間話 うちあげボーリング会
午後も、午前よりも暑さが増し思ったよりもきつかったが、誰か倒れるなどというハプニングもなく無事に終了した。一日だけの募金であったが、それなりにたまったのではないだろうか。
その後、小規模なうちあげ会みたいなものを役員たちで催した。うちあげ会と言っても、役員みんなで近くのボーリングをしに行ったというものなのだが。
……ここだけの話だが、オレはボーリングはそれなりに得意だ。ボーリングへ行こうとなったときは、内心笑みを浮かべたものだが……。
パカーンッ
ピンが倒される小気味よい音がそこかしこから聞こえる。駅の近くにあるボーリング場は、休日のせいか、学生ばかりでなく家族連れの姿も目立った。中には、明らかに熟練者だろうと思われるオッサンもいた。マイボール、マイグローブ、びっくりスコア。……プロ、かもな。
パカーンッ
「ぃよしっ」
室内に響くノリの良い音楽や、周りのグループの声を押しのけて、一際大きな声が上がった。
「二連続ストライクだぜ!!」
一際大きな声を上げたのは、紅汰であった。そのままガッツポーズをしながら役員たちが座っているソファーに戻ってくる。
「おおー、すごいじゃないか」
ぱちぱちと、順番待ちの黒塚が小さく拍手をした。
「はっはっは! これでオイラがトップだぜ」
ぼふっと紅汰が肘掛のついたソファーに座る。そして頭上にある画面のスコアを眺めた。
「おーい、フルミナよー。このままじゃあぶねえんじゃないかぁ?」
「う、うるさいっ」
オレは隣のレーンのソファーから、紅汰に怒鳴った。実は紅汰、見ていたのは隣のレーンのスコアだったのだ。
オレたちは人数が多かったので、二つのレーンに分かれてやっていた。
組み分けは、紅汰・黒塚・勠也・山城のチームと、オレ・楓・水穂のチームに分かれた。歩美は、目が見えない上車いすなので、申し訳なかったが参加は出来ず、見ていてもらうことになった。
歩美を除いた七人の組み合わせを見てもらうと分かるように、オレたちは男女で分かれていた。
もちろん最初オレは、男子チームに入る気であった。
当然だ!
だが、そうすると人数が偏ってしまう。なので仕方なくオレは女子チームに行くことになった。
……強調しておくが、人数上『仕方なく』こちら側に映ったのだ。決して「私、オンナノコですからー」と言ったわけではない。断じて違う。
ち、違うんだからなっ!
代わりにささやかな抵抗として、男子チームの賭け――一番スコアの低いものはジュースをおごる――には参加させてもらうことになっていた。
言ったように、オレはボーリングがそれなりに得意だ。少なくとも自身ではそう思っている。
しかし……。
「次は雷牙の番よ」
「分かってる」
オレは隣のレーンのソファーで自信ありげに鼻を鳴らしている紅汰をにらみながら立ち上がる。そのまま女性陣の視線を受けながら、オレは硬い表情でレーンの前に立つ。そして身長が変わったせいで、前よりも遠くに見える気がするピンを横目でにらみながら、今まで投げていたボールを手に取った。そのボールは、そのボーリング場では一番軽い六ポンドのものである。本来の姿ならこんなものへでもないのだが……。
しかしオレは持った途端、とても重く感じた。
……勝手が違うんだよな。
確かに、男の時に使っていた重さのボールは、少し身体能力さえ上げていれば、扱うことは可能であった。でもその重さまで行くと、今度は指のサイズがこの体にはあまりに合わなさすぎたのだ。いつ滑って、どーんと落とすか分からなかったので、試しに指を入れてみた直後から『これはだめだ』とあきらめた。
やり辛い理由はほかにもあった。
歩幅が合わないのだ。さっきから何度も歩幅調節をしているが、これだという距離はまだ測れていない。
「……」
オレは場所的に真上に位置するスコアを映す画面を眺めた。女性陣の中では、それでもトップに立っているが、男性陣の中ではかなり差を付けられている。ここから上げていかないと、ラストまで追い抜くことは不可能だろう。
「……負けてられるか」
画面から目を離して、敵のようにピンをにらみつける。
「…………っ」
そしてオレは一歩踏み出した――
「いやー、悪いなフルミナ」
「……ちくしょう」
ガコン、と目の前の自販機からジュースが出てくるのを見ながら、オレは不満げに口をとがらせた。空を見ると、あれだけ蒼かったのに、今は夕焼けに染まりはじめていた。世界はほんのりオレンジに染められている。
オレたちは今、みんなでボーリング場を出たすぐそばの自販機にたかっていた。ボーリング場の中の自販機は高いので、買ってやるから外のにしてくれとオレが懇願したのだ。中のは一番安いので150円、男子全員だから六〇〇円かかるが、外のなら普通ので120円、こっちは四八〇円で済む。
ケチに見えるかもしれないが、それがどうした。一二〇円はそれなりに重いんだぞ!
……しかし、外の自販機にしたおかげで、予想外の事態が起きた。
そのボーリング場は、割と大きなアミューズメントパークで、ボーリング場のみならずそのほかの娯楽も入っており、レストランも一店舗入っている。そのせいか大通りに面していて、車も度々出入りしていたし、人も大勢通っていた。
そんなところで男子勢は、オレにジュース代をおごらせているのだ。
見た目小学生の女の子なオレに対して。
周りの一般人からの視線は、あんまりいいものじゃなかった。中には声をかけてきそうな人もいた。
オレの内心は……実のところ複雑だった。
確かに、これだけ気まずい雰囲気なら、もしかしたらおごるのもなしになるかもと思った。しかし同時に、やっぱりオレって小学生の女の子にしか見えないんだよな……、という軽いショックも抱えていたからだ。
……ちなみに言っておくと、男子どもはしっかりたかってきやがった。
勠也はさも当然のように平然と一般人の視線をスルーしていたし、紅汰にいたっては気づいてない様子であった。
黒塚のやつは「うーん、幼女をいじめるのはあんまり好きではないんだけど、これはこれで……フルミナ君はいじめがいがあるよねっ☆」とほざいた。
もちろん天誅。
今はそこに転がっている。
周りの一般人もそれに戦き青い顔になった。……無理もない。
唯一山城だけは断ってくれたが、「お前は勝ったんだからいいんだって」と紅汰が無理やりにもう一本購入し、山城に手渡した。山城は大きな体を申し訳なさそうにおろおろさせて、難しそうな顔でオレを見下ろしてきたが、オレは苦笑いで「いいですよ、負けたのはオレですし、どうぞ」と言うと、小さく会釈をしてくれた。ホント、山城先輩はいい人だなー。
そんなこんなで、オレたちのうちあげ会は終了したのであった。
話と話のつなぎは難しいです。
と、いうことなので間話。
今まで遅れててそれかよっ、と思われるかもしれませんが、ど、どうか許していただきたいです……。
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