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虹色の電撃姫~いやだからオレは……~  作者: 芦田貴彦
第一部 小さな英雄
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『光速』習得 2

夢を見た。


あれはまだ、オレの両親が家にいるころのことだ。


はっきりいって、オレは両親が嫌いだったし、向こうもオレのことは嫌っていたようだった。

だからオレがいる家には帰ってこなかったことがしょっちゅうあったし、オレもそれでよかった。


そんなある日、オレはとなりの日向家と海に行くことになった。

オレと楓は、子供らしくめいっぱい遊んだ。



だが、事件は起きた。



オレが連れて行った岸壁から、楓が海へ落ちたのだ。



オレは慌てて別のところから海に飛び込んだ。

しかしそこは相当深く、大して泳ぎの得意でないオレは、楓を助ける前に溺れかけた。

幸い、近くにいた大人にオレたちは助けてもらったのだが、その日一日オレは落ち込んだ。逆に落ちた楓に励まされたくらいだった。


そこで、オレは思った。




もっと強くなりたい。自分が失敗しても、楓を守れるくらいに。




楓によそよそしくなったのは、そのころからであろうか。

結局、今まで楓を守るどころか、傷つけてばっかりだった気がする。


今だってそうだ。


楓を守ろうとして、結局楓は連れ去られてしまった。


これじゃあ、昔と変わらない。


それじゃいけないだろう、宝条雷牙。


どうすればいい?


どうするのがいい?



決まってる。



助けに行けばいいのだ。



連れ去られたと言っても、男の言葉を信じるなら、楓はまだ生きているはず。


一度目は海で守れなかった。


二度目は連れ去られるのを黙って見ておくことしかできなかった。


三度目は、これからだ。


三度目の正直だ。二度あることは三度ある、なんて言わせない。




今度こそは、守ってやる。




   ††††




オレはゆっくりと目を開けた。見慣れぬ天井が目に留まる。

「……ここは?」

オレは寝たまま首を動かしてあたりを探った。

どうやらオレは、タイル張りの床に寝かされているらしい。だが、直ではない。

誰かが敷いたのか、あるいはもともと敷いてあったのかどうかは知らないが、タイル張りの床の一角には柔らかな毛布が敷かれていた。その上に、オレは寝かされているようだ。


だが、ひどく場違いなところに寝ているのは間違いないだろう。明かりが煌々とついているおかげで、部屋の中を一部分だが確認することができた。


すぐ近くには長椅子の足が見て取れ、その奥にはどこか見たことのあるような、金属製のロッカー……。


「……まさかここ、生徒会室か……?」

オレはさらに確認しようと、寝ている身体を起こしにかかった。

「……っつ」

すると体のそこかしこから、鈍い痛みが走った。オレは痛みに眉をひそめつつ、皮肉気につぶやいた。

「……ったく、似たような体験を、つい最近もしただろうが。懲りねえな、オレも」


だが、今回は全く動けないというわけではないようだ。痛みは走るが、オレは何とか立ち上がる。

「でも、一体なんでこんなとこに寝かされてるんだ……?」

きちんと敷かれた毛布を眺めながら、オレは首をかしげた。


少し考えてみる。


……オレはあの男に手痛くやられて、そのまま気を失ったんだよな。

普通だったら、誰かに見つけられたら病院に連れていかれてるはず。

……しかし、今はわざわざ生徒会室だ。

まさか、あいつがオレをここまで運んだのか……? 病院じゃ、最悪抜けれないかもしれない。だからあの男が、オレがまっすぐに来れるように、ここに寝かせつけたのか? だがしかし何故生徒会室なのか? いや、そもそも本当にあの男がオレを運んだのか――




「……いや、関係ないな」




オレは言いつつ首を振った。


重要なのは、ここが奴の指定場所の目と鼻の先だということだ。



「……上等だ」



オレは時計を探した。幸いにもすぐ近くの壁に掛け時計があった。その時計は、あと三十分たらずで指定の時間になることを示していた。

「かなり意識がなかったみたいだな……」

オレは、長々と眠っていたのに指定の時間前に起きることができたことに、軽く安堵した。


『今夜、零時。昨日、俺がいたところで、待ってやる。それまで、この女を生かしておいてやろう。取り返したくば、武器でも何でも持って、やってくるがいい』


不意にあの男の言葉がよみがえった。

「……武器、か」

そうつぶやいて、オレはあの(・・)ロッカーに視線を移した。




   ††††




今日は満月だった。

月明かりが思いのほか強く、グラウンドは真っ暗ではなく、どこか神秘的な輝きをしていた。


ザッ、と砂を踏みつける音が無音の空間に響いた。



「……時間通り。律儀だな」



「……まあ、な」



暗がりの中、男の仮面が月明かりを浴びて鈍く光る。


「……約束通り、女は生かしておいたぞ?」


「当たり前だ」


オレの金髪も、月明かりを浴びて虹色に煌めく。

オレと男は、十メートルほどの距離で対峙した。男から横に視線を移すと、体育館の外壁に寄り掛かるように、楓が座って目をつぶっているのが見て取れた。


「言いつけどおり、楓を取り返しに来たぜ」

オレは楓から男に視線を移した。男はくくく、と笑う。


「……取り返しに来た、ね。……無様にやられに来た、じゃないのか?」

「そんなもん、やってみなくちゃ分かんねえだろ?」

「くくく……一度ひどくやられたというのに、懲りないやつだ」

そう言って男は、仮面越しにオレの顔から少し視線を下げた。


「それは、自信の表れか?」


それにオレは肩をすくめる。

「ふん、武器でも何でも持ってこいって言ったのは、お前だろう?」

オレは言いつつ、今まで抱えていたものを抜き放った。



「言われた通り、持ってきてやったぜ」



オレがこの場に持ってきたのは、生徒会室のロッカーに入っていたあの大剣だった。初めて刀身を拝んだが、素人のオレでも名剣なのだろうとなんとなく分かった。


オレがその剣をひどく重そうに構えているのを見て、男はくくく、と笑った。

「……えらく不釣り合いな武器だな。ちゃんと、扱えるのか?」

「当たり前だろ……っとと」

オレは少しバランスを崩し、ふらふらと左右に動く。男がそれに小さく笑ったので、オレはむっと、顔を赤くしてだらんと剣先を下げた。


そうしてゆっくりと、剣先を自分の右のわきにずらす。



「……さあ、来いよ!」



オレはぐっと両手に力を込める。男はそれに肩をすくめたが、


「……まあ、いいだろうっ」


と、一気にオレのほうまで駆けてきた。



「っでぇりゃっ!!」



男が間合いに入ったと思ったオレは、一歩前に出て体ごと大剣を横に薙いだ。ブオンッ、と重苦しい風切り音とともに、きれいな銀色の軌跡が暗闇に現れる。


しかし直前の姿勢から、オレが大剣を横に薙ぐしか攻撃方法がないということを、男は分かっていたのだろう。冷静に大剣が振られる直前にバックステップをして、大剣から逃れた。


だが、オレもそれは分かっていた。



「まだまだっ、食らえ!」



大剣の遠心力で一回転して元の向きまで戻ったオレは、左手を男に向けて、それまでに唱えていた電撃の初歩魔法を放った。

電撃は薄紫の軌跡を残しながら、一気に男のもとに走った。


「……っ」


男は予想外の反応だったのか、若干うめき声を漏らす。そのまま、土煙の中に男は消えていった。


「やったか!?」


オレはぐっと拳を握った。


だが、すぐに違和感を覚える。




……土煙が、多すぎないか?




オレはじっと土煙の先を眺めた。


すると――




「くくく……さっきのは、驚いた」




「っ!? ぐはぁっ」

男の声が背後からしたと思ったら、背中に強い衝撃を覚えた。たまらずオレは、片膝を地面につけた。


「い、いつの間に……っ」

呻きながら、オレは背後を振り返った。



「……土煙の多さに勘付いたようだが、まだまだ、甘かったな」



そこには、全くの無傷で男が悠然と立っていた。


「くっそ!?」

オレは続けざまに電撃を放つが、男はことごとく避けた。


「……お前、先ほどから、つまらない電撃ばかり。まさか、手を抜いているのか?」

何度目か電撃を避けたところで、男は冷めた口調で言ってきた。


「な……んだとっ」

そのころオレは魔力の使い過ぎか、かなり息が上がっていた。

「雷属性の特性を、まるで分っていない」


淡々と言いつつ、男は一気に距離を詰めてきた。オレはその動きに反応できなかった。男はそのまま、膝をついているオレの腹を、遠慮なく蹴り飛ばした。


「あ、がはっ!?」


男の蹴りは想像以上に重く、小さな体はころころと砂の上を転がった。


「くくく……手土産だ。少しレクチャー、してやろう」

「うぐっ」


男は面白そうに、オレを踏みつけて言った。

「雷属性は、確かに電撃を飛ばしたり、遠距離にも適している。威力も、あるからな。だが、お前のような前で戦うやつには、もっといい使い方がある」



それは、身体能力の向上。



「身体能力の、こう、じょう……?」

「基本的には、どの属性にも、その使い方はある。俺は闇を使うが、身体能力を上げているおかげで、さっきの電撃も避けていたようなものだ」


男はおもむろにオレから足をどけた。そのまますたすたと、オレから離れる。


「雷属性の特徴は、その身体能力の向上性能が、ほかの属性より抜きんでて、高いことだ。特に、速さに関しては、機動力重視の風属性よりも、直線距離を走らせたら、速い。柔軟な旋回は、風属性に劣るが、まさに『光速』と言える速さだ」

歩いていた男は不意に立ち止まった。よく見ると、すぐわきにオレが手放した大剣が落ちていた。


「……かの有名な英雄、フルミナ・レーゲンも、その光速を、自在に操っていたらしいぞ」


ゆっくりとした動作でその大剣をつかんだ男は、二、三回大剣を振った後、その細い肩に窮屈そうに担いだ。



「……重いな。……さすが……だね」



と、そこでぽつりと男がなにか地声でしゃべったが、オレのところまでははっきりとは届かなかった。


「……さて、ここで質問だ。何故、俺はこんなことを、話したと思う」

再び男は歩き始めた。さらにオレからは遠ざかる。


「答えは、お前があまりに弱く、つまらないから、だ」


「……っ、てめ……え!?」

オレは男が向かっているところに見当がついて、思わず呻いた。



男は、眠っている楓のすぐ目の前に立った。



「……お前は、この女を大事そうに、守ってたな」

くくく、と男が笑う。


「この女の腕でも斬れば、お前も本気を出すか……?」


「っ!? 貴……様ぁっ」

オレは体に力を入れるが、帰ってきたのは激しい痛みだけで、ちっとも体は起き上がらない。

「おお、元気になったな……じゃあ、実際に斬ったら、どうなるかな?」



「っ、があああぁぁぁぁぁっ!!」



オレは叫んだ。だが、両手を突っ張るだけで精一杯であった。

「くくく、仕方ない。十秒、待ってやる。それまでにここまで来て、女を助けてみろ」

「十……九……」と男が数え始めた。オレは必死に立とうとするが、どうしても足が言うことを聞かない。


くっそ! 動けよオレの足!! 


その間も、着々と男は数える。




「っ、動けっつってんだろぉぉぉっ!!」




悔しさのあまり、オレはドカンと拳を地面に叩きつける。

と――、



『焦らないで』



声が聞こえた。



『落ち着いて。君なら、出来るから』



不意にブレスレットに違和感を覚える。



『私の認めた、君なら……』



ブレスレットから、魔力が流れてくる。





『最後まで、私のことを助けようとしてくれた、あなたなら――』





バチンッ、とすぐ近くで電気が弾けた。


戦闘シーンは本当に描写が難しいです。少しでも臨場感が出ていたらいいなぁ……。


次回は、主人公の本領発揮です! ……といっても想像しやすいですがね。


そしてストックと展開の都合上、短くなるかもです。


誤字、脱字、修正の指摘、感想をお待ちしています。


10/5 少し文章を編集しました。

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