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光と陰の狭間で、異世界は勝手に狂い出す  作者: 抹茶珈琲
黒桜の舞いが光を放つ
19/23

廃城は嘆きで満ち、黒桜が舞う─⑤

 エリアスは頭を抱えながら、ジニーが淹れたお茶をゆっくりと口に運んでいた。

 そんな彼女の前に、全身が血の気を引くような感じで呆然とする男は、朝倉光の部屋の前を守るように命じられた者だ。

 彼の名前はセオ──マードリッヒと同じ獣人であり、戦槌の扱いに秀でた武人だ。


「二人とも、そんなに心配しないでも大丈夫だよ」


 ジニーは優しげな笑みで二人を励まそうとするが、効果はいまひとつのようだ。

 なにせ、マードリッヒは≪漆黒の槍≫の中では、ロジャーに次いで怒らせてはいけない上司ベスト2位の座を守り続けている男なのだ。

 しかも、この失態は洒落にならないレベルであり、もしこのことを報告しようものならば、マードリッヒは激昂し、エリアス達を鬼詰めした後、彼の愛弟子であるジルドレの監視の下、四六時中猛特訓コースは間違いない。


「……セオ。アンタ、ろくに監視も出来ないわけ?」


「ち、ちげーし! ちゃんとここで監視していたし! ていうか、俺だけじゃなくてさ! 外の連中も同罪じゃん! 同罪、同罪!」


「……アンタさ? 外は四方八方から、常にばあちゃんの家を監視できるようにしてたじゃない? だから、彼らは職務を全うしていた。けれどアンタは、光様の部屋の前でただ突っ立っていただけでしょ?」


「はぁ!? 俺は気を利かせて、野郎の部屋の外で待機していただけだろうが! なんでわざわざ、野郎の部屋の中で二人仲良く過ごさなきゃいけないんだよ!」


「……命令違反してるじゃん、アンタ。ねぇ? もしかしてさ、蜂蜜がないと素直に命令を遂行できないの? アンタ」


 セオは獣人というよりも、喋る熊そのものだ。

 このような者達を、先祖返りと獣人達は呼び、今ではもう滅多にみない存在でもあった。


「蜂蜜があれば、完璧にこなすぜ! ≪漆黒の槍≫を辞めたら、養蜂家になるのが夢だからな!」


「……はぁ。もういい。私はそもそも、アンタと違って立場が違うし、光様が消えたことを素直に報告するわ」


「え!? ちょっと待てよ!? おい、クソエルフ! お前だけ助かろうとするのは、違うじゃん! そもそもお前が蜂蜜をくれなかったのが悪いんだ!」


「はぁ!? なら鬼将軍(マードリッヒ)に蜂蜜くださいって言えばいいじゃない! ぶん殴られるのがオチだけど!」


 彼女達のやり取りが面白おかしかったのか、外で寝ていた黒桜が起き上がり、口を巧みに使って窓を開け、ケラケラ笑っていた。

 セオはその様子に椅子から転げ落ち情けない姿を晒すが、ジニーやエリアスはもう慣れてしまったのか、落ち着きを保っていた。


「……光様は黒桜を置いて、どこへ向か──セオ! 大至急、ギュスターヴ城に向かうわよ!」


 エリアスには確信があった。

 朝倉光は、ギュスターヴ城での宝探しに夢中だった。

 どうやってこの場を抜け出したかなど後で考えればいい。まだこのミスは挽回できるはず。


「おばあちゃん、蜂蜜をくれますか? 蜂蜜をくれたら働きますので──あ、これはいい蜂蜜ですね! 流石はおばあちゃんです!」


「もう! ばあちゃん! 家の蜂蜜全部あげないでよ! ほら、セオ! 私達だけで向かうわよ! 黒桜、アンタの背に乗せて! アンタの飼い主に会いに行くわよ!」


「えー? まぁ、光様に会いに──ヒヒーン! ヒヒーン!」


(今更、馬のフリをするな!)



§



 ギュスターヴ城を探索している間、黒桜の話を聞いてみたのだが、彼女は旅好きの芸者だそうだ。

 そんな彼女の趣味は新たな知識を得ることであり、エドワーズ公国だったか。この国の歴史や地理、はたまた郷土料理などの知識に非常に興味があるらしい。

 

 そのおかげかどうかは分からないが、彼女にとってこの城は自分の庭のようなものらしい。

 俺が必死で探した宝物庫は勿論のこと、他にも同規模の宝物庫があるとのことで案内してもらっている最中だ。


「光様は、どの程度必要なのでしょうか?」


「んー。この国だと金貨は貴重らしいから、なるべく金貨以上の価値の物があれば嬉しいんだが」


「なるほど。ですが、保管する場所はありますか? 場所が問題かと思いますが」


 た、確かに! あー、だから少年は麻袋を渡してくれたのかな?

 手荷物にも邪魔にならないように配慮してくれたってことか……。か、賢い子だな……。


「さ、こちらです。ここは光様が見つけた宝物庫以上の物があるかと」


 黒桜が導いたその場所は、俺が見つけた宝物庫など陳腐に思える程の広さを有し、まるで地下空間に造られた巨大なスタジアムのような場所であった。

 その場所には今まで見たことのない財の山が築かれ、そこかしこに無造作に宝箱が置かれ、周囲には数多くの宝石類が散乱していた。


「うわ……。ドン引きするレベルのお宝の山だね……」


「これだけあれば、暫くは遊べるかと。山分けですので、あちらからこちらは光様に差し上げます。私はこちらから全部ということで」


 そんなにいらないよ!? 身の丈ってのが大事だからね!?

 というか、黒桜って結構がめつい子なのかな? ハハハ、この子と遊ぶ男は大変そうだな。


「い、いや、気持ちは有難いんだけどさ? 黒桜さんも言ってたじゃん? 保管する場所が必要だって」


「まぁ! 私と光様の仲ですので、これからは黒桜とお呼びください! 確かに、それが問題ですね。私は別にどうとでもなるのですが──何かいい場所あったりしますか、光様?」


 あ、この程度どうとでもなるのですか? す、凄い子だな……。

 いい場所か──っは! そう言えば、良い場所があったな! ジニーさんなら許してくれるだろ、多分!


「めっちゃいい場所あるよ! 黒桜、シェラの指を貸してくれない? で、悪いけど運ぶのも手伝ってよ! いいよね?」


「勿論です! こうやって共同での作業は大切ですからね! あぁ! 血肉を貪り──ゴホン! 美味しいステーキを一緒に食べたいですね♪」


 肉体労働をさせちゃってるし、そりゃあお腹も空くよね。

 ジニーさんに鹿肉分けてもらって、美味しいステーキを作ってもらおうかな?

 とりあえず急いで、可能な限り持ち出すとするか。



§



 エリアス達がギュスターヴ城に着くや否や、朝倉光の名を叫びながら捜索を始めた。

 黒桜は城外で待機し、内心で彼女達の無駄な努力を嘲笑っていた。何せ、馬の姿の黒桜と美女の姿の黒桜は、互いに情報を共有しているのだから。

 正確に言えば、このギュスターヴ城内ならびにこの一帯は黒桜の支配領域である──かつて、ホヌイを祀っていた祠は穢され、今では黒桜の領域と化している地帯。


 だからこそ、城内に突如として現れた侵入者もすぐに確認が出来た。

 恐らく間もなくエリアス達に襲いかかるだろうが、彼女達がどうなろうと知ったことではない。

 エリアス達が倒れても、侵入者が倒れても末路は同じ──彼女の血肉となり、彼女の糞となるだけだ。


(それにしても、≪夕闇の嘆き≫はまるで蛆虫ね。叩き潰しても、叩き潰しても何度も何度も現れる)


 朝倉光達が去った後も、≪夕闇の嘆き≫が異変を調査するために部隊を何度も送っていた。

 今の襲撃を合わせると、4度目の襲撃になるが、内心煩わしさがあるのは確かだ。


「ねぇ、私? もうすぐ作業は終わるかしら?」


『えぇ、私。ほら、光様のお茶目な姿! 可愛いじゃない? 貪り喰らいたいわ♡』


「駄目よ、私! まだ早いもの! もっと美味しくなって頂かないと!」


『そうね、私。あー、エリアス達が戦い始めたわね? まー、流石にここまで響かないはずだし、勝手に死んで欲しいわね』


「はぁ……。暇だから私もそっちに行っていい?」


『駄目! 絶対駄目! いつも一緒じゃない! 少しは遠慮しなさいよ、私!』


 馬の姿に飽きた黒桜は、朝倉光の姿へと化し、準備運動を始めた。

 なにせ、暇なのだ──愛しい光と共同作業する黒桜があまりにも羨ましかったのだ。


『ふーん? 残念ね! 光様のような輝きはないわよ♪』


「黙りなさいよ、私! 今は愛馬ではなく、光様の姿を一時的に借りただけ。エリアス達がどうなろうと知ったことじゃないけど、城内に侵入した蛆虫の駆除はこの姿でやってあげるわ」

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