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大人しくお留守番が出来ると思った?─①

 いやー、ジニーさんの孫娘がまさかのエルフの少女とは、流石に驚いたよ。

 引き締まった肉体美もさることながら、生粋の戦士のような雰囲気を力強く感じたからね。

 いやー、将来は頼れるお姉さんになりそうで、将来有望だな! 


 で、エリアスから色々教えてもらったんだけどさ?

 いやー、なんか色々やらかしちゃった感じで、本当にごめんね?

 悪気は全くなかったんだよ? あの蝋燭が僕を連れてってよ! みたいな感じで俺を魅了したのが悪いんだよ、多分。


 そんな問題児の俺は現在、お留守番を命じられて大人しくしている今日この頃。

 あのね? 二人ともさ、俺の中身──ただのアラフォーオッサンなんだぜ?

 なるだけ早く戻りますって言われたけどさ、いつ戻ってくるんだって話ですよ。


 だってさ? 急用が出来たからお留守番しててね! って家族に言われてさ?

 素直に守るアラフォーオッサンはいるのかって話じゃない? 無理でしょ?

 パチ屋に行ったりさ? サウナに行ったりさ? 誘惑に抗えるはずがないじゃないですか?


 つまり、そういうことだ。

 こんな異世界生活初めての午前中だというのに、どうして大人しくお留守番しなきゃいけないの?

 馬鹿じゃないの? 雲一つない快晴でかつ、清々しい空気が心を満たしてくれているんだぜ?


「よぉし! 黒桜(こくおう)ちゃーん! 騎乗の練習させてくれない? いいよね!?」


「ヒヒーン! ヒヒーン! アーハハハハ♪」


 エリアスは馬かどうか疑問視してたけど、ちょっとデカい馬でしょ。

 ファンタジー世界ならば、ペガサスだとか、ユニコーンだっているわけじゃないですか?

 で、それを馬じゃない! って言うのは、ちょっと無理があるんじゃない? 神聖な生き物扱いするでしょ?


 で、我が愛馬の黒桜は、俺に非常に懐く可愛くて個性的な馬である。

 ほら、俺が乗りやすいようにしゃがんでくれるし、可愛らしく笑ってくれるし? 

 

「とりあえず、ジニーさん宅をゆっくり一周することからやろうか。お願いね」


「おまか──ヒヒーン! ヒヒーン!」


 む? 幻聴か? 無理もないよね──だって、異世界に来たばかりなんだもの。

 ちょっと色々ありすぎて、気づかないうちにストレスになってたのかもしれないな。


「にしても、黒桜ちゃんは賢いね! 俺が行きたい方向にちゃんと行ってくれるから助かるよ♪」


「ヒヒーン♡ ヒヒーン……」


 乙女チックな声で照れちゃって、可愛い愛馬だ。

 ははーん? さてはこの子──俺のような恰好をした男がタイプなんだな?

 いや……、そうか……。そう言えば、今の俺の出自って、異国の貴族──武家の出自ってことになってるんだよね?


「……ちょっと降ろして。アレ持ってくるね」


「ヒヒーン? な!? ヒ、ヒヒーン……」


 そうだよね、黒桜ちゃん。俺も正直ね、抑えきれなかったんだよね!

 だって、武家の出自でかつ、こんな立派な馬がいて──そして俺の手にはカッコイイ槍がある。

 俺の魂がこう叫んでいる──今のお前は、立派な戦国武将であるぞ、と。

 ならばその叫びを叶えるのが世の情けだよね! フハハハハハ! ちょっとだけ遊びに行ってもバレはしないだろう、きっと!

 

「黒桜ちゃん! 今の俺は──凄くカッコイイだろ!! では共に行くぞ! おっしゃぁぁぁぁぁ!」



§



「──それは、非常に困った事態ですね……」


 ジニー達は、イシスの村の村長宅を訪ね、今置かれている立場を説明していた。

 既に村人達には、ジニー宅に馬の姿をした魔物が居座っていることを知っており、自警団のリーダーであるアレックスは、既に自分の父親である村長に報告済みであった。


「と、父さん! 今すぐに討伐しなければ村が滅びます! そもそも、エリアス! ≪漆黒の槍≫に所属しているお前であれば、討伐ぐらいできるだろうが!」


(……この馬鹿は私に死ねと?)


 相手の力量差すら分からないアレックスに対して、エリアスは無言を貫いた。

 それを見かねた村長のケネスは、速やかにエリアスに謝罪し、魔物に対してどう対処すればいいか意見を求めた。


「──何もしないことが最善かと」


 アレックスはその言葉を聞き激しく動揺するが、ケネスは

 「続けてください」とエリアスに発言を促し、一呼吸を置いて再びエリアスは言葉を続けた。


「異国の貴族様は、恐らくあの魔物を完全に支配下に置いております。きっと、異国の技能なのでしょう。でなければ、昨日のうちに村が蹂躙し尽くされております。だというのに、それがなかった。つまり、貴族様のさじ加減一つだということです」


 エリアスの言葉に嘘など一つもない。

 それをケネスはすぐに理解し、黙ってその言葉に頷いた。


「魔物の件は分かりました。が、問題はまだあります。貴族様は追われる身──ですよね、ジニーさん?」


 その場にいたジニーは黙ってその言葉に頷き、ジニーに代わってエリアスが答える。


「ですので、こちらをお納めください。貴族様からです」


 すっと金貨2枚をケネスへと差し出し、村の運営費に充てて欲しい旨を伝えるエリアスに対して、ケネスはすぐさま青年の意図を悟った。

 

「……世渡りが随分と上手な方ですね。それで? 滞在期間はいつまでですか?」


(相変わらず金には目がない男で助かったわ。また随分と羽振りが良くなってるみたいだし)


「今暫くの滞在を許可して頂きたいと伺っております。恐らくは1週間以内かと思いますが……」


「つまり、未定ということですね。では、1週間であれば村での自由行動を許可しましょう。但し、それ以上になるのであれば──お分かりですよね?」


 テーブルを2回軽くコンコンと叩き、ケネスは優しげな笑みをエリアス達に見せた。

 それに対して特段の感情も抱かずエリアスは黙って頷き、その場を去ろうとした、その時──。


「し、失礼します! リ、リーダー! た、大変です!」


「何事か!? ノックをせずに開けるとは、無礼ではないか! 今、大事な話を──」


「ま、魔物が──魔物と貴族が暴走し、村から姿を消しました!」


§



 あぁ……!

 わ、わた、私、私の背中に、あ、あの人が楽しそうに乗ってくれておりましゅ!

 ハァハァ……! 乗り心地はどうですか! 最高ですか!? 最高ですよね!!


「今の俺は! 天下無双の戦国武将っぽくてカッコイイぞぉぉぉぉぉ! わーははははは!」


 せんご──? 天下無双なんて、もう! 相も変わらず御謙遜しなくてもいいのに!

 そういう所が奥ゆかしくて、本当に素敵ですわ! この上ないご馳走じゃありませんか!


 あぁ! もう、また落ちそうになって! ご安心くださいませ──しっかり支えますから!

 傷物には決してしませんので、どうか私の背をご満喫してくださいね!

 褒美にその──左太腿だけを噛み千切っていいですか? 少々、お腹が空きましたので♪


「よぉし! あの川を飛び越えるぞぉぉぉぉぉ! 今の俺は凄くカッコイイからなぁぁぁぁぁ!」


「おま──ヒヒーン! アーハハハハ!」


 っは!? い、いけないわ、私ったら! また普通に話そうとしていたわ!

 い、今の私はただの馬だったわ! もう! 私ったら、お茶目さんなんだから♡

 

 あぁ……、それにしても黒桜という名前は、私に本当に相応しい名前じゃないかしら?

 闇の中で出会った魅惑的な桜に因んで、私に名前を授けてくれた素敵な御方──私だけの愛しい血肉。

 だから私だけが丁寧に、残酷に、残虐に、そして執拗に喰らうことが許されているの! あぁ! 本当に素敵な──。


「おぉ! また槍が光だしたぞぉぉぉぉぉ! 目立ちたがり屋さんなのかな?」


 おのれ、おのれ、おのれぇぇぇぇぇ!

 そこまで私の切なる願望を邪魔しようとするのか! 

 神気取りのまがいもの如きが! それで私を監視しているつもりか!


「──目立ちたがり……。天下無双の戦国武将……。っは!? 城門突破をしろということか! 城門は何処だぁぁぁぁぁ! おっしゃぁぁぁぁぁ!」


「じょ──え? ひ、ヒヒーン! ヒヒーン!」


 じょ、城門突破って、急に何を言いだすの!?

 目の前の木の杭の柵を壊せばいいのかしら? でも城門という割には──なるほど、そういうことですか。

 あまりにも矮小すぎて、すっかり見落としていました。



 ──それがお望みとあれば、私に全てお任せを……。

 ────丁度、腹が空いていたところでございますので……。



「え!? ちょ、急にどうし──ぐへぇ!」


 ご安心を、ご安心を、ご安心を!

 わ、わた、私だけの、ご、ご馳、ご馳走を邪魔する雑魚は全て──。


「鏖殺よ」


 あぁ……! 私に全幅の信頼を寄せて安らかに眠る御姿、本当に愛おしい!

 しかも私のために温かい食事を用意してくれるその優しさ──なんとも尊いのかしら。

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