え、オンナノコ? 魔法? チョット待て! 4
「…………」
ぎぃ、と金属製のロッカーを開け中を見たオレは、正直に眉を寄せた。
「…………なあ、聞いてもいいか?」
「なんだ」
「…………これ、なに?」
「見ればわかるであろう、服だ」
「いや、そりゃ服なんだろうけどさ。じゃ、言い方変えよう、……なんでこんなもんがあんの?」
ロッカーの中には、様々なもののほかに、確かに服が一着掛けてあった。それの正式名称があるのか、オレは知らないけれども、この服がこういう言われ方をしているのは、聞いたことがある。
『ゴスロリ衣装』と
「知らぬ。意気揚々と黒塚の道化が持っていたのは知っておるが」
「なんでこんなもん持ってんだよあいつ!?」
「知りたければ本人に聞けばよいであろう」
「うわー聞いといてなんだが、なんか知りたくねぇ!!」
「いいから、今はそれを着ておれ」
「いやいや、こんなもん見たことねえし! 着方なんか分からねえよ! おまけにサイズだって……」
そう言いつつも、これしかなさそうなので必死に着ようと試みた。なんとか着れたところで、オレは一言、
「うわっ、サイズぴったりなんだけど、なんで!? こわっ」
初めての着心地に、少し興奮。ついでに黒塚に恐怖。
……まさかこうなることを予測……してないわな、あいつも驚いていたし。え……じゃあ、何……。
「……どうでもいいが、話をしてもいいか?」
「え?」
ふんわりした袖やスカートを、物珍しく眺めていたオレはレオンの声に視線を移した。
「改めて言うが、その姿はフルミナ・レーゲンのものだ。故にお主にもその力が使えてもなんら不思議はない」
そう言ってレオンはおもむろに、ふうっと息を吐いた。
すると口元に小さな透明な結晶が現れた。その結晶はレオンの意志に沿うように、視線の先にいるオレの元にやってきた。
「それは、お主の属性の適性をはかるものだ。火なら赤、風なら緑という感じで各々色の光を発してくれる。……軽く手のひらを当ててみるがよい」
「属性の適性……、そういえば楓の奴は光がどうとか言っていたな。もしかして、それか?」
「そうだ。早く触れてみるといい」
オレはごくっと唾を飲み込んで、ゆっくりと属性の適性を調べてくれるという結晶に触れた。
さて、オレの適性とやらは一体なんなのか。
いや、オレの適性じゃないか。どちらかというと、フルミナ・レーゲンの……。
「……なんだ、これ?」
くじを引く前のような緊張を解いて、オレは結果をだした結晶を見ると、ぽつんとつぶやいた。
「おい、結局これはなんなんだ?」
驚くことに、結晶は虹色に輝き、かと思ったら薄紫色に変わったりと、はた目には結果がよく分からない状態であった。
「これ、まさかの失敗とかなのか?」
結晶を指さしながらオレはレオンに聞いた。
するとレオンは首を横に振った。心なしか、その顔には、予想を裏切らなかったという喜びのようなものが見てとれる気がする。
「失敗などではない。それがお主の適性なのだ」
レオンが操作したのか、結晶はオレの元を離れレオンの近くに浮遊し始めた。
オレは肩をすくめて、
「適性って言ったって、それじゃあなにが適性なのか分からないだろうよ。まさか、虹色ってことは、まさか全属性にオレは適性あるってか?」
そんな反則あるわけない、と思ったオレは冗談半分でそう言う。
しかしレオンは真顔で、
「その、まさかだ」
そう言ってのけた。
オレはあっさりと反則……なのか知らないが、それがまかり通ったことに、感動よりも先に複雑そうに眉をひそめた。
「……はあ。やっぱりそれって、すごいことなのか?」
そもそもの基準を知らないので、オレはレオンに確認をとってみた。
レオンは小さくうなづいて、
「非常に稀有……いや、唯一と言ってもいいのかもしれぬな。三色や四色を操る者はいるのだが、全色操れるのは、我が見てきた中ではあるが、お主のその身体の持ち主……フルミナ・レーゲンだけであろうな」
「へ、へえ。さすがは英雄様だな。……あ、それじゃあ、あの薄紫色はなんなんだ? 一色だけ個別で現れたやつ。まさか、あれがオレ自身の適性ってやつ?」
オレは小さな体になった自分を見下ろしたあと、不意に出てきた疑問をひっさげ顔を上げた。
「そうだな。正確に言うなら、フルミナの力をまともに引き出せるのがその属性、というところだがな」
「ふーん。……でもさ、一応オレ自身はその属性なわけだな。ちなみに、薄紫色って何属性?」
オレの属性、というところに期待を持って聞いてみる。
さて、薄紫とはなんであろうか。
「薄紫は雷であるな」
「へー、雷かあ、雷ねえ……。……それって、名前で決めたるわけじゃ、ないよな?」
一応、といった感じでオレは尋ねる。
オレの名前が雷牙だから雷とかだったら、あまりに安易すぎる……。
「そんなわけがないであろう。名前ではなく、ちゃんとお主の天性の適性をみているわけなのだからな」
「そ、そうだよな」
あはは、とオレは軽い笑い声を出した。生徒会室に乾いた小さな女の子の笑い声がひびく。
「……で、魔力制御が分からないから、どっちにせよ使えないと……」
「そうだな」
「ついでに言うと、元にも戻れないと」
「仕方あるまい」
はぁー、とオレはため息をつきつつ、ガションとロッカーに背を預ける。
すると、ごと、と中から物音がした。
「……ん?」
いったん背を離したオレは、物音の正体を確認すべく改めてロッカーを開けた。
すると――
「えっ、うわ――」
ガチャーン!!
大きな音を立てて、ロッカーから何かが倒れてきた。かろうじて身を反らして激突を回避したオレは、倒れてきたものの正体を確認した。
「……って」
確認した途端、オレは真っ青になる。
「あ、あ、ああ、あっぶねぇなあ!!」
倒れてきたのは、オレの身長はありそうな(元の体だったら、そうは表現しないがなっ!)金属の板であった。こんなのに轢かれた日には、たまったものじゃない。
てか、なんだこの金属の板――
……いや、ただの金属の板……ではないようだ。
「……剣か、これ?」
よく見ると鞘がついているようだが、徐々に先が細くなり先はとがっているようだし、反対側には鍔らしき物も、にぎりも見て取れる。
ゲームなどでよく見る剣。しかもこれは大剣のようだ。
「いや、なんでこんなもん……てか、この服といいこの大剣といい、なんだこのロッカー!」
中身が混沌としている。どっからこんなもの仕入れてくるのだろうか。
「まったく、騒がしい奴よ。少しは落ち着かんか」
「こんなのがあるこの部屋がおかしい!」
ため息交じりのレオンに対し、オレは抗議の声を出す。
「……まあ、その服に関しては何とも言えぬが、その剣に関しては大して問題ではあるまい。これからはお主も必要となるのだぞ?」
諭すようにレオンが言った。オレは眉をひそめる。
「は? 剣が必要になるって……そういえば、お前らは魔法を何に使ってるわけ?」
「ん? それこそ愚問であろう」
ふん、とレオンは鼻を鳴らして、
「もちろん、戦うためだ。魔物と……あるいは魔法使い同士で、な」
ファッションについては、知識も文章力も低いのであまり期待しないでください。すみません。
これは次回にも言えることです。
というか、服の話が出るたびに言えることです……。本当に申し訳ないです……。