廃城は嘆きで満ち、黒桜が舞う─③
私と光様の時間を邪魔しようとする者は、何人たりとも許さない。
ホヌイから聞いた情報は確かだったようね──やはり光様を狙いに来たか。
まぁ、城内に突如現れたダニ達ぐらいであれば、光様が潰してくださるだろう。
≪夕闇の嘆き≫、だったかしら? 所詮はダニ虫以下の奴ら。
そんな虫以下を喰らい、新たな知識を得て、同じく虫けらの同類だと思わせ、ただ私の血肉になる哀れな贄如きが、私だけの光様を狙うなど分不相応にも程がある。
全く、ホヌイの手のひらで踊らされている感じは癪ではあるが、アイツはアイツで利用価値がまだある。
それに随分と楽しい晩餐会を開いてくれたんだし、今回だけは喜んで踊ってあげるわ。
「ひぃぃぃぃぃ! うがががが……!」
えっと、確か10人程度は喰らわずに、行動不能にしとけって言ってたかしら?
行動不能ってことは、こんな感じで四肢を欠損させておけばいいはずだし、あとはしっかり止血もすればいいのよね?
で、光様だと誤認させておけって言われたけど、何の意味があるのかしら?
「お、お助け──」
「喋るな。この城と土地は全て、俺が頂く。文句があるならば、喰らってやるぞ? そこの女、お前の頭は柔らかそうで美味しそうだな?」
やはり生きたまま踊り喰いした方が、口の中が悦ぶじゃない?
ホヌイは快楽の過程を楽しむのが、最高の快楽に繋がるとか意味不明なこと言ってたけど、こうやって喰らっている結果こそが、最上の快楽なんじゃないかしら?
っは! いけない! 今の私って、光様の姿じゃない! あぁ、もう! 私の馬鹿、馬鹿!
光様は私のような感じじゃなくて、もっとお上品に食事を楽しまれる方なんだし、なんて不敬なのかしら! こんな食べ方だと怒られてしまうわ! 反省、反省っと。
「……おっと、残り9人か。そう怯えるな、ダニ虫共。最早、お前らしか残っていないんだ。ただ今は、俺という素晴らしい存在を感じて、神にでも祈っているがいい」
最早この一帯は、私の地だ。ホヌイも了承してくれた。
こういうダニ虫共が奪いに来るようであれば、同じことをただ繰り返すだけ。
「──ほぉ? 近づいてくるのは、エリアスと≪漆黒の槍≫か。ならば一旦、城内へ戻るか。とは言え、だ」
甘味は別腹じゃないかしら? アーハハハハ! もっと悲鳴を上げろ、絶望に酔いしれろ!
§
エリアスは正直、焦っていた。
何せ、朝倉光が何も言わずに行動する時は必ず、何かをしでかすのだ。
既に廃城での凄惨な殺戮が行われた事実があり、だからこそ今、こうして≪漆黒の槍≫として彼女は行動をしている。
ビスマルク領の治安を守護する者として、朝倉光を監督しなければいけない責任がある。
「──エリアス。本当にこの先にあったのか、城が」
そう語ったのは、デュークの代わりに臨時に任命されたリーダー、マードリッヒ。
デュークよりも実力は劣るが、彼はかつてロジャーに仕えていた部下であった。
同じ獣人であるロジャーに対して深い尊敬と共に、彼を自分の父としても敬っていた。
「えぇ。公国では抹消された城──ギュスターヴ城が確かにありました。そして、そこで彼女達を保護し──報告した通り、朝倉光が城内にいた者達を皆殺しにしました」
「なるほど。城内の探索は私達が来てから開始するのは、良い判断だ。多数の亡骸があるはずだろうし、殺害された者達を調べれば、色々出てくるだろうさ」
この時、マードリッヒは一つ、エリアスに語らなかった。
それは二日前、既に公国内で多数の貴族達が失踪した情報を入手していたことだ。
その中には公国の宰相であるドノバンも含まれており、公国内の混乱を避けるために、この情報は機密情報として扱われていた。
そして今向かっている、ギュスターヴ城は数百年前から記録上で抹消された城であり、数百年前には取り壊しが完了したという事実が公文書に記載されていた。
つまり、公文書を偽造してまで使われていた城がビスマルク領にあったという事実は、ウェスタ―辺境伯すら知らなかった廃城だったのだ。
「彼女達は皆、自分達が商品だったと語っていました」
「……それを光君、だったか。彼の逆鱗に触れたと」
エリアスは若干言葉を詰まらせながら、マードリッヒの言葉に同意した。
「──なるほど。君の故郷に近い場所で、そのような場所が存在していたとなると、あまり君を同行させたくはなかったのだが、すまないな」
「いえ。光様を保護するのは私の役目でもありますし、それに──!?」
すぐに異変を察知したエリアス達は、速度を上げてギュスターヴ城へと向かう。
近づけば近づく程、血の臭いと悲痛な叫び声が聞こえてくる。
そして彼女達がギュスターヴ城に着いた時──そこには光と異国の美女がその場にいた。
§
「ひ、光様……! ど、どういう状況でしょうか!?」
うん、こっちが知りたいんだけど?
黒桜が戻ってきたかと思えば、またあの花魁みたいな美女に出会っちゃったわけですよ。
再会できたのが嬉しかったのか、物凄くご満悦な表情を浮かべてるんだけど、またこの城で出会うなんて予想外すぎるよ……。
「えっと、宝探しをしてたんだけどね? やっぱり一人で宝探しは危ないことを学んだ感じかな?」
「まぁまぁ! そう御謙遜なさらずに! にしても……、光様? 中々惨いですね。とても素敵です!」
「え!? いや、お、俺じゃないよ!? 黒桜──あ、馬の方ね! 黒桜さん、庇ってくださいよ!?」
「そう言われてましても……。私も光様と同じく、宝探し出来ないかと思って来たばかりですので……」
え? 酷くない? ちょっとぐらい庇ってよ?
あ、もしかしてさ? 俺が前、ちょっと冷たくしたから?
いやいや、警戒は大事でしょ? それに名前も聞いたんだし、機嫌直してよ!?
「あ。そういや、城の中に少女が二人まだ生きてます。保護してください」
流石は俺、報連相は大切だよね。
もう視力は回復しないだろうけど、≪漆黒の槍≫に保護してもらえば大丈夫なはず。
流石は俺、なんとも慈悲深いのか。
「!? 案内出来ますか? 光様!」
「黒桜ちゃん、悪いけどさっきの場所まで案内してあげて。あ、この子に付いて行ってください。賢い子なんで、案内してくれますので。頼んだよ、黒桜ちゃん」
「アーハハハハ! おまか──ヒヒーン! ヒヒーン!」
多分あの子、人語を喋れるんじゃないかな?
きっとまだ人語を完璧に喋るのに時間がかかるんだろうね。
だから敢えて馬っぽい鳴き声で応えてくれるなんて、可愛い馬だな。
「では、光様。流石に今から宝探しは出来ないようなので、私はお暇させて頂きます」
「あ、そうですか。じゃあ俺も黒桜ちゃんが戻ったら村に戻ろうかな? またね、黒桜」
「えぇ、また♪ では皆様──御機嫌よう」
まるで桜が宙へ舞っていくかのような感じで、黒桜はその場から姿を消した。
にしても、また再開できるとは思わなかったけど、最後は少しだけ仲良くなれたかな?
「……光様。また、ですか?」
「え? あー……」
そういや、昨日もこの城を訪ねたことを報告してなかったし。
多分、そのことを彼女は指摘しているんだろうな。
「宝探しの最中に、≪夕闇の嘆き≫と出会うなんて想定外だったけどね。ごめんね、報告してなかったよ」
あれ? なんか急に皆さん、表情が険しくなってませんか?
よし! 何か突っつかれたら朝倉光の仮面を被って対応しよう、そうしよう。




