11話
そこからの毎日は家に帰ると寝るだけの生活だった。
父や家の事を忘れられる時間になったと良い方向で捉えたい。
出社。
メール確認。
資料確認。
資料確認。
プレゼン作り。
昼休憩。
社内会議。
営業回り。
帰り際の上司からの仕事の振り分け。
残業。
退社。
居酒屋。
プレゼン作り。
プレゼン作り。
をローテーションする毎日だった。
日々増えていくタスクを処理するだけでも頭が回らないのに、プレゼンを任されたとなると半端なものはできない。
変なところで完璧主義が顔を出す癖やめたい。
そんなこんなで迎えたプレゼン会議の日だ。
時間より少し早めに会議室へ行き、出席者の机に資料を置いていく。
時間がなかった割には上手く作れた方だと思う。
上司にも何回か目を通してもらって「いいんじゃない」と言ってもらえたし……。
何より先方から直々のご指名だ。上手くハマってくれるといいなぁ。
椅子を整える手が少し汗ばむ。
喉が乾いてきたので給湯室で水道水をあおる。
どうにかなる。
どうにかする。
大丈夫。
大丈夫。
だ……。
ふと、父や店のことを思い出してしまった。仕事に没頭していた自分が、酷く滑稽で醜いものに感じる。
誰も責めてないのに、後ろ指刺されている気がする。
大丈夫。
大丈夫。
なんとかなる。
そうやって迎えたプレゼンは惨敗と言うには少し手応えがあり、成功と言うにはお粗末なものだった。
先方の方の、悪くはないんだけど……。とこちらを気遣って言葉を選んでくれてる親切さは視線が交わらない事も相まって自尊心がえぐれるようだった。
何か大きなミスをした訳でもない。
でも、何も残せなかった。
上司からは「もう少し抑揚つけてたらもっと、なぁ」と言われて、「はい」としか答えられなかった。
頭の中で何が悪かったんだろうと探してみるが、悪い所が見当たらないのが、逆に悪い気がしてくる。
給湯室でまた水道水を紙コップに入れる。
水面を見つめているはずだが、視界には先程の会議室しか映らない。
何がダメだったんだろう。
聞いてみても答えが返ってこないことはわかっていた。
ゴミ箱へ紙コップを投げやりに捨てた。
ここでいじけてもどうにもならないと分かっていても。
父や母を差し置いて選んだ結果が、これか。
今日は帰っても、Switchする気分にはなれないな。




