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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第二部 ガンスリンガー
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新たな日常風景 2

「やあ、一年生諸君」

「ようこそ」


放課後、オレと楓と勠也は三人で生徒会室に足を運んだ。生徒会室にはまだ三年生の二人と、レオンしかいなかった。

「あれ? 二年生の皆さんはどうされたんです?」

楓が黒塚に尋ねる。

「ああ、弥栄君と山城君は掃除。夏目君は、二人を待って友人とおしゃべりしてるみたいだよ」


「……いつも思うんだけど、なんでそんなタイムリーなことが分かるわけ?」

オレは疑わしげな目で黒塚を見る。黒塚はオレの視線を真っ向から受けながら、


「あっはっは、企業秘密さー」

平然と適当なことを言った。どこの企業だよ。


「ま、二年のみんなが来るまで会議は始めないから、適当にくつろいでてよ」

そう言って黒塚は手元の雑誌に目を落とした。なんとなく気になって、オレは遠くからその雑誌を覗き見た。


「……」

とたんにオレは顔をしかめた。



黒塚が読んでいたのは、コアなアニメ雑誌であった。



「? 一緒に見るかい?」

「けっこうです」

軽く雑誌を上げてこっちを見てきた黒塚に、遠慮なく白い目を向けた後、さっさと視線を外した。


「小娘」

さて何をしようかと、オレがきょろきょろとあたりを見回していると、レオンの奴が小娘――オレのことを呼んだ。


「……、なんだよ?」

オレは何となく嫌な予感を感じながらレオンのほうを向いた。

レオンはふん、と鼻を鳴らして、

「お主は訓練でもしておけ」


「あーあ、言うと思ったよ!」

予想通りの言葉が来て、オレはやけっぱちに怒鳴った。


こうして空き時間さえあれば、レオンがオレに魔法や戦闘の訓練を強要してくるというのは、ここ最近の傾向だった。


「だからなんでオレばっかりに言うんだよ!」

「ある男に頼まれたからだと言っておるであろう」

「ある男って誰だよ!?」

「何度も言うように、いずれ分かる」

うぐぐ……とここでオレが苦い顔をするのも含めて、いつもの流れであった。


「いいじゃないか、どうせ暇なんだろ? 俺が相手になってやるから」

オレとレオンの言い合い(主にオレの、はたから聞けば微笑ましい声の怒声が中心だが)を見ていた勠也が、ぽんとオレの肩に手を置きながら言った。


「……まあ、いいけどさ」

オレもしぶしぶ了承する。オレも自分で分かっているからだ。



今のオレは全然強くない、ということを。




確かにオレは、黒塚の自作自演の騒動の結果、フルミナ・レーゲンも使っていたという身体能力向上系の移動術『光速』が使えるようになった。


ただその『光速』も、長時間持続させることは出来ないし、まだオレもその『光速』に慣れてないせいか、細かい制御が出来ないでいた。ただ直線距離をすさまじいスピードで走り抜けるだけ。あの怪しい仮面の男――後に黒塚と判明したが――と戦った当初は、なにか神経が研ぎ澄まされたような感じで、細かい制御も出来ていたのだが……。あの時の様な感触はあれが最初で最後であった。


そんなのだから――



   ††††




「そんなのだから、お前の動きは読みやすいんだよ」


ばし、とオレの右腕が勠也につかまれる。

「あ――」

オレは腕をつかまれた後、へた、としりもちをついた。


オレと勠也は今、生徒会室とは違う場所に移動していた。


その場所は……地下だった。


何故か生徒会室には、隠し扉みたいなものがある。

その先には、いくら強力な魔法を行使してもびくともしない強固な結界が張り巡らされている、ただっ広い地下空間が存在していた。


なんでこんなものがと最初は思ったが、聞いてみると納得した。


今の世の中、魔法は日陰者である。秘密裏に訓練すると言っても、表の世界には場所がないのである。

それ故に、このような常人の目が届かない隔離された空間が存在するというわけだ。


……こんな空間、地下に掘っておいて大丈夫なのかよ……そう思わなくもないが。


その地下空間の、冷えた床に女の子座りしながら、オレは息を切らしつつ勠也を見上げた。

「し、仕方ない、だろ。いきなり視界が、変わるんだから……」

オレの返答に、勠也は眉をひそめる。


「それはそうだろうが、慣れろ。その感覚はお前にしか分からないんだからな。……あと、もう一つ言わせてもらうとな……」

言いつつ、勠也はオレの腕をぐいっと引き上げた。オレはその反動を借りて、よっこらせと立ち上がる。


「お前、剣の扱いが雑すぎる。雑なら雑なりに、もっと当てる努力をしろ。全然当たらない軌道を通っていたぜ? ちゃんと素振りしているのか?」

「い、一応……してるけどさ。なんかこう、この年で木刀ぶんぶん振り回すのが、は、恥ずかしいというか……」

オレは右手の人差し指で頬をぽりぽりとかく。その手には、オレの身長に合うように少し短めな木刀が握られている。同じものが左手にも握られている。

いうなれば、オレは双剣使いであった。


「振り回すからだろうが。ちゃんと振れば、それなりに見栄えはするぞ」

「それは、お前が普通に木刀一本しか使わないからだろ? オレなんて……木刀二本とか、お遊びにしか見えねえよ。なんでオレは双剣使わなきゃいけないんだよ?」

「お前自身も賛成してただろ。それに……双剣、いいじゃねえか。その身体の真の持ち主は、嵐のように敵を切り刻んだらしいぞ?」

「そりゃ、そうだけど……」

オレが双剣を使う理由は、まさにそれだった。



フルミナ・レーゲンの体と能力を引き継いでいるから。



最初にオレに双剣を推したのは、レオンであった。それに黒塚が賛成し、そして過去のオレも『あー、双剣格好いいかもー』なんて能天気なことで賛成したので、その日からオレは双剣を使えるように訓練をし出したのである。


ところが、これが意外と困難な武器であることが、数日で発覚した。


まず第一に、力が入らない。

片手で重いものを長時間扱うので、いくら魔法で身体能力を上げたところで、握力がもたないのだ。


第二に、攻撃が軽い。

片手剣を二本扱うのだ。そのためには、どうしても一本一本の武器を軽くせざるを得ない。それにともなって、武器の重さを利用した威力の高い攻撃ができないのである。


そして一番は、なんといっても両手のコンビネーションの難しさだ。

うまく両手の剣を扱えないで下手な姿勢になると、かえって身を危険にさらすことになる。しかしうまく扱うと、小回りの良さからくる反応不可能な連撃に加え、多方向からの攻撃を弾く鉄壁の防御を得ることができる。まさに使用者の力量とセンス、そしてなにより努力が問われる武器だ。


オレは何度も別の武器にしたいと申請したが、いざ他の武器を扱うと、なにか違和感を覚えるのだった。


なんだかんだいっても、オレがしっくりくると感じる武器は、双剣だけのようだ。

「……だけど、なんかこう……うまく扱えないんだよな。体はフルミナので、実際はオレが操ってる形だから、やっぱりオレ自身のほうに才能がないってことなのかな?」

オレが軽く双剣を振りながら若干沈んだつぶやきをすると、勠也がさも当然のように言った。


「そんなことはないだろ。俺はお前には双剣を扱う才能はあると思うぜ」

「……なんで?」

オレが信じられないという表情で見ると、勠也は「だってよ……」と言いつつオレの頭に手を置いた。


「お前はまだ扱い始めて二週間程度だろ? その割には、なかなかうまい防御をしてると思うぜ俺は。攻撃のほうはさっぱりだけどな」

「……頭なでるな」

オレは褒められたのか、けなされたよく分からない勠也の発言に苦い顔をしながら、とりあえず頭にある勠也の手を払いのけた。


「ははは。そうだな、俺が思うにだが……」

そう言って勠也は、右手に持っていた木刀を後ろ手に放り投げた。木刀はくるくると勠也の背後を回転しながら場所を移し、肩越しに伸ばしていた勠也の左手にすっぽりと収まった。そのまま勠也は、左肩に担ぐように木刀をもってきた。


「お前は変に考えすぎな気がする。もっと自然に剣を振った方がいいと思うぜ?」


そしてそう言い残し、すたすたと生徒会室へ続く階段のほうに歩き出した。

「おい、それはどういう――」



「あー、ちょうどいいね。そろそろ会議始めるから上に戻ってきてねー」



オレが勠也に言葉の意味を聞こうと上げた声は、黒塚の召集の声に上書きされた。

「だとよ、行こうぜ雷牙」

「あ、おう……」

オレは少し疲労の残った足を動かし始めた。

そうして勠也に小走りで追い付いて再び訊く。


「どういう意味だよ、今のは?」

「言葉通りの意味だ。お前はいろいろと雑念を持ちながら剣を振っている気がしてな」

「なんだよ、それ?」

「それは自分で考えな」


話は終わりだという風に、勠也がそっけなく答えた。オレは歩幅の関係上、徐々に遠くなる勠也の背中を見ながら、よく分からないと首をかしげた。


「……もっと自然に剣を振れ、ねえ」


つぶやいてみたが、いまいち言葉の正体がつかめなかった。


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