訓練――なにも考えずがむしゃらにっ 8
「……どういう、ことだよ?」
紅汰の予言めいた物言いに、オレは驚きを隠せない。同時に、あれだけの手合せだけでそう断言されたこと、そして実際に一発も当てられる気配がないという現段階を手痛く指摘されたことに、ちいさな苛立ちを覚えた。
「てめえの持ち味は、なんだ?」
オレの心情を知ってか知らずか、紅汰は強い口調で責めたてるように言う。
「オレの……持ち味。それは――」
「聞くまでもねえ、スピードだろ?」
オレの言葉をわざと遮るようなタイミングで、紅汰は言った。
「……聞いてきたのはそっちだろうが」
オレは今にも舌打ちしそうになる。
しかし、不利な体勢なのはこっちだ。その状況がオレの怒りをさらに加速させる。
「てめえ、自分の持ち味をさっぱり活かしきれてねーんだよ。何考えてんのか知らねえけど、いちいち攻撃の時に止まりやがってよ。手加減のつもりか? なめてんじゃねーぞ?」
追い打ちをかけるように、紅汰が挑発的な口調でそう言った。
「……ムカつくっ!」
オレはそう吐き捨てながら、目の前にある槍の刃先を無造作に横に弾いて、苛立たしげに立ち上がった。
「なんだ、図星をつかれて言葉もないってか?」
「黙れよ、てめえ」
オレはキッと紅汰を真正面からにらみつけた。オレのその視線に、紅汰は不敵な笑みをこぼす。
「さっきから聞いてりゃ、いちいちムカつく言い方ばっかりしやがって。ああわかってるよ、あんたに指摘されなくてもそういう気があんのはな。だったらそれだけ指摘すりゃいいだろうが。いちいち一言多いんだよ、ぶっ潰すぞ?」
オレは怒りを前面に押し出して、呻くように言う。もはや、今自分が女の子であることなんか関係ない。気分的には、つい一か月前のケンカばかりしていたあの時のようだ。
「ああ、潰してみろよ。オイラはてめえの攻撃なんか、一発も食らわねえ自信があるけどな」
すると紅汰は、槍を肩に担いで余裕の表情で手招きをしてきた。そこでオレの怒りは爆発する。
「ざっけんな!!」
オレは瞬時に木刀に魔力を込めて、同時に『光速』を使い紅汰に襲い掛かった。
「くそがっ!」
もう何も考えずに、オレは紅汰の目の前で軽く跳躍し、右手の木刀を紅汰の頭に振り下ろした。それに紅汰が炎をまとった槍で応戦する。ガツンと、物体がぶつかり合う鈍い音と、魔力が衝突しあう甲高い音があたりに響いた。
「どうした? オイラを潰すんじゃなかったのかぁ!?」
「ちぃっ! 望み通りぶっ潰してやる!!」
オレは打ち付けた右の木刀にさらに力を籠め、その反動で大きく後ろにジャンプした。そして、地に足がついた途端、再度『光速』で紅汰に肉薄する。
「はあぁっ!!」
目前まで迫ったところで、オレは左肩のほうまで引いていた右腕を一気に振り払う。それに紅汰は、上にあげていた槍の先を小さく下げて防いだ。
「っ!」
その衝撃を確認した直後、オレは迫った勢いのまま、左足を大きく踏み出した。それと同時に、左の木刀を紅汰のわきの方に叩きつけるような軌道で振る。
「っ、はえぇ!」
その攻撃に、驚いたような表情をした紅汰だったが、すぐさま右足を引き、時計回りに槍を半回転させて、その木刀を受けた。
だが、そこでオレの攻撃は終わらない。
紅汰が足を引いて空いた空間に、オレは右足を踏み入れた。すると、紅汰と槍との間に、オレの足が割り込む形になる。そのままオレは、今度は右手の木刀で、槍の内側に斬撃をお見舞いした。槍が少し上に弾かれ、紅汰の左側面ががら空きになる。
「食らえっ!!」
オレは左足を引き、弧を描くようにその左足を紅汰の体の前に置いた。呼応して、左手の木刀が、弧を描きながら紅汰の左側面に襲い掛かる。
「なめんなっ!」
オレの声に負けじと紅汰も怒鳴った。器用に左手の返し槍を握りなおして、くっと、槍の刃先を突き上げた。キィンっと、今度は魔力のせめぎ合う音が強く響いた。
「っあああああぁ!!」
オレは高い声を張り上げる。するとオレの声に反応するかのように、バチンとオレの木刀から火花が散った。
「んなっ!?」
驚いた表情をして、紅汰は一気にその場から離れた。そして少し距離を置いたところで、意図せずこぼれたように、つぶやく。
「……信じられねえ。とっさにんなことまで……っ」
紅汰は、じっとオレの対なる木刀を眺めた。
木刀には、紅汰の槍に炎がまとっているのと対峙するように、ばりばりと攻撃的に弾ける、薄紫の電気が付加されていた。
と、その薄紫の電気が形を霞ませ、一本の光の軌跡になる。
「うおっ」
とっさに紅汰は首を横に傾ける。一瞬後に、オレの右の木刀の突きが、空気を切り裂くような鋭さで通り過ぎた。
「くそっ!!」
オレはがむしゃらに前方に魔力波を放つ。すると、とてつもないスピードが激減した。
「食らえっ」
オレは紅汰の横を通り過ぎた後空中で一回転し、地面に足をつけた瞬間、振り向きざまに左の木刀を切り上げる。
「くっ」
紅汰は辛うじてそれも槍で防いだが、とっさの行動で体勢が悪い。紅汰の体勢が悪いとみるや、オレは怒涛の連撃を試みた。
「だあああぁぁっ!!」
眼にも留まらぬ速さで、あらゆる方向から双剣が振られる。
「……っ」
もはや言葉を発する余裕すらないのか、紅汰は必死の形相で、紫電の軌跡を防いだ。
コンマ数秒単位で木刀と槍の攻防の音が響く。
「しまっ――」
不意に紅汰が短く呻いた。
あらゆる方向からくる攻撃を、手元で持ち替えながら対応していたために、速さについて行かず手を滑らせたのだ。
「ちょっ、タンマ!?」
何とか片手で数発処理し、隙を見て紅汰はその場から離れる。だが、オレはそれに反応してぴったりと紅汰の動きについていく。
「やべ――」
紅汰は未だに持ち直せていない。
「はああぁぁ!!」
オレはがら空きの紅汰の胴目がけて、引いていた右の木刀を一気に前に突き出す――
戦闘、なかなかうまく描写できません。
そして、何気に沸点低いぞ雷牙―フルミナ。
さらには、中途半端な切り方をして申し訳ありません。
誤字、脱字、修正の指摘、感想をお待ちしています。