廃城は嘆きで満ち、黒桜が舞う─②
宝探し──それは、男心をくすぐる娯楽の一つである。
しかし異世界においては、生活の質を向上させるために欠かせない行為だ
一攫千金を得られる機会があるのならば、誰でも飛びつくのは当然ではないか?
とはいえ、そういう機会があれば、ライバルが殺到するのが通常かと思うが。
一昨日見つけたこの城はその限りではなく、超優良物件として新規にオープンしたばかり!
あぁ! まさにベリーイージーモード! 神に感謝しなければいけない、俺の豪運に!
とは言え、だ。おかしな点がないわけでもない。
見た目こそは捨てられた城のような佇まいではあるが、内部構造はその真逆。
まさに栄華を咲き誇るかのような造りであり、そんな栄華から逃れるように数多くの女達がこの城からぞろぞろと出てきた場所なのだ。
つまり──最近まで使われていた城であることは確定、というわけだ。
そんな華やかさの裏側には、悍ましさが共存しているのも確認できた。
まるで欲望の坩堝に放り込まれたかのような気分になったのは、大量の檻や足枷、様々な拷問器具に、性欲を満たすための道具の数々。
もっとも、城というものは元来そういう性質を孕む建物なのやもしれない。
歴史探訪で訪れた城では、こういう生々しいものが見れなかっただけあって、正直、かなり勉強にはなった。
そんなこんなで宝探しを続けながら、城内の探索は順調に進んでいた。
だが、先程まで行動を共にしていた黒桜が、何かを察知したのか、2階の窓を突き破って何処かへ消えてしまった。
恐らくだが、俺と同じ理由だと思う──こんなにだだっ広いのに、トイレの数が少なすぎる!
俺の膀胱よ、頼む! 今暫し我慢してくれ! 流石に城内を汚したくないからさ!
「お兄さん? ここ、ウチらの縄張りって知ってる? 駄目じゃない、一人で探索なんかしたらさ」
「そうだよね、お姉ちゃん! アタシらの縄張りに無断で入るって、最低だと思いまーす!」
突如、背後から少女達の声が聞こえ振り向くと。
どこか異国めいた民族衣装のような派手な衣装を着けた少女達が、薄ら笑いを浮かべながら明確な敵意を俺に向けていた。
恐らくは双子なのだろうか? 二人の顔はほぼ同じであり、いかにも悪戯が大好きな小悪魔のような感じだ。
全く、最悪だ──肝心の黒桜がいなければ、俺などただのその辺の雑草でしかない。
しかも膀胱の限界も近づいているし、正直、失禁して楽になりたいとも思えてくる。
いや、流石に少女達の前で失禁してしまえば、異世界生活で半永久的に弄られるやもしれない。
ならば演じるか──村長宅で初めて演じた朝倉光を。
異国の貴族、朝倉光という仮面を。
「──知らんな。たまたま見つけたこの城を散策していただけなのだが?」
「へぇ~? じゃあさ! ウチらの縄張りなんだし、入場料が必要なんだけど? お姉ちゃん、幾らにしよっか!」
「……金貨20枚でいいんじゃない? それで許してあげる。上にも報告しないであげる」
あー、その程度でいいのか。なんとも良心的価格設定だ。
エリアスがもしこの場にいたら憤慨するだろうが、それぐらいどうとでもなる。
ほら、勉強領だ。この城で入手したんだし、実質無料だろ?
「ほら。見学料で金貨30枚だ。10枚は君達で分けるがいい。確かこの国では、金貨の価値が高いんだったよな? ほら、受け取れ」
裾から小さな巾着を取り出し、少女達に放り投げてみたが、なるほど。
今の台詞は彼女達からすれば、自尊心を傷つけるには十二分に値したようだな。
仕方ないだろ? その巾着は30枚で一杯になる大きさなんだし。
いやはや、もう少し言葉を選ぶ練習はした方がいいかもしれないな。
「……この巾着。どこで手に入れたの? お兄さん?」
あ。まさか、言葉じゃなくてそっちか!?
そう言えばさっき、縄張りがどうとか言ってたけど、宝物庫のような場所から取ってきたのバレてる感じか!?
「落ちてたから拾った。それがどうした?」
「……そう。では、これは返却という形で受け取ってあげる。さ、金貨30枚出して?」
「アハハハ! 出せるわけないよねー? 出せなかったら──分かるよね?」
「別に出せるが? ただ、距離が離れているがな。付いてきてくれるなら、支払おう。それまで自由に行動しても構わんよな?」
うぐっ! ぼ、膀胱がヤバい……!
ちょっと身を屈めて我慢しなくては──って、え? なんで君ら俺の背後を取っているわけ?
「な!? か、完全に今、首を刎ねたよね!? お姉ちゃん!」
「──私達の併せを自然に流すだなんて……。このお兄さん、相当ヤるよ! ターニャ!」
首を刎ねたって言わなかった?
うん、もう怖いんだけど!? ちょっと待って!?
ベリーイージーモードからヘルモードに移行しちゃったわけ!?
いやいや、異世界の子達って怖くない!? こんなか弱いお兄さんを虐めないでよ!
「君達──え? 今度は離れるのか? なぁ、俺はただ小便がしたいだけなんだ。後で払ってやるからさ、通っていいか?」
「ターニャ! 近づかせるな! 併せでヤるよ!」
「分かった! お姉ちゃん! アハハハ! くるくる踊ってね! お兄さん!」
彼女達が明確な殺意を俺に見せた瞬間。
手に持っていた槍の穂先が眩い黄金の光を放ち、少女達の殺意を見事に掻き消した。
いや、搔き消したというのは語弊か? ──何せ、少女達の絶え間ない絶叫が響き渡っているのだから。
少女達の目元は酷く焼け爛れ、もはや何も視えはしないだろう。
ただ姉妹の名を呼び合い、激痛に悶え苦しむ様を見て、憐れみを覚えようとしなかった。
だって俺を殺そうとしたんだし、そもそも俺はトイレに行きたいだけなのだ。
「じゃあ、スッキリしてくるからね? あ、この巾着は返してね。見えないんだし、必要ないよね?」
「き、き、貴様ぁぁぁぁぁぁ! 上級魔術師か! ウチらが≪夕闇の嘆き≫と知っての、その狼藉か! 絶対許さない!」
「いだいよぉ……! あぁ……! もう殺してよ! アタシらもう終わりだよ……。お姉ちゃん……、もう終わりだよ……」
「まー、俺を殺そうとしたのは君らなんだしさ? 少しは反省した方がいいよ? 大人しくするならさ、君らを助けられる人達に保護してもらうよう掛け合うよ? じゃ、俺はスッキリしてくるから!」
にしても、この槍──相当ヤバい代物、だよな?
まるで槍に自分の意思があり、俺を護るかのように反応したし。
そういや、この槍を褒美でくれた少年ならば、槍の性能などを知っているはずか。
またいつか会うかもしれないが、その時に聞いてみるとするか。
にしても、今回の一件で改めて理解したが、命の価値が希薄だということだ。
何せ、たった一言で敵意から明確な殺意になり、そして殺人を厭わずに行動してしまう。
特に、このような場所では尚更──やはり、黒桜のような相棒の大事さを改めて痛感した。




