8話
翌朝。
味噌汁の湯気が立ち上る食卓で、私は言った。
「私、今の会社、続ける」
母は味噌汁を啜りながら目だけは私を射抜いた。
「でも、店のことは一緒に考える。ネット通販とか経理とか、大阪にいても出来ることあると思うし」
母はしばらく私を見つめていた。
味噌汁をまた一口すする。お箸とお椀をコトリと置き、少し座り方を整えてこう言った。
「……あんたが後悔せんのならそれでいいんよ」
その言葉は、優しい。けれど、私に選ばせるよう仕向けていた。
私も味噌汁をすする。少し熱くて火傷しそうだった。
でも、体の芯まで温かくなった。
大阪で生きていく。
でも、ここも捨てない。
ハードモードを選択してしまった自覚はある。
味噌汁の残りを飲みきる。
まだ熱いそれは味噌が濃くて、ご飯が進んだ。
大阪へ戻る前に、父の元へ行った。
ちょうどリハビリの時間だったようで、病室で少し父の帰りを待った。
自然と両手をぎゅっと握り合わせていた。本当は、本当は父も継いで欲しいのではないだろうか──。
そう思い手を見つめている所に父は戻ってきた。
「お前、まだ大阪帰っとらんのか」
ヨタヨタと足を引き摺りながら歩く姿に、以前の父の勢いは無かった。
背中にじんわりと汗が出た。
「思ったより回復早いって、先生も言いよったわ」
「早よ帰らんと、お前の客も離れるぞ」
お前の客"も"。
父はそう言ってベッドに座りサイドに置いていたペットボトルを煽った。
父も不安なんだ。
でも、前を確実に向いている。
私は昼の便で大阪に帰る決心をした。
ホームで電車を待つ。
最果ての駅は平日の昼間の利用者が少ない。
この調子だったら夜には大阪に戻れそうだ。
忘れ物がないか再度確認していたら、スーツとSwitch2が目に入る。
良かった。
着る覚悟はしていた。
でも、着ることにならずにすんだ。
Switchを撫でながら安堵する。
帰って、私は、ゲームする。
重たいはずのカバンは少し軽く感じた。




