廃城は嘆きで満ち、黒桜が舞う─④
イシスの村の外れに、≪漆黒の槍≫の野営地が設けられていた。
その会議室代わりのテントの中にて、マードリッヒならびに彼を慕う側近達は、先程のギュスターヴ城での出来事に対して、正直頭を抱えていた。
その中にエリアスもいたのだが、彼女は入り口付近で内心冷や冷やしながら、遠くを眺め現実逃避をするばかり。
「──エリアス。本当に奴は、危害を加えないと誓えるのか?」
正直、エリアスだってそれは定かではない。
が、ここ数日、一緒に暮らしていた彼女は自信のない笑みを浮かべながら、朝倉光は≪漆黒の槍≫に対して敵意を向ける人物ではないと釈明した。
「……では、報告を聞こうか。まずは、ジルドレ。貴様からだ。あの四肢を欠損した者達について、詳しく話せ」
「っは! 結論から申し上げますと、奴らは全員≪夕闇の嘆き≫のメンバーであることを自白しました。そして、奴らに罰を与えた人物は──朝倉光でした。それと──」
ジルドレもまた、マードリッヒと同じく元フィヨルド帝国の軍人だ。
そんな彼は若いながらにして、エリアス以上の才能を有し、マードリッヒを師として敬っている。
普段、冷静沈着な彼だというのに、次の言葉を発する際、声が酷く震えていた。
「……続きを話せ」
「いえ……。ですが……。その──信じ難いのですが……」
「話せ!」
「っは! 奴らの目の前で──奴らの仲間を丸ごと喰らったと……」
ジルドレが嘘をついているはずがない。
それはこの場に出席していた者達が全員分かっていた。
が、ここでエリアスは彼の言葉が偽りだと訴える。それがどれだけ虚しい行為であるか、彼女自身も内心気づいていた。
「……丁度いい。エリアス、朝倉光から語った内容を話せ」
「っは! 光様が手を下したのは、城内にいた者達。つまり、二人を失明させたことは認めています。ですが、城外のことは何も知らないと。つまり、城外にいた≪夕闇の嘆き≫のメンバーには何も手を下していないと言っているのです」
「ですが、奴らから直接、朝倉光が関わっていた事実を確認しております。それに──貴女も見たでしょう? 朝倉光に対して恐怖に歪んだあの表情を。それを嘘だとは言わせませんよ」
「っ!? それは──ですが、私は朝倉光を信じます。信じたいのです……」
その力なき言葉では、誰もエリアスの味方をするはずがない。
当然ながら、ほとんどの者達が朝倉光を警戒していた。そう、マードリッヒ以外は。
「……二人の言葉は真実なのだろう。だからこそ、恐ろしいとは思わないか?」
「師よ──ゴホン! マードリッヒ様、それは一体どういうことですか? 状況証拠から察するに、朝倉光が≪夕闇の嘆き≫と対立。結果、≪夕闇の嘆き≫を殲滅したのではありませんか?」
「それは正しい。正しいが、覚えているか? 黒桜、だったか。アレは──あの感じは、≪災厄の使徒≫に匹敵する程の実力者だ。そんな実力者が、朝倉光と関係を有している。恐らくは、彼とは友好関係を結んでいるのだろう。では、問題だ。その逆の勢力──つまり、朝倉光を破滅させようと動く勢力がいるのであれば? 巧みな変装術でかつ、幻惑呪文を有する者がいれば?」
「それこそ論理が飛躍しすぎかと! 師よ! 何故そんな面倒なことをするのですか!?」
誰が見ても、ジルドレの言い分が正しいと思えた。
しかし、エリアスだけは覚えがあったのだ──朝倉光は異国の貴族であり、そして追われる身であることを。
「まさか……。光様を追う者達が既に、光様の所在を掴んだということなの……?」
「──例の手紙に記載されていたな。朝倉光を狙う者達がいることを。半信半疑であったが、恐らくその線が濃厚だろう。第三勢力が既に、ビスマルク領内に侵入し、そしてイシスの村周辺に展開しているのは間違いない」
一気に場はざわめくが、すぐにマードリッヒはこれを静めた。
そしてゆっくりとした口調で周りに語る──ウェスター辺境伯が既に、イシスの村へ向かっていることを。
「主が来れば、必ず状況は好転するはずだ。ジルドレ、≪夕闇の嘆き≫の奴らを手当てした後、徹底的に情報を吐かせろ。その後は処刑しろ、最大限の苦痛をもってな」
「っは!」
「エリアス。お前は朝倉光の行動を常に監視しろ。これ以上、奴の好きにさせるな」
「っは!」
「その他の者達は、ギュスターヴ城にて保護した女達を輸送する班と、ギュスターヴ城の内部を調査する班で分ける。行動は明日からだ。皆、宜しく頼むぞ!」
§
ヤバイ、絶対ヤバイ!
こ、このままでは! お城の宝が全部没収されるのは火を見るよりも明らか!
だってエリアスの職場仲間が、明日は城内の探索をするみたいな内容を言ってたし!?
お、おのれ……! あの城の宝はまだ全然回収できていないのに、火事場泥棒じゃないか!
ジニーさんの家で大人しくするように、エリアスからお叱り受けたばかりだし!
しかもご丁寧に、入り口の前に屈強な男が俺のボディーガードをしてくれているよ! 酷いや!
はぁ……。窓から抜け出したら、絶対エリアスに嫌われちゃうし……。
俺さ、そんなに今日は悪いことしてないよ? ただ宝探しを楽しんでいただけじゃん!
「随分とお困りのようですね、光様♪」
「はぁ……。マジで困ってるよ、あの城の宝を回収できなくて困ってるよ……」
「ギュスターヴ城、でしたか? 回収しに行きますか?」
……は? あのぉ~? 黒桜さん? なんで当たり前のように、この部屋にいるわけ?
え? 入り口の前の者を説得しただって? ハハハ! 中々面白い冗談を言う子だな!
「参考までに聞くけどさ? どうやってここから抜け出すの?」
「こちらでございます。たまたまギュスターヴ城で拾ったのですが、便利な道具ですよ?」
黒桜が差し出したのは、木製の鍵であり、よく分からない文様が刻まれていた。
その文様が脈打つ感じで絶え間なく揺れ動き、まるでこの鍵自体が生物のように思えた。
「えっと──どう使うの?」
「ようやく光様との知恵勝負に勝てた感じですが──きっと、ご存知なのでしょう。この鍵の名は、シェラの指と呼ばれているそうです。例えば、こういうドアに鍵穴がなくても、この鍵をこうやってかざすと──ご覧のとおり鍵穴が出来ます」
おぉぉぉぉぉ! めっちゃ異世界って感じで、凄い!
ま、魔法ですか?! 魔法なんですよね! いいなぁ! 俺も使いたいなぁ!
「で、この鍵穴にシェラの指を差し込んで回すと──こんな感じでギュスターヴ城に繋がるのです」
「黒桜さん、凄いよ! 俺の愛馬の黒桜ちゃんと同じぐらい凄い!」
「も、もう! そ、そんなに褒めないでください! そんなに褒めてくださるなら、喰ら──じゃなくて、頭を沢山撫でてください!」
よしよーし! 良い子だ、黒桜ぉぉぉぉぉ!
愛馬を撫でまくったおかげで、髪を撫でるのは上達したからね! じゃんじゃん撫でてやろう!
「じゃあ、黒桜さん。一緒に城内探索してさ、お宝を山分けしよう!」
「お任せを! 光様を脅かす者がいれば、迷わず喰らってあげますからね!」
喰らう? あー、レベル上げ的な意味かな?
まー、俺より確実に強いはずだし、マジで期待してるからな! 黒桜!




