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15話

その夜、私は母に電話してみた。

あれから仕事が忙しくて、何も連絡してなかったからね。

2コールで出た母の声は帰省してた時よりも軽く感じた。


「あんた、最近はどう?」

「うん。調子いいよ」


通話は、郷を離れた子と親の定型文から始まった。


「で、お父さんどう?」

「相変わらずリハビリしよるわ。でも、退院の目処が経ってねぇ、後1週間位で帰れるんと」

「それは良かったね。リハビリ上手くいってるんだ」


電話口からペラと紙がめくれる音がした。


「お母さん、なんか本でも読みよったん?」

「いやね、市内の広報誌眺めてたんよ。ほら、求人とかも載っとるやろ?」


安堵しかけた私の身体はまた指先まで冷たくなった。

続き、続きを紡がないと。

一瞬で震えそうになる唇をぎゅっと噛んでから口を開いた。


「後遺症……。そんなに悪いの……」


「え? ……あぁ! 違う違う! 全然平気よ! リハビリは上手くいっとるし、まぁ、前みたいにガッツリは働けんかもしれんけど店は出来そうって」

「求人は念の為よ。ほら、退院してすぐ仕事出来るとは限らんやろ?」


安堵、していいのか?

でも父は仕事復帰する気満々だそうで、常連のあの人にこれ聞いとけ、あの人にはこう伝えとけ、と母にすでに指示しているようだ。


「そうそう、お父さん、店のレイアウト変えようかって話してたんよ。あんたもなんかいい案あったらお父さんに連絡してや」


……意外だった。私、本当に手伝ってもいいんだ。

なんだろう、ちょっと心がくすぐったいや。

それから母の世間話を聞き、私の現状も報告して和やかな時間を過ごした。

結局2時間もおしゃべりしてしまった。でも、母の少し安心したようなハリの戻った声を聞けて電話してよかった。


通話を切ったスマホをテーブルに置く。

床に寝転んで、トラバーチン模様の天井を眺めてみる。


遠い。

でも、遠すぎることはない。


グイッと起き上がり、スマホを取る。

そのままSafariを開き、検索欄に「店 レイアウト 改善」と入力する。


ノートパソコンも開けて、メモも取り始める。

ふむ、売り場の三原則っていうのがあるのか。

今の店は確かこうだったから……。


7階のワンルームは、壁掛け時計の音と時折キーボードを叩く音だけが聞こえる。


テレビ横のドッグに繋がったSwitch2とその横に飾られた鮮やかな赤い箱がその様子を見守っていた。


私はゲームしたい。

する。


でも今日は、その前にもっとやりたいことがある。



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