9話
帰りの電車は昼間なこともあり景色が明るかった。
山を走る電車は時折遠くの海がチラチラ見え隠れしてちょっと面白い。
あーー、ちょっとだけ解放された。
まだ問題は何も解決してないけど、いい子な自分を少しも演じなくていいんだと、そう思ってしまった。
偽っていた訳じゃない。
でも真剣な空気に気圧されていつも通りな私ではなかった。気がする。
少なくとも冷静な私であろうとしてた自覚はある。
車内にほとんど人がいないのをいいことに、少し浅く腰掛けてだらけてみる。背もたれに沈んでいきたかったが反発が強かった。
まだ希望がある。
ならば、私の優先度はなにか。
チラリとカバンに目を向けるが頭を振る。
アレは私へのご褒美だ。まだ今じゃない。
スマホを開く。
Slackの画面を見ようと思ったが電波の入りが悪い。
これだから格安SIMと田舎の相性は悪いんだ。
再びポケットにしまい直す。
今はしばしの休息を堪能してやろうじゃないか。
そういえば昼ごはんを食べてなかった。
乗り換えのタイミングで何か買おう。
電車や新幹線と言えば駅弁だよなぁ。
寿司か、すき焼きか、あそこだったらあなごめしとかもあったはずだぞ。
ピコン。
ようやく電波が届く所になったようだ。
Slackが更新されている。
「戻れる目処たちそうかな?無理ならまた教えてね」
上司の優しさに少し涙腺が緩みそうになる。
任天堂を見習えなんて思ってごめんなさい。
そういえば返信がまだだった。重ねてお詫び申し上げます。
「〇日の午後には戻れます。
もし可能でしたら資料データ共有いただけますか?」
フリック入力をして返信する。
社外秘のもの以外は概ねフォルダで共有して貰えたので、とりあえず読み込む。
右手のスマホを前のめりになりながら凝視する。
自然と左手は顎の下でリズムを取っていた。
読み込みながら要点をメモにまとめていって、段取りを頭の中で組んでいく。
こうなるんだったら、ノートパソコンでも持ってきてたら良かった。
……詰めが甘いなぁ。
外の景色はいつの間にか海側から街中へと移動していたが、その後車窓を見ることは1度もなかった。
乗り換え駅が近づいてきた。
まだ次の電車まで10分以上ある。
ならもう少し詰めれるな。自販機で水だけ買ってホームで待つ。
もうこの時には頭の中にSwitch2も駅弁もなく、来週のプレゼンと父と店が少しだけぐるぐると占拠していた。
早く大阪に戻りたい。
今度は、電車のいない線路に向かって右足で小刻みに威嚇をしていた。




