると彼らの言っていたことは正しいと思う。確かにオレは双剣の危うい使い方を恐れて、一刀一刀考えながら振っていた……ような気がする。いや、自覚が薄いだけで実際そうだったはずだ。
良かれと思ったその行動が、オレの強みを完全に殺していたらしい。
「大丈夫さ。君の考えも筋は通っているよ。双剣は扱いを間違えると、身を危険にさらす扱いにくい武器だ。一刀一刀考えて振るのは、決して悪いことじゃない。でもね、それがまともに出来るのは、経験を積んだ熟練者だけなのさ。手足のように双剣を操れるようになってから、進める階段だよ。君はまだ圧倒的に経験不足。今はただ、がむしゃらに戦う方が何倍も強いよ」
オレが思いつめたような顔をする中で、黒塚は励ますように言う。
「……がむしゃらで、いいのか? でもそうしたら……」
「いいんだよ今は。そのための君のスピードじゃないか。君がすぐに立て直そうと思えば、一瞬だよ」
不安げにオレは黒塚に聞いたが、黒塚の主張は変わらない。オレは黒塚から視線を外し、手元の木刀に視線を下ろす。
がむしゃらに戦った方がいいのか……。なにも考えずに?
「まあ、もっともー」とオレの考えていることをくみ取ったかのようなタイミングで、黒塚はニヤリ顔で背後の紅汰を見た。
「夏目君みたいに何も考えないで無鉄砲すぎるのも、考え物だけどねー」
「んだよそれっ!? 急に話振っといてそれかよ!」
不機嫌そうに床にあぐらをかいていた紅汰が、黒塚に怒鳴った。
「夏目君は、もう少し後先考えた方がいいよね」
「あーあ、そうですよ! どうせオイラは考えること自体苦手だからな!!」
「そう言ってすぐ逃げるんだから」
「いいんだよ、それがオイラのスタイルなんだからな」
「逃げ癖が?」
「そっちじゃねぇよ!」
ぎゃーぎゃーと二人は(といっても、うるさいのは紅汰だけだが)言い争う。
「……はは」
なんか、思いつめてる――のかどうかは、自分でもよく分からないが――のが馬鹿らしくなったぜ。
自然と、オレの口から小さな笑い声が生まれた。
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