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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第二部 ガンスリンガー
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訓練――なにも考えずがむしゃらにっ 7

黒塚の元を離れ、紅汰のところに行くと、紅汰はやれやれといった感じで肩に置いた槍をとんとんと上下させた。

「相変わらず会長に好かれてんな」

「……うれしいと思います?」

「……思わねえな」

嫌そうな顔でオレが聞くと、紅汰は微妙な目をオレに向けてそう言った。


……そんな同情するような視線はやめていただきたい。


「それはそれとして。どうだった?」

まっすぐ立っていた紅汰は、右足に体重を乗せ重心を変えた。


「……こんな感じです」

そう言い、オレは右手の前に突出し、目の前を横切るように木刀を横に向けた。そして目をつぶり、先ほどのように自分の中のイメージに集中する。


「……っ」


すると、ほどなくして木刀から魔力的手応えを感じるようになった。ゆっくりと目を開けると、目の前の木刀は、うっすらと光をはなっていた。


「おお、すげえな。話聞いただけでそこまで……って、まさかもう知ってたとか?」

「いや、さっき初めて知りましたけど」

「……平然と言いやがったよ、コイツ……。オイラは何日かかったか分からねえくらいなのに……」

紅汰はそう言いつつも、わずかに尊敬というか羨ましそうな顔をした。


「まあいいや。……じゃ、仕切り直しだ」

紅汰は小さく頭を振った後、再び槍を構える。すると呼応するように、炎が槍にまとい始めた。それを見届け、オレはぐっと木刀を握った後、ゆっくりと構えをとった。



「よしっ、行くぜ!!」



そう吠えた瞬間、紅汰は一気にオレとの距離を詰めてきた。今度は先ほどの下からではなく、まっすぐに槍がのびてくる。それとともに襲い掛かってくる炎。


「もう炎は怖くないっ」


身体能力を上げたオレからは、その槍の動きがはっきりと分かる。オレは右手の木刀で肉薄する槍の腹を弾いた。槍はオレに当たる軌道から逸れ、紅汰とともにオレの右を過ぎていく。

「さすがの反応だよなっ」


言いつつ紅汰は、背後から槍を横に振ってくる。槍の先は斬撃も出来る仕様だが、迫ってくるのは槍の長い柄の先の部分だ。切れはしないが、あれを食らったらしばらく立てはしないだろう。


「……っ」



どちらの木刀で受ける? 



速さ的には避けるのは賭けになる。すぐさま受けることを考えたオレは、今度はどちらの木刀で受けるか考えた。

「くっそっ」

オレは右足を軸にして一八〇度回転しながら、背中越しに切り上げるように、右手の木刀で応戦した。

ガツンと槍の勢いを殺した衝撃と、炎を防ぐ魔力的衝撃が一気に押し寄せる。


「うぐっ……」


予想以上の衝撃にオレは顔をゆがめる。



炎の威力が地味に強いっ。



オレは木刀にそそぐ魔力をさらに増やす。すると、多少炎の重圧が軽減されたような感じがした。だが、どっと体の力が吸い取られるような感覚を覚える。


「おいおい、もうそんな顔すんのかよ」

オレが振り返り、向き合う形になったところでオレの顔を見て、紅汰が拍子抜けといった様子で言った。


「うる、さい……」

オレはしびれる右手に軽く左手を添える。

「……ちょっと、暑かっただけだ」

小さく頬に汗が伝う。そう言い張って、オレは右手に添えていた左手を、前に構えた。


「……ま、最初はそんなもんか。ほれ、次の一撃はてめえに譲ってやるよ。かかってきな」

紅汰は軽く身構えたまま動かない。オレはその言葉に、ぐっと足に力を込める。

「……目にもの見せてやる!!」


そして一気に右足を踏み込む。


「うわっ、速っ!?」

『光速』を駆使したそのダッシュは、紅汰には予想以上のものだったらしい。一瞬ひるんだようだったが、オレが目の前で右の木刀を振り下ろしたのには、しっかりと反応してきた。


「やっぱ、遠くから見るのと実際見るのとでは、全然違うなぁ!」

「そりゃどうもっ!」

興奮した様子で言った紅汰に、オレはそう返しつつ左の木刀の処理を考えた。


右は今、槍を防いでいて使えない。言いかえれば、右手が槍の動きを封じている。

だったら、左はがら空きの胴を狙う!


「はあっ!!」

オレは気合の声とともに、左の木刀を下から斜めに切り上げるように振り上げた。

「……っ」

それに紅汰は右肩を下げて、刃先の方ではない槍の先でオレの木刀を防いだ。


連続で左を動かすのは無理。だったら……。


オレは素早く右手を引いて、木刀を前に突き出した。それに紅汰は無言で右に移動して避ける。


これ以上は、ちょっときついか。


一度オレは『光速』で紅汰の横を通り抜け、仕切り直しをしようとした。



「……あっ」

だが、左の木刀の押す力を弱めたところで、紅汰が右手を突き上げた。それに伴って、槍がオレの木刀を上に弾いた。

「でぇりゃっ!」

そのまま槍を回転させて、紅汰は器用に持ち替えた。そして今度は刃先を切り上げる。


くっそ、右で応戦を……っ、だめだ、間に合わない!?


オレはぴくっと右肩を動かしたが、最終的に右方向に転がることで、襲い掛かる槍を回避した。



ガツンッ



転がったところから起き上がろうと手をついたところ、すぐ横から紅汰の槍が床に突き刺さる音がした。


「……なるほどな」


刃先が軽く床に埋まっている槍を伝って上を見上げると、なにやら真剣な顔をした紅汰と目があった。

「な、なんだよ……?」

いきなり『なるほど』と言われても訳が分からない。オレは不審げに紅汰を見上げた。

「いや。オイラ結構気になってたんだよな。あんなスピードがありながら、なんでてめえはあのイケメン野郎に一発も当てられないのか。そりゃ、あいつはなんか会長の知り合いですげー強ぇし、てめえはド素人だから仕方ねえとも思ったよ。でも、ド素人でもそのスピードで何回も戦ってりゃ、一発くらい当てられるんじゃね? そう考えてたんだが……なんとなく分かったわ」

ずぼっと槍を床から抜いて、その先をオレの顔の前に向けて、紅汰は言い放った。





「今のまま戦ってても、てめえはあいつに一発も与えられねえよ」


誤字、脱字、修正の指摘、感想をお待ちしています。

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