5話
夜行バスに飛び乗って地元に戻る。
窓側の分厚いカーテンは外の様子を全く映してくれず、今自分がどの地点にいるかも分からなかった。
分かっても安心することはないけど、少しでも早く着かないかとスマホのGoogleマップで現在地を確認していた。
消灯した車内は薄いカーテンに仕切られているが、少しの明かりも許さない静けさがある。
息を潜め、ひざ掛けを頭に被せてスマホを弄る。
通知もSlackも何も変化はない。
それに少しだけ安堵する。
でも、眠気がこない。
このまま朝を迎えてしまうんだろうなという確信があった。
隣の席からは規則正しい寝息が聞こえてくる。
どこからかイヤホンから漏れる小さな音が不快だ。
エンジンの唸り声もまた私の焦燥を煽る。
ふと、荷台に積んだカバンの存在を思い出す。
まだカバーも買っていないSwitch2が眠っているはずだ。
テザリングしたままなのでもうそろそろでダウンロードも終わっているだろう。
箱の鮮やかな赤と本体の漆黒。
それがなんだか人間の血の色のように感じられて、父の安否を祈る。
その後の連絡で「命に別状はない」と聞いた。
後遺症は残るかもしれない、とも。
うちは小さな店なので、父の手で成り立っていた部分が大きい。
こりゃあ、続けられんかもしれんねぇ……。
最後の電話口、母の声が耳にこびりつく。
フットレストに素足をのせる。
ふわっとした触り心地なのにとても冷たい。
家業、私が継ぐのかな。
じゃあ今の仕事は。
地元に戻る。
それとも大阪に残る。
手伝う。
辞める。
……。
ゲームみたいにコンティニューしたりリトライ出来たらなんて良かったのか。
目を閉じてそんな理想と現実をフラフラ彷徨う。
父が目覚めたらなんて言うのか。
「大丈夫」と言って、後遺症の身体を奮い立たせていくのだろうか。
それとも、
「もういけんわ」と言って、大きく見えたはずの背中を縮こまらせていくのだろうか。
どちらも嫌だなぁ。
でも最悪の未来を想像していないと、私が潰れてしまいそうだ。
バスが一段大きく揺れた。でも何事も無かったかのように同じ速度で目的地まで運んでいく。
相変わらず眠気は来ない。
私の新しいおもちゃ。いや、新しい日常よ。全部終わって、ちゃんと帰って、自分の部屋に戻ったその時。
その時まで、ちょっと待っていてね。
バスはまだ目的地につかない。
夜はまだまだ始まったばかりだ。




