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楽しい食事を─②

 ウェスタ―辺境伯が次に目覚めたのは、朝倉光が去ってから30分程経ってからだ。

 ゆっくりと体を起こすウェスタ―辺境伯の前で、ロジャーとマードリッヒがその場で膝をつき、傍に控えていた。

 先程、光に対して無礼者と発したロジャーが重い口を開け、ウェスタ―辺境伯に話しかけた。


「……閣下。あの者は、我らを試したとみるべきでしょうか?」


「──あぁ。なんとも忌々しい男だ、朝倉光。見たか? あの者の振る舞い……。天衣無縫な振る舞いの凡夫を装い、我らを試したのだ。あの人肉を食えと? 我らを吸血鬼にしようと? 親切心という名の狂気で、我らを破滅させようとしていたのだ……」


「──まさにあの者は、狂気と狡知の王(ナーズ・オウハ)が顕現したような者でございます。マードリッヒ、続きを頼む」


 マードリッヒからの報告は、エリアスとセオからの報告書の内容だ。

 普段の朝倉光は決して好戦的ではなく、寧ろ対話を重要視している傾向があり、エリアスにも気遣いができる人物と評している。

 が、彼にとって不快にさせる者などに対してはその限りではなく、その暴力の前では何人たりとも彼には勝てないと二人は報告していた。


「……恐れながら、≪漆黒の槍≫を総動員しても勝てないだろうと」


「ふ、ふざけているのか!? たった一人で我らに勝てると言っているのか!?」


 ウェスタ―辺境伯は珍しく言葉を荒げた。

 無理もない。何せ、それだけの力を≪漆黒の槍≫が有しているからだ。

 それは少なくともロジャーも同じ気持ちであったが、優秀な二人の部下の報告に虚偽はないと確信しており、ウェスタ―辺境伯を落ち着かせるため、あえて残酷な事実を彼に告げた。


「閣下。報告書を見ましたが、二人の言葉は事実であるかと」


「……あやつは、狂気と狡知の王のような悪神であると言いたいのか? ロジャー」


「悪神であるかは分かりかねますが──少なくとも、我らの領内に現れた≪災厄の使徒≫に対抗する手段は、朝倉光が適任かと」


(……化け物には化け物、か。なるほど……)


 ウェスタ―辺境伯はロジャーの案に対して、顎に手を当てながら口角を上げた。

 仮に朝倉光の戦力評価が正しければ、≪災厄の使徒≫に対する手段として使え、彼が死のうともただの消耗品で扱える。

 異国の貴族の命など、自分が知ったことではないとウェスタ―辺境伯は考えた。


「ロジャー、お前の案を採用しよう。朝倉光とは今後も良き友人でなければな?」


「流石は閣下。やはり閣下の聡明さであればこそ、救国の英雄となるに相応しき器。マードリッヒ、お前の働きにも期待──」


 ロジャーが次の言葉を言い放とうとした、その時。

 テントの外からけたたましい程の銅鑼の音が鳴り響く──敵襲の音だ。

 ≪漆黒の槍≫の野営地だと知りながら、何者かが襲撃に来たのだ。


「っ!? 一体どうなっている! 何者の襲撃か!」


 テントの中に一人の兵士が息も絶え絶えになりながらウェスタ―辺境伯の前に跪き、顔面蒼白しながら報告をした。


「ほ、報告します! 閣下が用意された食事が全て──奪われました」


「……は?」



§



 我輩の名はホヌイ・オズキ! 放蕩と快楽の王と呼ばれるナイスガイだ!

 ある者は、千なる夜を知る者と呼び。そしてまたある者は、黄金の酒の泉の所有者と呼ぶ。

 色んな呼び方をされるが、我輩はとても素敵な男なのは間違いない。


 そんな我輩は、飲み友達のためになんと! 自慢の料理を作ってみたのだが!

 流石は飲み友達! 我輩の料理の素晴らしさを皆に知って欲しかったようだな!

 しかもあの酒は、実は我輩が先程仕入れたばかりの酒! まろやかなコクがある逸品!


 いやはや、ここでぐっすり眠っている料理人のケ……ケチャップ君か!

 ケチャップ君の容姿をちょっと借りて、我輩頑張ったんだが、酒が足りんな! 酒が!

 やはり酒を飲まずにはいられない! 酒のためならば、世界を炎で包み込みたいぐらいだ!


 とは言えだ、酒は今飲んでいるし、残念ながら世界を炎で包むのは明日からにしよう。

 ん? 明日も酒を飲めばいいのか? やはり酒は素晴らしい! ケチャップ君も飲んでみろ、いい酒だからな!


「っ!? お、おぇぇぇぇぇ! な、な!? 何者だ! お、お前は!?」


「我輩か!? 我輩はケチャップ君だ! 喉が渇いたと思って、美味しい酒を飲んでもらった!」


「──お、お前……! なんてこと──うっ……」


 全く五月蠅いケチャップだ! 少し眠っていればいい!

 我輩の信徒ではないので、とりあえず気絶でもしておけ! ついでにケチャップで落書きをしよう!

 カカカカカ! 見ろ! ケチャップで描いたウサギちゃんだ! 可愛いねぇ!


「さて、と。我輩の手作り料理と酒は回収しないとな? 飲み友達に食べさせないといけないからな?」


 流石は我輩、飲み友達大好きなナイスガイ!

 ≪夕闇の嘆き≫の肉を堪能してもらわないといけない! 

 激痛に悶え、絶望に酔い、その嘆きは闇の中に消えたお肉ちゃん達をな!


 さて──では、会場を設営しようとするか!

 どこがいいかな? ケチャップ君はどう思う? って、ぐっすり眠っているじゃないか!

 全く、これだから酒が足りんのだ! ケチャップ君の真横に酒を置いておくからな?

 起きたらしっかり飲むように! 我輩からの奢りだ!


「デュビデュビ♪ デュビデュビ♪ ラララーラーン♪ デュッバデュバ!」


 歌を歌いながら、我輩は至上なる快楽を求めよう!

 さぁ! 我輩と一緒に酒を飲み、食事を楽しもう! 飲み友達よ!



§



 いやはや、トイレが不便で本当に困るよ……。

 どうして異世界には洋式トイレがないんだ? 電気がある生活が懐かしいよ。

 まー、ジニーさんの畑に活用される肥料になるだろうし、いつかは美味しい野菜を食べ──え?


「おぉ! 光! 我輩だよ、我輩! ホヌイ・オズキだよ!」


 えーっと? 確かジニーさんの家の外にある(かわや)でスッキリしていたはずなんだけど?

 なんでいつの間に、可愛らしい動物達が経営しているレストランにいるわけ?

 しかも、夢の中で出会ったオッサンが当たり前に俺を手招きしているし──異世界って怖くない?


「え!? ホヌイさん!? ここはどこ!?」


「おぉ! ここは我輩の領域の一つだ! 我輩、こう見えても数千の領域がある王様なのだ! どうだ、我輩ってカッコイイだろ!?」


 カ、カッコイイ……! おいおい、秘密基地が数千もあるってことだろ!?

 いや、違う! 違うぞ、俺! なんで夢の中で出会ったオッサンが、普通にいるわけ!?


「えーっと? ホヌイさんさ? ここは夢、ですね?」


「おぉ! 夢のような素敵な領域だな! ささ、そこに座ってくれ! 光のために、我輩頑張ったのだ! 美味しそうなステーキに、コクのある味が有名な酒! ささ、共に楽しもう!」


 相変わらず上機嫌で愉快なオッサンだ。

 下手に場を白けさせるのはどうかと思うし、ここはホヌイに合わせるか。


「よしよし! いやはや、こうやって光と食事をするのが最高に楽しい! ここならば邪魔は来ないし、光も我輩との酒が楽しみだったよな!?」


「そ、そうですね……。ですが、次からは招待状を頂けると助かるのですが……。ほら、夕食の段取りなどありますし」


「おぉ! 我輩としたことが! それもそうだ! 酒を飲んで忘れよう! おっと、酒を飲んで覚えるんだったか! 次からは留意しよう、多分!」


 うん、このオッサン頭おかしいよね?

 まー、いいか。とりあえず乾杯のポーズしてるし、乾杯しよっと。


「よろしい! それでは、楽しい食事会を始め──っち! 邪魔者が現れたか……」


 ホヌイの奥の扉がゆっくりと開く。

 そこに現れた女は、開口一番でこう言い放った。


「その料理は! 私と光様が食べるモノよ! 私のために用意してくださったんだから、お前は今すぐ消え失せろ! 全部私が食べるんだから!」

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