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ジニーのお宅に泊まりに行こう!─①

 幻想的な色とりどりの蠟燭の灯りって、本当にロマンティックだよね。

 もうね、気分は虹の橋をルンルン気分で渡るような感じ! しかも槍の穂先が、時々黄金色に輝きを放つの神秘的でいいよね! LEDでも仕込んでいるのかな? 


 あ、そう言えば少年が正解は黄色だって言ってたけどさ?

 そういう考え良くないと思うんだよね。だって、こんなに素敵な色とりどりの蝋燭にさ? 正解の色を決めつけるのは良くないと思うよ?


「おぉ……! この紫色の灯り、めっちゃ神秘的じゃん! 1個ぐらい、いいよね?」


 これだけ蝋燭を用意したんだし、後で回収する現場のスタッフも大変そうだしさ?

 1個ぐらい回収したっていいんじゃないかな? だって万が一さ、転倒して山火事になったら不味いでしょ? 山火事防止に貢献する俺──これぞまさに、名エキストラ役だよね。


「そういや、さっきから犬の鳴き声が響き渡っているけど、山犬でもいるの? 猫だったら良かったのに」


 まー、こんな夜の山なんだしさ? そりゃあ野生の動物が沢山いるよね。

 あ、そうだ! このツタを利用して、槍に蝋燭を縛れば──流石は俺、簡易型のランプが出来たぞ。正直不格好だが、まー、人里まで下りられれば何とかなるだろ。


「……んなー」


 !? ね、猫ちゃん!? 猫ちゃんではありませんか!?

 西欧ではかつて、黒猫が不吉だと言われた時期もあったらしいが、やはり黒猫こそが正義!

 あぁ……! たまらんのぉ……! まずは警戒心を解くために手を近づけ──痛っ!?


「んなー! アハハハ!」


 ほほぉ……! 変わった笑い声をする猫ちゃんだね!

 猫は警戒心の強い生き物だし、思いっきり噛みつくのも仕方ないものだ。

 しかし……、残念ながら君を飼うことは出来ない──すまないな、猫ちゃん。ここでお別れだ。


「やはり──移動手段、か」


「っ!?」


 そう、俺は歩き疲れたのだ。

 だって、かれこれ数時間は歩き続けてるんだぜ? 足湯に入りたい年頃だよ……。

 って、猫ちゃんがいつの間にか消えちゃったけど──はぁ……。一人で寂しく下りますよ……。



§



 おのれおのれ! あの人を狙うのは私だけの特権だというのに!

 この世界の塵芥共(ちりあくたども)! あの人に手を出していいのは私だけだ!

 一匹残らず喰らい尽くしてやる! あの人を喰らうのは私だけ!


「そういや、さっきから犬の鳴き声が響き渡っているけど、山犬でもいるの? 猫だったら良かったのに」


 っ!? や、やはりあの人は──私の存在に気づいているというのね……。

 あぁ……! もう少しお待ちを……! もう少しで消化が終わりますので……。

 ぐじゅぐじゅにして、ぶちぶちにして、みちみちにして──喰らっておりますので……。


 ふぅ……。

 とりあえずこの辺の塵芥共は喰らったわ。

 フフフ……、お望みの姿になりますので──今しばらくお待ちを……。


「……んなー」


 猫、だったか。

 こんな鳴き声だったか? 上手く真似出来てるといいのだけれど……。


「猫ちゃん!? 猫ちゃんがいる! おー! よしよし! 可愛いねぇ! なんて可愛らしい黒猫の子猫ちゃんなんだ!」


 か、か、可愛い、ですって!?

 こ、こ、こ、この姿が可愛いですって!?

 嘘でしょ──今の私こそが、あの人に相応しい姿だというの、かしら?


「ほら、臭いを嗅いでいいんだよ♪」


 ま、間違いない──あの人は、私を求めているというのね……。

 あぁ……! ならば、最初は血だけを──あの人の血で喉の渇きを少しだけ癒したい……。


「痛っ!? あー、餌がなかったからかな?」


「んなー! アハハハ!」


 餌だなんて、もう! そんなに自分のことを謙遜なさらずに!

 私にとってご馳走です! 濃厚な甘さでありながら、酔いしれる熱を感じました!

 つ、次は、その肉をくださりますか!? ほんの腕1本で構いませんので!

 私のために悲鳴を奏でてくださってくれますか? 甲高い悲鳴を奏でてくれますか!?


「やはり──移動手段、か」


 ……は? え? な!? ど、どうして私から去ろうとするのですか!?

 こ、この姿のどこに不満があったのですか! お、教えて頂ければ何なりとなります!


「っ!?」


 そ、そう言えば先程──移動手段、と言ったかしら?

 ば、馬鹿な!? 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!? ふ、ふざ、ふざけているの!?


 あぁ! もう! また姿を変えなくてはいけないじゃない!

 しかも今度は、具体的にどのような移動手段になれかって言ってくれないし!!

 何よ、何よ、何よ!! どうしてそんな意地悪をするのですか!! 酷いじゃないですか!


 う、馬でいいのかしら? く、熊の方がいいかしら? と、虎の方がいいのかしら!?

 それとも──先程喰らった塵芥共? わ、分からない……! 分からない、分からない、分からない!


 あぁ! もう! 本当に、本当に! 

 あの人は本当に私を愉しませてくれる! どうして私をここまで愉しませてくれるのかしら!



§



「いやはや、助かりました! 美味しいシチュー、ありがとうございます!」


 老婆のジニーは、夜分遅くに現れた青年に対して、最高の持て成しをするしかなかった。

 この青年の衣服から、異国から来た者であることは容易に推察でき、しかもその身分は恐らく貴族階級の人物に違いないと確信していたからだ。

 ただの庶民が、どうしてあのような言葉では言い表せない程の荘厳な槍を所有しているというのか。

 更に付け加えば、それは立派な漆黒の馬に乗って現れたのだし、確実に彼は貴族に違いない。


「い、いえいえ! このような物で申し訳ありませんが……」


「いやいや! このシチューは本当に美味しいですよ! 特に野菜が素晴らしい! この深みのある味は、土が良い証拠ですからね!」


 その青年の見た目は、活力を感じさせる黒髪が良く似合い、陽気な声が良く似合う褐色肌を有していた。屈託のない笑みのせいか、自然と心を許し、恐らく領民との仲を大切にしているのだろうとジニーは自然と感じた。

 

「イシス村周辺は、肥沃な土地を有しておりますが、農作物の収穫量を増やすべく肥料の改良にも余念がないのです」


「なるほど、流石です。いやー、お恥ずかしい話をしますと、家庭菜園をしてたんですが、これが本当に難しい。専念できる環境であれば、美味しい野菜を作れるんですけどね……」


(この御方は──傑物の類かもしれない。普通の貴族は、税率を重くし、私達の生活を知ろうとはしないのに……)


 何故、この青年がウェスター辺境伯が統治するビスマルク領のイシスの村に現れたかは分からない。だが、この青年の言葉一つ一つが、ジニーにとって不思議と心地よく感じていた。


「あ。シチューの代金なんですけど──この麻袋の中から好きなだけお取りください」


 ジニーは思わず椅子から転げ落ちてしまった。

 間違いない──この青年は、何者かから追われている身の逃亡貴族なのだ。

 使い古した麻袋の中に、何故そのような財宝の数々があるというのか! 逃亡資金そのものではないか!

 

「い、いえ! そ、そんな、危険な──貴金属はだ、大丈夫ですので!」


「いやいや、礼には礼を返すのがマナーです。確か今って金の値段が爆上がりじゃないですか? あ! このコインも金ピカなんで、多分高く売れますよ! 1枚でいいですか?」


「ふぁ、ふぁ、ふぁぁぁぁぁぁ!?」  


 金貨1枚の価値は、銀貨100枚に相当し、銀貨1枚の価値は農民の1ヵ月の収入相当である。

 それをあろうことか、シチュー1杯で金貨1枚を満面の笑みで渡すこの青年は──ハッキリ言って狂っている! イカれている!

 どんなに高く見積もっても、このようなシチューを販売すれば、せいぜい銅貨5枚でもいいほうだ。しかもお代わり自由という条件で。だというのに、たった1杯で金貨1枚を差し出す理由、それは──。


「……匿って欲しい、ということですか?」


「かくま……? えっと……? ──頼めますか?」


 確定だ──だからこんな辺鄙な村まで逃げてきたのか。

 万が一、この場で断るならば──口封じされるかもしれない。なんと恐るべき青年か。


「あ、明日には戻ろうかなと考えてはいるので──頼めます?」


 何を、考えている? 何を考えているんだ、この青年は!?

 逃亡している身だというのに、ま、まさか!? こ、この御方は領民の暮らしを守るために、故郷へ戻るというのか!?

 

 何たる豪胆な青年だ……。

 自分の自慢の孫娘であるエリアスよりもその豪胆さは、遥かに格上な存在。


 だが、それでは──無惨に死にに行くようなものではないか?

 たった一人で一体何が出来ると言うのか? このままではあまりにも忍びない。


「……老婆心でございますが、おやめになった方が宜しいかと」


 ジニーは諭すような物言いで青年に語ると、青年は暫く沈黙した後口を開いた。


「確かにギャラは貰ったし……。撮影がいつまであるか……。そうですね、暫くは撮影に協力すべきですよね。では、暫く厄介になります。あ、馬の餌も与えて欲しいです。結構獰猛なんで、なるだけ肉を与えてください」


 青年がそう言うと、10枚の金貨を惜しみなくジニーの前に置いた。

 この青年は本当に立派な貴族であるが、破滅的に残念なことがある──金銭感覚を覚えさせなくては……。


「……では、金貨2枚で。そう言えば、明日孫が戻るのですよ。村の案内を孫にさせましょうか?」


「それは助かります! いやー、真っ暗すぎて村の中全然分からなかったんですよね! あ、良ければ、この蝋燭あげますね! 不思議な蝋燭なんですよ! なんと、蝋を全く消費しないんですよね♪ それに──」


 青年は紫色の灯りに手をやるのだが、その灯りは青年の手を焼くことはなかった。


「安全面も完璧なんです! 見てくださいよ、この紫色……。儚げな灯りをしながらも、高貴さを感じさせ、しかも自然と癒されるんですよね……。インテリアとして、最高じゃありませんか?」


「……はて、この蝋燭はどこかで見た気がするのですが……」


「気、気のせい! 木の精霊のせいでございます! な、なーんっつって! アハ、アハハ……。ささ、どうぞ……」  

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