表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

廃城より出でしモノ─④

 ホヌイ・オズキは黒桜(こくおう)に場所を変えようと提案した。

 その提案を即座に受け入れる黒桜。


 理由は単純だった。

 こんな場所で殺し合えば、朝倉光の眠りを妨げかねない。


 彼女にとって、朝倉光は誰にも渡したくないご馳走であり、そして──唯一、自分のことをぞんざいに扱い、名を与えてくれた存在だった。


 だからこそ、彼の品質管理は最優先事項だ。

 自分とは違い、朝倉光は睡眠を必要とする存在なのだ。

 十分な睡眠こそが健全な血肉を育むと、彼女は理解していた。


 故に、朝倉光の眠りを襲うという選択肢は存在しない。

 極上の絶叫を堪能するならば、目覚めた状態の方が望ましい──黒桜なりの美学でもあった。


「それで? この城の前で、一方的な蹂躙をされたいってことでいいかしら?」


「おぉ! それは実に魅力的だが──まずは共通の話題からだ! 我輩の名はホヌイ・オズキ。麗しい美女よ、まずは名前を聞かせてくれ」


(麗しい美女、か。我輩の眼は誤魔化せないぞ? 穢れしモノ)


 男なら誰しも求める絶世の美女の皮を被ったそれは。

 輪郭が定まらず、常にナニかに姿を変え続け、うねうねと揺れ動く異形。

 混沌と狂気を孕んだ、漆黒の災厄。


 ホヌイは自ずと理解した。

 何者にでもなれ、何でも喰らい、何も残さない存在であることを。

 それが、黒桜──闇に咲き誇り、他は彼女の栄養分として虚無に還す存在。


「黒桜、私だけの光様から頂いた名前よ」


 黒桜は、朝倉光の名前を嬉しそうに呼び、勝ち誇った笑みを浮かべる。


「それに──お前のことも、よく知っているわ。こう見えて、物知りなのよ?」


 ホヌイはしっかり予習を済ませている黒桜に向かって、盛大な拍手を送った。


「それは実に素晴らしい! であれば、我輩と朝倉光の関係性もしっかり予習しているということだな!」


「……は?」


(なるほど。予習の範囲は限られている、か)


 ホヌイは驚きを隠せない表情を黒桜に見せつけ、彼女を苛立たせる。

 なにせ、彼はそういうことが大好きな男なのだ──彼女の歪んだ表情に、正直ホヌイは興奮を隠せずにいた。


「カカカカカ! 我輩と飲み友達だということを聞いていなかったのか? 最近飲み友達になったばかりだし、知らなくて当然かもしれないな! おっと……。我輩のことを、よく知っているんじゃなかったかな?」


 黒桜がこの上なく苛立つのも無理はない。

 今の彼女は、朝倉光の愛馬という立場にある。

 この姿では、名を聞き返してもらえなかった事実まである。


 だというのに、ホヌイとかいう中年の酔っ払いは──既にそういう関係性を築いている。

 その事実だけで、この男を殺す理由が十二分にある──真の絶望を徹底的に分からせる必要がある。


「お前ぇぇぇぇぇ! お前を喰らいつくせば、お前の世界が手に入るということでいいのかしら!? 惨たらしく殺して、お前の世界を私の世界に覆い尽くしてやる!」


「ほぉ! それは実にいい発想だ! だが、その前に──お前の興味があるものを見せてやろう」


 二人の前に映し出されたのは、光とホヌイが酒を酌み交わす光景だった。

 それを見た黒桜は、恍惚とした表情を浮かべ、艶のある声を出しながらうっとりしていた。


「あぁ……! 光様……、美味しそうに食べているだなんて……! 本当に最高……」


「そう、それなのだ! それが重要なのだ! ──因みに他の者だと、こういう反応が普通らしい」


 次に映し出されたのは、多種多様な種族の者達。

 ホヌイが用意した酒や食べ物を前に、彼らは等しく発狂した。

 ある者は両眼を潰し、またある者は喉を裂き、そしてある者は自分の手を貪る。


 そんな彼らの姿に、ホヌイは腹を抱えながら笑いつつ、酒を楽しむ。

 そうして彼らは、彼の食料品目録に加えられ、ホヌイの望む食料となる運命へと堕ちた。


「……それで? 何が言いたいのかしら?」


「カカカカカ! 我輩の食料品となった者達は皆、我輩を畏れ、同時に我輩を信奉している。それにも関わらず──だ。我輩との楽しい飲み会よりも、率先して我輩の糞になろうとする傲慢さが滲み出ているではないか。わざわざ我輩に会いたいと願ったはずだというのにな」


「くどいわね。要点を言いなさい」


「そうせっかちになるな、黒桜。いいか、物事は順序が大事なのだ。その順序を無視しては、至上なる快楽を得る機会を失うだろ? では、光はどうだ? 我輩は光を強引にこの場へ参加させたというのに、奴はこう言ったぞ? ──『お招き頂き、ありがとうございます』とな」


「……続けて」


「奴はな、黒桜──奴は、器があまりにも異次元すぎるのだ。それ故に味を理解し、味を吟味し、味を楽しむ。つまり、奴は我輩達と同じ価値観を有する貴重な飲み友達に至ったのだ」


「……」


「我輩は奴を奪うつもりはない。が、そんな飲み友達を奪おうとする愚か者がいるのであれば──」


 黒桜は一瞬、全身を凍てつかせるような心地よい殺気を感じた。


「酒の(さかな)にしてやろう──ゲテモノはさぞかし美味いはずだからな?」


「アーハハハハ! 楽しい夜になりそうねぇ! 放蕩と快楽の王! お前を惨たらしく殺すのには、とてもいい夜じゃないかしら!」


 黒桜は既に臨戦態勢を整え、ホヌイもまた全身の骨を鳴らし。

 今まさに、両雄が激突しようとした、その時──。


「だが、まずは酒を飲むか! 光も飲んだ酒をお前にも振る舞ってやろう!」


「──は?」


「何を素っ頓狂な顔をしているか! 酒の場で語らい、それから殺し合うかどうか決めたっていいではないか。それに、奴と酒を飲むかもしれんだろ? 酒の飲み方を少し教えよう、どうだ?」


「っ!? そ、それなら、し、仕方ないわね! つ、付き合ってあげるわよ!」


「うむ! では会場を用意させよう! 暫し待て」


 廃城を背に、二人は酒を酌み交わし親睦を深めていく。

 無数の絶叫が廃城から響き渡り、彼らは歪んだ表情を浮かべてその音を愉しんでいた。



§



 いやはや、随分と燃え盛っているな。

 村人総出で消火活動をしているみたいだし、俺にはあまり関係ないな。

 おどおどするジニーさんに優しく声をかけてあげたが、あまり効果がなかったようだ。


「……ただいま」


 お、エリアスが帰って来たな。

 ほら、お世話になっているんだしさ? 温かいお茶を淹れてあげたよ?


「え? 私に? あ、ありがとう、ございます」


「ごめんね? 一応、ジニーさんに作り方は教わったんだけどさ? 不味かったらさ、捨てていいからね?」


 大丈夫だよ、エリアス。

 毒なんて入ってないからさ、素直に飲んでいいんだよ?

 よし、エリアスの茶を俺が飲んで──うん、いい感じに薄い! これ、お湯だ!


「……お湯だったよ」


「知ってるわよ……。はぁ……。気遣ってくれて、ありがとうございます。それに──先程の件も、私の意見をしっかり聞いてくれて、感謝しています」


 だって、俺が救ったわけじゃないしね?

 ≪漆黒の槍≫という組織が上手く扱ってくれればいいんじゃないかな? 知らんけど。


「別にいいよ。あー、それとね? こういう二人きりの時は、気軽にタメ口でいいよ。じゃないとさ、疲れるじゃん? 確かに俺は武家──この国だと貴族か。それがどうしたって話さ。こうして出会えたわけなんだし、俺はジニーさんみたいにエリアスとも仲良くしたいよ」


 まー、ほとんどは嘘をついていないわけだし。

 折角の美少女エルフちゃんと仲良くなりたいじゃん、元日本人男児なんだし?

 

「──傑物、ね」


「ん? ケツをぶつの? え!? いや、そういう趣味はないんだけど……。え? 俺がエリアスのケツをぶっていいの!?」


「もう、本当にお馬鹿! ばあちゃんが、光様のことを傑物だって言ったの! ったく、光様。私がお茶を淹れてあげますから! それを飲んだら、ゆっくり眠ってくださいね! 今日はもうお疲れなんですから! 全く、これだから若い子は……」


 エリアスはムスっとした表情を浮かべながら、俺にお茶を淹れてくれた。

 ただどことなく、彼女の雰囲気が少しだけ和らいだようにも思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ