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一目惚れなのに何故か爵位目的と勘違いされていた話

作者:
掲載日:2026/03/20

頭を空っぽにして読んでいただけると。途中視点がころころ変わります。大分雑ですので気になっても見逃してください。






一目惚れ。




そんな言葉しか出ないくらいに彼、レオナルド様を見た瞬間に恋に落ちた。




そんなレオナルド様は侯爵家のご当主様。

なんと武術にも優れていて、国境付近にある領地では隣国との小競り合いが頻繁にあるらしく、常に戦っておられる領地の騎士達を自ら鍛え上げる程の腕前。



彼を見掛けたのは、夜会だった。


子爵令嬢の私は爵位はさして高くないのだけれど、国内屈指の大規模な商会を主に商いとしているので特別に格式あるパーティーに招待されていた。


見栄えは良い方である(わたくし)は様々な男性に声をかけられて疲弊していた。

その中のひとりの強烈なアルコールの香りを放っている男性に強引に手を引かれ、私よりも当然爵位の高い殿方からのお誘いをどうやってやり過ごそうかと、とにかく笑顔を絶やさないではいたものの内心困っていた所を間に入ってくださったのが彼だった。




「失礼。少しお話があるのだが、宜しいだろうか伯爵殿。

ご令嬢も、宜しいか。」





彼が此方に顔を向けた時、私は目を見開いた。




雷に打たれた衝撃が走ったとはこのことか、と後にしてみれば思う。

が、その時の私は正気を保っていられなかった。

自分の顔なのに表情のコントロールが出来ず、扇で表情を隠すので精一杯だった。



な、なんて事…。

こんなに素敵な殿方が居ていいの…!?

鍛え抜かれた服越しからでも解る頑丈そうな身体、

男らしいお顔、低めだけれど、よく通る声……

何より…何より雰囲気が…!!!

とても独特で……!!

とても好き!!!!!!


存在全てが私に刺さりまくっていた。




お礼を言おうとするが、緊張からか声が出ない。




「あ、…」


「では失礼。」




颯爽と去ってゆく彼の姿を私はずっと目で追いかけていた。







「ーーーという事がありましたのお父様!!!」


「アーティ、はしゃぐ姿はとても可愛いけど、パパ悲しいなぁ」


「他の方に伺ったらレオナルド・サーファル侯爵様というお方ですって!!」


「サーファル侯爵家かぁ…」


「お願いお父様!!!ひと目!ひと目だけでいいのもう一度遠目からでも御会いしたいの…!!!」


「君の性格上それだけで終われないよね?アーティ」




私はとにかく頑張った。

頑張って頑張って、「国境付近だから領地結構戦争多いって聞くし、うちより裕福じゃないし格上だし、ちょっと厳しいんじゃないかなぁ、」と渋るお父様を説得(粘り勝ち)して、実家(お金)の力もちょっとだけ借りて、彼の妻という地位を手に入れられたのだ。



そんな私を旦那様(絶対そう呼びたかった)は困ったように見ていたれど受け入れてくれているみたいで昇天。



無事に何事もなく婚姻して、あっという間に2年が経とうとしていた。

朝起きるとメイドを呼ぶのが普通なのだけれど、私の専属メイドは呼びつけても来てくれないので自分で支度を済ませる。


あまり良く思われていないのかもしれない。


でも旦那様の生活を支えてくれている存在なので、有難い存在だ。

朝食はきちんと用意してくれるので困ることはない。

部屋が別々の私達夫婦は朝食で朝初めて顔を合わせる。



「おはようございます」


「ああ。よく眠れたか。」


「はい、旦那様」




はあああ朝から素敵なバリトンヴォイスありがとうございます。


朝からとても素敵な存在を拝める事に感謝して食事を済ませると、最近また隣国の動きが活発になっている様で、旦那様は直ぐに軍事演習に向かわれるのでお見送りをする。

「いってらっしゃい」も妻の仕事ですからね。特権ですから。

旦那様をお見送りした後は執務室で執事やら商人やらと領地計画の色々打ち合わせ。


お昼からはお義母様とマナー講座兼ティータイム。公爵家のご令嬢だったらしく、マナーがとても洗練されていて素敵なお義母様だ。

旦那様はどうやらお義父様に似ているらしいのでお顔は似ていないが、旦那様を産んでくださったお母様なのでとても有難い存在。




「アーティさん、マナーがなってなくてよ。お金にものを言わせていたようね。」


「すみませんお義母様」


「貴女を娘だなんて認めてません。子爵家はどういう教育をされていたのかしら。」


「とても優秀な家庭教師をつけて貰っていました。私の能力不足なのです。努力いたします」


「ふん」




たぶんあまり良く思われていないけれど。



マナー講座が終わった後は家政の事や領地の事で執務室で執事長と話していると、義弟であるレオン様がノックもなしに部屋に入り、ソファーに腰掛けじろりと私を睨み付ける。




「成金様は数字にとてもお強いようで」




成金とは私の生家であって私ではないのだけれど。

16歳と、私の2つ下のレオン様は王都の騎士学校に通われていて、今は長期休みの最中なので帰省中だ。義姉と呼んでくれない彼は暇を見つけては執務室によく来られる。レオン様も将来的に旦那様のお力になってくれるお方なのでとても有難い存在だ。ちなみにレオン様はお義母様似らしく、旦那様には全く似ていない。




「浅ましくも散財しようと考えるなよ。我が家の財産だからな。」


「承知しております」


「ふんっ」





きっと良く思われていないけれど。




でもでも旦那様のご家族からの当たりは特に強いけれど気にしなーい!

毎日彼に会えて、毎日彼の役に立とうとマナー、社交界、家政、色々頑張っている。とてもとても忙しいけれども彼に尽くせてハッピー!




「お帰りなさいませ旦那様」


「ああ。不自由なかったか」


「はい」




お出迎えも妻の役目!特権ですから!




「おやすみなさいませ旦那様」


「ああ。今日は冷えるから多めに着込むように」


「はい」




おやすみなさいも言えちゃうのよ。妻って素晴らしいわ。


なんてお優しい旦那様。

存在だけで有難いのに、あんなにお心も優しい素敵なお方に嫁げた私最強なのでは。今日も旦那様を想いながら眠りにつく。いい夢見れそう。




そんな素敵なハッピーライフな日々を送っていたのだけれど、事件が起こる。








「旦那様が大怪我!?」




なんと旦那様が突然攻めてきた隣国の敵からの毒を食らい、左上半身に大怪我を負われたのだ。


執務なんて投げ出して慌てて旦那様の私室へ向かうと、包帯で半身覆われた旦那様がベッドに横たわっていた。



嗚呼。そんな。旦那様の素敵なお姿が。



とても痛々しくて泣きそうになるのを堪える為に俯くと、その様子を見ていた義母と義弟、メイドの私を見る目がとても冷たくなった。が、そんな事には気付かない程私は動揺していた。




「奥様、」



執事長の一言にはっとして、気を引き締める。狼狽えるだなんて、旦那様の妻として失格だわ。




「お医者様、詳しい容態を」




急ぎ呼び寄せたお医者様は、巻かれていた包帯を手解きながら厳しい声色で言った。


包帯から現れた旦那様の痛め付けられた皮膚が見えると「ひっ」と誰かの小さい悲鳴がしたが気にしていられない。



「はい。軍医の応急処置が良かったのでしょう。命に別状はありませんが、刺激が強いものを浴びたようで、刺されたように痛むと思いますのでとてもお辛いと思われます。数週間で治りますが、傷痕も残るでしょう。」


「そんな…」


「このように軟膏を丁寧に優しく塗って差し上げると、痛みが和らぎます。毎日3回です。欠かさず塗ることによって、後遺症が出てくることはないでしょう。包帯はこまめに交換して、なるべく清潔を保ってください。」




傷痕は残ってしまいますが。ともう一度言われるが、後遺症がなくなると聞いて少しは安堵した。

包帯の巻き方まで丁寧に教えてくれたお医者様は、暫くは毎日来ますと言い残すと邸宅を後にした。


お医者様が去った後のお部屋には、私と執事しか残っておらず、顔をしかめた。




「皆様は?」


「刺激が強かったようで…出ていかれました…」


「…そう…。」




確かに刺激が強かったのかもしれない。

苦しそうにされる旦那様の横に座って、冷や汗を拭う。 


今日は此処に居たい…。


執事に急ぎの案件だけ持ってくるように指示をして、旦那様の机を拝借して執務する。普段ならば旦那様の机を借りられたと舞い上がるものだけれど、今はそんな邪心は全然出てこなかった。




「う…」


「旦那様? お水ですか?」


「…すまない」


「妻ですよ。お役目です」




無理して起き上がろうとする旦那様のお口にコップを持っていき飲ませると、旦那様は少し表情を緩めて再び目を閉じた。

その後も旦那様は魘され、冷や汗を拭ったりお水を飲ませたりして夜遅くまで彼を診ていた。そんな事をしていると、気付けば眠ってしまっていたらしく、目が覚めるとカーテンから覗く光が薄く入ってきていた。




「(朝…。)」


「ーーー…アーティ、ずっと診てくれていたのか」




掠れた声が上から降ってきて、ぱっと顔を上げると旦那様の目が開かれていた。



「旦那様、お目覚めですか。御体の具合はどうでしょうか」


「大したことではない」




そうは言うものの、お声が少し震えたのがわかってしまった。我慢なされているのだ。私が代わって差し上げたい。泣きそうなるのを堪えるために少しの間うつむいた。その間に旦那様は再び眠ってしまい、そういえばお薬を塗る時間なので執事を呼びつけると、包帯を取った旦那様の皮膚を見た執事は顔色を悪くした。


前の様子を考えてメイドは無理だろうと執事を呼んだけれど、その執事も手が震えていてとてもじゃないけれどお薬を塗れる状態ではない。唯一あの場から退出しなかった執事長ならば大丈夫だろうが、執事長には色々仕事を任せてしまっているので忙しいだろう。私で差し支えなければ私がやってもいいだろうか。

私は(違う意味で)震えそうになる手を理性で押さえ付けて、旦那様の御体に薬を優しく塗っていく。少しでも痛くならないように。慎重に。


流石にちょっとだけ。ちょっとだけよ?邪念が芽生えたけれど赦して欲しい。



簡単な書類は執事長に回して、重要な書類だけ旦那様のお部屋でやるようになった。お食事もお部屋で摂れる簡単なものにして貰って、旦那様になにかあってもすぐ動けるようにした。旦那様が魘されれば汗を拭き、お水を飲ませ、こまめに包帯を換えお薬をきちんと教えられた通りに塗った。お着替えやトイレは流石に出来なくて執事にやってもらったけれど。


そうしていると段々旦那様は起きられる時間が増えて、お食事も少しずつだが摂れるようになり。



「君は休めているのか」


「勿論です旦那様」


「いつも俺の世話や仕事をしている気がするが…」


「(旦那様を見る事で)沢山休憩させていただいております」


「…そうか」




1週間も経つと会話出来るまで回復された旦那様の体力に驚く。

そんな今は、夢にまでみた「あーん」をさせていただいて天にも昇るようだ。私が差し出した回復食を口にする旦那様になんとも言えない気持ちで胸がいっぱいです。もう少しこのままでもーーー……






「完治ですね」





あっという間だった。なんと旦那様は3週間で治られた。


傷痕をよく観察され、お医者様が仰られた。包帯を取った旦那様の左上半身はやはり火傷痕のように残ってしまい、左側のお顔も同じように痕が残ってしまったけれど視力には影響はないようだった。


お医者様がまだなにか仰られているけれど、何故か聞き取れなくて、ぼーっと自分の思考に入り込んでしまう。


視力に問題が無くてよかった。お顔にも痕が残られてしまったけれど、旦那様はお辛くないかしら?旦那様の苦しみがなくなられるのはとても良いことよ。とても嬉しいの。でも、でも、とてもとても不謹慎で自分が嫌になるのだけれど、今も尚国境で頑張られている騎士様達にも申し訳ないのだけれど、もうちょっとあの幸せな空間が続いて欲しあああこんなことを思っては妻失格だわ最低よ私は。あとで叱責を受けないと。ああ、でも。旦那様が生きていてくれて、回復してくれて、ほんとうによかっ……





「………あら?」





視界がぐるりと揺れた。


どうして…目…回る…。




「アーティ!」




嗚呼、焦ったような旦那様のお声も素敵…。














急に意識がなくなったアーティに、レオナルドは焦る。

傷痕を見て気を失ったのだろうか。火傷痕のようなこれは決して薄くはない。ショックを受けたのだろうか。



丁度診察に来ていた医者からは「過労です」とのこと。




言われてみればそれはそうだ。


少しずつ回復して喋れるようになってから「休めているのか」と聞くと「勿論です」ときっぱり言いのけるものだから、体の痛みもあってか気が回らなかったが、彼女は常にと言っても良い程、側に居れくれたのだ。


母も弟もメイドですら最初の傷を見て部屋からすぐ出ていったと聞くが、彼女はレオナルドが倒れてからと言うもののほぼ常に看病してくれていた。

使用人に言いつければいいであろうに、自分が目を醒ますと隣には必ず常に彼女がいて、とても献身的に尽くしてくれていた。休めている訳がない。


そっとアーティの私室のベッドに寝かせると、何故か嬉しそうに笑うものだから、回復してから初めてレオナルドは口角が上がるのを自覚した。




社交界の紅薔薇とも名高いアーティは、レオナルドには勿体無い程の容姿をした美しい女性だった。

最初に縁談が持ち込まれた時には、何故と心底不思議に思ったが、容姿も素晴らしく整っていて教養も財産もある、彼女に無いものは爵位くらいだろうかと推測したがーーー…



「レオナルド」



当時の事に耽っていると、同じ考えであろう母と弟がノックも無しにアーティの私室に入り込んできた。


マナーに厳しい母がアーティの事になるとこれだとレオナルドは顔をしかめる。この2人は特にレオナルドが居ない間にアーティに小言を言っているらしく、何度も嗜めているがなかなか直らず思うところがあるが。



「ご快復おめでとうございます。兄上」


「ああ。」


「傷は残ってしまったけれど、後遺症もなくよかったわ」


「ありがとうございます。」



アーティの見舞いではなかったらしい。

彼女の部屋に無断で入室したのは後で苦言を言うとして、やけに母の大層明るい雰囲気にこれはまた機嫌が良いなと思っていると、母は口を開いた。




「それでね、貴方に相談があるのだけれどね、レオナルド。これを機にその子と離縁してはどうかしら」





離縁。


レオナルドの耳にやけにそれが重たく聞こえた事を自覚した。



「ーー…何故」


「事故だからしょうがないにせよ、貴方の顔には傷が残ってしまったのよ。

私達は家族ですもの。気にならないわ。寧ろ誇りに思います。けれどその子は…?」



母は目を閉じているアーティにちらりと視線を寄越し、扇子で顔を覆った。

隣に居る弟や後ろに侍る使用人に視線を寄越しても、同じ様な冷たい表情でアーティを見ていた。


唯一顔色を赤くしたのは執事長で、彼の瞳には怒りが在る様に見えた。



ふむ。レオナルドは考える。




『(ーーー…手が、震えている)』



朦朧とする意識の中で覚えているのは、常に看病してくれていた震えた彼女の手だった。醜い姿であったであろう俺に心優しいアーティは躊躇う事無く尽くしてくれたが、怯えからか手が震えていた事が忘れられない。

離縁と聞いた時はそんな気は全く起こらなかったが、彼女の立場を考えてみる。


こんな姿ではアーティを不快にしかさせないだろう。

社交界によく出る彼女にとってこんな夫は不利益にしかなり得ない。


この国で離縁は比較的寛容だ。

とても美しく優秀で戦地に力を注ぎたい俺の仕事を全力でサポートしてくれた素晴らしい女性だ。離縁したとて、彼女を欲しがる男が居ないわけがない。


愛する我が妻を手放す事は苦渋の決断にはなる。

一生後悔するだろう。もう自分の妻は彼女以外考えられない。こんなにも頼もしく素晴らしい女性なんて居ない。たとえ彼女は爵位目的の結婚だったとしても、幸せだった。だが、彼女の今後の事を考えると手離した方が良いのかもしれない。





ーーーー離縁か。確かにそうだな。









「離縁…? なぜですの…?」




目を覚ましたアーティは告げられた言葉に愕然とする。気を失っていた間に一体何が…。寝起きの頭だが、必死に思考を張り巡らせる。



「(看病にかまけてこそっとべたべた御体を触ったていから…?旦那様が寝ている間にこっそりほっぺ(以外にも顔中)にキスしたのバレた…?お水を飲ませる時や御体を拭く時に興奮やら緊張やら興奮やらで手が震えて気持ち悪かった…?堂々と旦那様と四六時中一緒に居られるという私の浅はかな気持ちがいけなかった…?

考えてみると色々駄目かもしれない。どうしよう。絶対に離縁して欲しくないのだけれど…)」




ーーー無自覚だが、アーティは爆発寸前だった。

レオナルドの負傷。レオナルドの傷を見ると退出してしまった義家族。レオナルドが負傷したにも関わらず心配はすれど看病出来ない使用人。執事長にかける負担。現役を退かれた義父をも戦地に向かわせてしまった負い目。レオナルドの辛そうな様子。レオナルドの傷痕。レオナルドの負傷による要因が、知らぬ間に限界ゲージを突き破りそうだった。そして追い討ちをかけるかのように離縁の宣告。




「こんな醜い姿でもあっても献身的に看病してくれた事はとても感謝している。それ以外でも、君はよくやってくれた。だが、この姿は君にとっては辛いだろう。閨すらも出来ないのでは子も授けられない。」




メンタル激強のアーティでも、もう限界だった。我慢の。




「閨…!?閨が出来ませんの?旦那様が閨が出来なくとも私なにも問題ありませんが、私の事をお嫌いになりましたか!?

ね、閨がなくとも後継者は養子ではいけませんの!?」


「君を嫌うなんて有り得ない。俺ではなく君が嫌になったのではないかと」



思いもよらないアーティの初めて聞く凄んだ荒い口調に、レオナルドは内心驚きながらも落ち着いた様子で話すよう努めるが。



「私がですか…!?旦那様がどんなお姿だろうがなんの問題もございません!私の気持ちを勝手に決め付けないで下さいませ…!!

では旦那様の御体がどこかお悪いとかではありませんのね?」


「そ、そうだな…」


「それならば問題解決ですわね!?」


「そうだな…?」


「それならばもう二度と離縁などと口にしないでくださいませ!」




我慢の限界を迎えたアーティは、今までの声を荒らげた事など一切ない旦那様に向かって怒鳴りに近い声量で訴えた。


ぷりぷり怒るアーティの圧力に押され、そこまで言ってくれるならこのままでも良いか。俺はアーティの事を愛しているし、アーティもそう言ってくれるのでは問題ないのではとレオナルドが口を閉じようとすると、黙っていられないのが義母と義弟だ。



「貴女はどこまでもこの爵位が惜しいようね。」

「そうですね。なんて図々しい。離縁を切り出されたのだから、潔く頷けば良いものを。」


「……?」



怒れるアーティが反応したのは、自分を蔑む様に見る義家族の視線などではなかった。

とても怪訝な顔になる。どうしてそこで爵位が出てくるのか全く理解出来ないかった。



「…爵位ですか?」


「知っているんだぞ!お前は侯爵夫人という立場が欲しくて持参金を積んで結婚まで漕ぎ着けたんだと!!」



興奮しそう良い放つ義弟とその言葉に同調するかのように睨んでくる義母や使用人の様子に、これまでの冷遇にやっと納得がいった。使用人が私だけに冷たいのも、お義父様は何も仰られないが義家族が私に冷たく当たるのも、全て。




「…どなたがそれを仰られたのですか? 私、爵位など全く拘りがない人間なのですが。」



えっ。レオナルドは驚愕の眼差しでアーティを見る。



「俺の爵位目的じゃないのか?」



レオナルドの言葉に今度はアーティが驚愕だ。怒りなど吹き飛んで、恐怖すら覚えた。



「まぁぁ旦那様!もしや旦那様もそう思われていたのですか!?」




義家族はいい。義家族はいいがもしや。旦那様すらそう思っておられた!?

アーティは大変混乱している。どこでどうしてそうなってしまったのか。



「爵位なんて関係あるとお思ですの私に!!

旦那様に出会うまで爵位よりもお金重視でしたのよ!?

だって爵位があってもお金がなければ生活もなにも出来ないではありませんか!!私には必要ありませんことよ?」


「ならば…財産目的ということかしら…?」




また義家族と使用人から白い目を向けられるが、アーティーは怪訝な顔をしてはっきりと言いのけた。




「そもそもはっきりと言わせていただきますと、侯爵家の国境付近の戦事抜きにしましても我が生家の方がこの領地よりも遥かに潤っておりますので、ここに嫁ぐ意味は政事においてまっっったくありませんわ。」




た、確かに…!!



その場に居た全員が頷くほかない。

アーティの生家はこの国屈指の大富豪。

小競り合いが多いこの家がアーティーの生家を凌ぐとは思えない。寧ろ結婚に伴い侯爵家に有利な条件ばかり提示してもらっていた為、助けられてすらいて子爵側にメリットはなにもない。

つまるところ、財産目的で嫁ぐ意味が全くないのだ。




「でも、家政に口を出していたじゃない…!」


「家政を取り仕切るのは女主人として当たり前ですわよね?

妻の!お役目!ですわね!

旦那様のご負担を少しでも減らしたく、少し張り切らせて頂きましたので大分領地が潤ってきてとても嬉しく思いますの!」


「奥様は家政の能力に加え領地経営が大変優れておられまして、大変ご尽力されたので収益は奥様が来られる前の3倍になっております」


「さ、3倍!!?」



今まで黙っていた執事長だったが、我慢の限界だったのだろう。今までのアーティを見てきた彼は、彼だけは、アーティを心の底から信頼し、仕えるべき主人だと認識していた。

レオナルドは定期的にアーティから直接報告を受け、何の問題もなさそうだった為そのまま経営に携わってもらっていたが数字にすると凄いなと感心していたが、執事長の言葉に部屋に集まっていた全員が驚愕の眼差しで全員がアーティを見る。



と、とんでもない嫁ではないのか?



「で、でも社交界で遊び回っていたではないの…」


「遊び回っていた…? ええそうですわお義母様!

社交界とは素晴らしい場所で、情報の宝庫ですわよね!!

戦が多いこの領地、情報は何よりもの最初の武器だと思いまして。

手札は持っておくほうが侯爵家においても良策と思われますの。なので沢山出席させていただきましたわ!」


「こ、侯爵家の為って事…?」


「正しくは旦那様のお役にたてればと!!」


「あら…なら自慢したいのではなくて?侯爵夫人になれた事を!

社交界でも貴女が侯爵家の事を常に語っているのは有名よ?」


「あ…それは確かに少し(ではない)自慢させて頂きましたわ。

素敵な素敵な旦那様の妻になれた事を…!!

とても美しいお顔、がっしりと引き締まったお体、声、独特な雰囲気。

旦那様がいかに知性に優れ、武術にも長け、努力家で、さらにはお優しい素晴らしい方なのかと…!!!!」




思っていたのと何か違う。



アーティを除外した一同の目は遠くなる。


身内びいきで見ても、確かに身体は立派ではあるが、アーティが言う程美しくは決してない。悪くはない顔立ちだが、とんでもなく強面なのだ。強面が強くてお美しいなんて思ったことはない。独特な雰囲気はアーティが言っているだけでどちらかと言えば近寄りがたいが正解だ。と家族ですら思っているのに。


もしかして私達は、この2年間とんでもない勘違いをしてきたのでは。

そして、何より毛嫌ってきたこの美しい娘こそが、この領地において一番尽力していたのでは。


今までの行動や自分たちの愚かさに冷や汗をかき始めるのはアーティを毛嫌いしてきた侯爵家側の者だった。





「で、でも外見も半分は爛れてしまい…」


「ええ!!旦那様の魅力がまた増してしまいましたわね!どうしましょう他の方に旦那様の魅力がまた伝わってしまう…

でもそれはそれで嬉しいので、また自慢しなくてはならないですね!旦那様がいかにご尽力されて国境を守られた勇姿を!!!!!」




拳を力強く握り、とても高揚した悦に浸った表情を隠そうともしないアーティの発言に執事長以外の全員が自分達が彼女の事を誤解していたのだと気付きそして、納得してしまうのだ。今までの彼女に対する態度に血の気が引いていく者(使用人)やを後悔する者(義家族)が、とりあえず部屋にいる全員が愕然とこう思うのだ。







(色んな意味で)とんでもない嫁だった…。








アーティ

本人はまぁ普通に美人かな私。くらいな認識だが、社交界でも上位に位置する程の爆美女。本人自身スペックが高めなので基本なんでも完璧にこなす。「地位?なにそれ?お金がないなら意味なくない?」だったが、レオナルドと出会い「お金よりも愛だよね!!!」になった。でも生きる上でお金はいるわよね!お金稼いで領地潤えば旦那様が喜ぶ?ってな考えで家系なのかお金を稼ぐ事には特に長けていたのでお金稼ぎマシーンとなりつつある。


レオナルド

実はレオナルドもアーティに一目惚れ。別に爵位目的でもなんでもよかったが全部好き!!と言われてびびっている。

領地が国境にあるので隣国との小競り合いが多すぎて多忙。

性格は優しいけどとんでもなく強面。悪くはない顔立ちだが強面。それに加え纏う雰囲気が恐ろしいが故に言い寄られた事もない。本人もそれを自覚しているので傷痕が残って更に強面になってしまったというのにアーティの本心を知った時は正気かと疑った。


執事長

最初から公平な目でアーティを見ていた冷静な人柄。

最初の段階でこの人、旦那様にべた惚れでは…と思い、何を任せても完璧なので何故侯爵家がアーティを毛嫌いするのかと頭を悩ませていた。

使用人達にはきつく嗜めていたが、それでも聞かないのでアーティに解雇するようすすめるが「害は無いので」と即座に却下され、更に頭を悩ませていた。隣国との小競り合いで超多忙のレオナルドに相談しようと思っていた頃、今回の事が起こる。アーティは止めたがレオナルド直々に使用人を一斉解雇したので安堵している。


義母

思い込みが激しいところがある。

最初から持参金たんまり持ってきたアーティを怪しんでいたので、社交界でアーティが侯爵家(レオナルド)の話ばかりすると聞いてもう爵位目的としか思えなくなった。

マナー講座で厳しくしていたが、本来アーティの所作に文句の付け所が無い程完璧だったのでどういちゃもんつけるか地味に頭を悩ませていた。

その後レオナルドにこっぴどく叱られ、心の底からアーティに謝罪した。

冷静になって見るとアーティはとても良い嫁だったので可愛がりたくなって近寄ろうとするとレオナルドに睨まれて怯えている。


義弟

容姿性格全て義母似。なので思い込みが激しい。

義母と全く同じ経緯。

冷静になるととんでもない暴言吐いていたことに恐怖を覚えて義姉に心の底から謝った。

学校を卒業してから軍に入隊した後レオナルドにめちゃくちゃしごかれて泣きそうな所をアーティの口添えでほんの少しだけ緩くなったのでもう女神にしか思えなくなった。

更に、アーティに話しかけようとするとレオナルドがめちゃくちゃ怖いのでもう簡単に会いに行けない。


義父

レオナルドの代わりに国境を守りに行っていたのであの場に居なかった。

持参金たんまり持ってきたし貿易もかなりの好条件すぎてレオナルドに打診。社交も上手いし家政も上手いし領地経営は引く程上手いので爵位以外得することないけど爵位興味なさそうなのに何故こんな良い嫁が来てくれたんだろうと疑問に思っていたらレオナルドに心底惚れていると聞いて心底びびっている。

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アーティの溢れんばかりのひたむきな思いが伝わってきて、切なくも眩しく、そしてキュンキュンしました! 対する義母&義弟、そして使用人たち、アーティに謝って欲しい! 執事長は使用人に関しては諫言できる立場…
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