訓練――なにも考えずがむしゃらにっ 9
「はーい、そこまでー」
……が、オレの木刀は紅汰に届くことはなかった。
「やれやれ、分かってやってたことだけど。君たちは熱くなりやすいね」
「……っ、うっわ! なんだこれ!?」
紅汰に木刀が届く寸前に、オレの腕がなにかに拘束され動きが封じられた。何事かと、オレは急いで自分の手元を見て、あやうく腰を抜かしかけた。同時に木刀にまとっていた魔力が小さく弾け、電気も、薄く光ることもなくなって、ただの木刀に戻った。
突き出したオレの右腕には、光をも吸い込みそうな漆黒の光の縄が巻き付き、地面に固定されていた。
腕にあざが出来て、やがて死にいたっちゃう呪いでも受けてしまいそうなその漆黒の縄は、よく見ると腕だけではなく、両足や、それに胴にまで巻き付いていた。
「お、おい! てめえの仕業だろ。どういうつもりだ!?」
オレは必死にその縄を引き千切ろうと腕を動かしながら、いつの間にかオレと紅汰の間付近まで歩いてきていた黒塚をにらみつけた。
「だから、そこまでって言ったでしょ? 君たちはどうせ熱くなって聞きそうになかったから、こういう手段をとったんじゃないか」
「だからって……もっとましなデザインはなかったのか? まさか取ったら黒いあざとか出来てねえだろうな!?」
「大丈夫だよ。そんな仕掛けはないから。とりあえず落ち着いてもらうために拘束させてもらったんだ、ゆっくり深呼吸でもしてよ」
「…………」
なんか、急に冷や水をかけられたような感じだぜ。まさに怒りが水をかけられた火のように、小さくなってくすぶった感じになってしまった……。
オレは複雑な心境を抱きつつ、言われた通り軽く深呼吸する。すると、今まで躍起になって見えていなかった周りの景色が、よく見えるようになった。
気づいたら、地下にいる生徒会役員全員がオレらの試合を見ていたようで、みんなの視線がすべてオレと紅汰のほうに集まっていた。みんな、どことなく驚いたような――
「こいつは熱くても、オイラはいたって冷静だっ。なんでオイラまでこうなってんだよ!?」
その声に、オレは紅汰のほうを見た。どうやら紅汰もオレと同じく、この気持ちの悪い漆黒の縄の餌食にされたようだ。振りほどこうと必死に手足を動かしている。改めて見ると、この縄はひどく気味が悪い。うへ……オレもあんな感じにつかまってるんだろうな。すごいイヤだわ。
「……ふむ」
騒ぐ紅汰をそっちのけで、黒塚はなにやら考え込むようにオレの方を見てきた。オレは動かない手足で何かするのを諦めて、代わりに早く解けと、黒塚をにらみつける。
「なんだよ?」
「いや、ね」
すると黒塚がほんのりと赤くなりながら、真面目な顔で答えた。
「なんか今のフルミナ君、触手に絡まれて今にもアレされそうな感じに見え……」
「ほどけぇぇぇっ!!」
オレはさっき以上にこの縄を引き千切ろうと躍起になった。
「冗談だよ、冗談」
「だったらあんなマジな顔して言うんじゃねえ!!」
「顔が赤いけど、言われて興奮した?」
「してねえ! あんたへの怒りで頭に血が上っただけだっ。断じて他の理由じゃねえ!!」
そう、違うぞ! 絶対違うんだからなっ!!
「はいはい。そういうことにしといてあげるよ」
「だから、違うと……っと」
やれやれと首を振る黒塚に訂正を求めようとしたところで、漆黒の縄の拘束が瞬時に解けた。急なものだったので、オレは二、三歩前によろけた。
「いってぇ……おい会長! 急に解くなよ!」
とそこで紅汰が怒鳴り声をあげた。見るとオレ以上に力を籠めていたのか、紅汰は勢い余って前に倒れこんでいた。
「早く解いてほしそうにしていたのは、そっちじゃないか」
「確かにそうだが、せめてなんか合図を……」
「それよりも、フルミナ君」
急に黒塚は、話の矛先をオレに変えてきた。うがー!! と紅汰はなにやら怒り声を上げたが、黒塚はガン無視。オレは突然話を振られて、一瞬固まった。
「君は僕の予想以上の成長をしてくれたよ」
「……?」
にこやかに言う黒塚のその言葉に、オレは困惑する。
「なんか、あったか? よく覚えてないけど……」
「いやいや、すごくあったよ。君は今さっきの試合で、二つのことを学んでくれたはずだからね」
「……二つ?」
何か学んだことなんて、あったか? しかも二つも……?
オレは首をかしげながら尋ねると、黒塚は頷いた。
「そうさ。一つは、武器に雷を付加させたこと。無我夢中だったんだろうけど、一度やってみせたんだ。きっと今でも出来るはずさ。ちょっとやってみて」
言われてオレは、そういえばと木刀を見下ろした。
確かにあの時は無我夢中だった。なんかもっと威力がほしいと、心の奥底で考えたのはなんとなく覚えているが、それも不透明だ。正直言って、偶然できたといった感じが強い。果たして再び出来るのかどうか……、
「……うわっ、出来たし……」
頑張ってその時の感覚を再現しながらも、半分以上ダメもとで試したことだった。だが、予想に反して、木刀は先ほどまでのような薄紫の電気をまとい始めた。ちゃんと木刀から魔力的反応もある。
「ね?」
「あ、ああ……」
オレは自分のやったこととは思えないといった気分で、帯電する木刀を眺めた。
「で、二つ目なんだけど」
黒塚が次の話に移るようだ。オレは魔力を制御して、木刀へ流れる魔力をなくした。すると、木刀も帯電しなくなり、普通の木刀に戻った。
おお、すげえ。本当に使えるようになったみたいだ。
「……いいかい?」
「……え? あ、ああどうぞ」
しげしげと木刀を眺めていたオレは、慌てて黒塚の方を向いた。「ま、気持ちは分かるけどね」と黒塚は肩をひそめた。
「こほん。……二つ目は、戦い方さ」
びしっと、黒塚はオレを指さしてきた。
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