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廃城より出でしモノ─③

 イシスの村の村長宅が燃え盛る中、アレックスは自宅が燃え盛る様をただ眺めていた。

 騒ぎを聞きつけた村人達が懸命に消火活動をしながら、彼を慕う青年達は声をかけ、ケネスの安否を問うが、ただアレックスは静かにこう言った──「父さんはもういない」と。


 事件は数十分程、遡る。

 エリアスを含めた者達を見送ったアレックスであったが、やはり気がかりだったのは光のことだ。

 確かに、自分達が好意的でなかったのは事実であったが、それでもまだ話の途中だというのに、自分達を見下しながら帰ったのもまた事実。

 それに対してエリアスを呼び止め、あまりにも無礼ではなかったのかと同情を得ようとしたが──。


「はぁ……。本当に呆れるわ……」


「だろ!? 確かに俺達も態度が露骨すぎたのは認めるが、それでも話し合いの場を設けて──」


「違うわ、アレックス。彼は少なくとも、私達との関係を良くしようと努力したわ。更に付け加えるならば、あの子達──救った彼女達の処遇を私に一任してくれたのよ? 彼にとってみれば、取るに足らない存在である私に、ね?」


「……」


「ハッキリ言うわよ。私も彼に同意見。少なくとも、私は彼との接し方に対して、貴方達にアドバイスはしたつもり。だというのに、それを守らせなかったのはどこの誰かしら? 会議に参加した貴方達もそうだけど、つまりそういうことよ」


 その正論に対してアレックスは何も言い返さず、自分の拳をただひたすら強く握りしめた。

 それを見たエリアスは大きく溜め息をつき、こう言った──「もっと大人になることね」と。


 その後、警護の者達を帰らせ、村長宅に残ったのはアレックスとケネスの二人だけとなり。

 階段近くに掛かった肖像画を暫くじっと眺めながら、何故だか自然と涙が零れ落ちだしていた。


 その肖像画に描かれた5人の姿は、家族の肖像画であった。

 ソファーの真ん中に座る若かりし頃のアレックス、その両脇には自慢の双子の姉妹達。

 そんな息子達の成長の様子を優しく後ろから見守るケネスとその妻。


 だが今は、こんな広々とした家にはたった二人だけ。

 そんな生活に慣れてきたというのに、どうして今更寂しく感じることか。


『あぁぁぁぁぁ! ふざけやがって! あの異国のガキが! 私に対してあまりにも無礼だろうが! 舐め腐りやがってよぉぉぉぉぉ!』


 2階から何かを壊す音と同時に、今まで聞いたことのない怒号が聞えてきた。

 急ぎ階段を駆けあがり、ノックをせずにケネスの部屋の扉を開けると──最早その場は、惨状そのものであった。

 常に整理整頓されていた部屋が一変、ゴミ屋敷よりも酷い有り様と化し、自分の存在などを無視しながら斧でベッドを破壊しようとするケネス。


(とう、さん? 確かに不愉快な奴だったが、そこまで怒り狂うのは何故なんだ?)


「あぁぁぁぁぁ! クソ! クソ! クソがぁぁぁぁぁ!」


 ケネスがベッドに斧を叩きつけると──なんと、たった一発でベッドが木っ端微塵と化した。

 アレックスよりも華奢な体だというのに、その膂力(りょりょく)は怒れる熊を彷彿させるほど。

 そんな異常な光景を目の当たりにしたせいか、アレックスは不思議と冷静にこの場の様子を観察し、エリアスの言葉を思い出していた。



 ──もっと大人になることね。



(……俯瞰して物事を見ろ、ということなのか? 俺は正直、頭は悪い。けれど、俺はイシスの村の村長になる男なんだ。だから──広い視野で観察すべき、なんだよな?)


 ケネスの異常行動がきっかけに、アレックスは少しずつ覚醒していた。

 それは元来、彼にはその素質があったのかもしれない──視点を切り替えて、色んな角度から物事を見定める素質が。


 アレックスは考える──果たして、光の態度のせいでこうなったのか? と。

 自然と答えは否と判断する──家具全てを破壊するのはあまりにも異常すぎる、それだけが原因ではないと。

 だがこのような凄惨な現場と化しているのには、相当の理由が存在するのでは? 今日一体何があった? 光を捜索して、それから──。


「……父さん。父さん! 大丈夫ですか!」


(そんなはずはない! そんなはずはないが、それでも確認しなければ……)


「──ノックをせずに入るのは、どうなんだ? アレックス……」


「何度もしましたよ! 父さんが反応をしなかったじゃないですか! これは──何者かが襲撃したのですか?」


(ノックなどはしていなかったが、反応は……?)


 ケネスは急激に怒りを鎮めると、ただ静かにこう呟いた──「そうか」と。

 それからケネスは暫く間をおいて、今は一人にして欲しいとアレックスにお願いをした。


「それは構いませんが……。明日、部下達に掃除をさせますか?」


「──そう、だな。全く、あの会議は失敗だったな。私がしっかり村人達に説明をしていれば──」


 ふと、再び先程の肖像画の絵が頭を過ったアレックスは、咄嗟に壁に掛かった剣に手をやり。

 目の前にいる自分の父親に対して強い殺意を抱き、自分を奮わせるかのようにこう叫んだ。


「お前は……、父さんはどうした!! 何者だ、お前は!!」


 正直、この場から逃げ出したかった。剣を握る手が酷く震えていた。

 だがここで逃げ出すわけにはいかない──イシスの村の村長になる男なのだから。

 父親の皮を被って首を傾げながらこちらを見つめるコイツは、間違いない。何度も村を守るために戦った魔物の眼、そのものだ。


「……何を言っている? 父親だぞ、私は」


「──黒子の位置が違うぞ。肖像画には右眼の真横に描かれているじゃないか?」


「それは絵師が間違ったのだろう。良くある話だ」


「黒子の数まで間違えるのか? 肖像画に3つ描かれていたぞ? 今のお前は1つしかないではないか」


「……ク。……ククク! それは……、教えてくれてありがとう。愛する息子よ」


 ケネスはそのアドバイスを素直に聞き、なんとアレックスの目の前で黒子を作ったのだ。

 言われるがまま右眼の真横に黒子を3つ作り終えると、満足そうな笑みを浮かべた。


「……父さんはどうした?」


「私がその父だ。で、どうする? 殺すのか? 殺せるのか?」


「っ!? 母さんや姉妹達が死んだのは──お前が関わっているのか!!」


 その言葉を聞いたケネスは、うっとりする表情を浮かべながら冷徹な言葉を吐いた。


「高値で売れたぞ? 特に、お前の母親はいい値段だった。何せ、お前の弟か妹を身籠っていたんだからな」


「っ! この外道が……。姉妹達もそういうことで、いいんだよな!」


「あぁ。商品価値は大事なんでな? ちょうどいい出荷だったぞ」


「殺す! テメェはここでぶっ殺す!」


 アレックスは猪突猛進しながら、ケネスを全力で斬りつける。

 が、それを闘牛士の如く回避し、アレックスの頭を鷲掴みにし、床へと叩きつけた。


「どうした? 自警団のリーダー? これがお前の力なのか?」


「っ! こ、殺せ! いっそ殺してくれ! 俺の家族を返してくれ! 返してくれ……」


「おぉ……。なんとも哀れな息子よ……。私の愛が足りなかったというのか──なんとも嘆かわしい! 私の愛の足りなさが嘆かわしい!」


 ケネスはあろうことか──アレックスの唇をねっとりと舐めた。 

 「これが嘆きの味か!」と叫びながら、ケネスは自分の衣服を破り捨てる。

 その姿はまさに獣だった──人の皮を被った鼠のような魔物、それがケネスの正体だった。


「お前の母親は、不貞を愛する女だった。そんな不貞を愛した子が、お前の妹達だ。まさしく、商品になるために生まれた存在だとは思わんか!」


「く……、狂っている……」


「愚かな! 快楽の王子──ホヌイ・オズキ様を崇めるには、これぐらいしなければならないだろ! 見ろ、今の私の姿を! この姿、そしてこの力は、まさに敬虔な信奉者として認められた姿なのだ! そして、私は今! 息子を真に愛す! あぁ! これぞまさに、新たな快楽の瞬間!」


 まさに、禁断の愛を始めようとするケネスに対して。

 ただただアレックスは、静かに自分の心が闇に堕ちていくのを感じていた。

 そんな彼の様子を酷く気に入ったケネスは、更にアレックスを絶望の淵へと叩き込む。


「──お前もいい金になりそうだな。そして、朝倉光に感謝しなければならない。私の生活を破壊し、私に新たな快楽を差し出してくれたのだからな。安心しろ、私は慣れているから任せろ」


(……あぁ、もう終わりだ。もしも神がこの世に存在するのであれば、どうかこの魔物に天罰を──)


 静かにアレックスの眼から光が消え失せていく。

 ケネスは歪んだ笑みを浮かべながら、自分の欲望を満たそうとした。その時──。


「──ねぇ? さっき、私の光様を貶さなかったかしら? 害獣駆除の時間かしら?」


 自分自身を失いかけたアレックスが目にした光景は──まさに、救済の女神の出現だ。

 少しずつ目に光が宿っていき、その妖艶な女神にただ静かに感謝を覚えるアレックス。


「き、き、貴様ぁぁぁぁぁ! 何も──」


 ケネスだったモノはもう喋ることはない。

 突如現れた無数の肉食魚の餌となっているのだから。


「……貴女様は、一体──」


 アレックスがゆっくりと立ち上がろうとした、その時。

 超重量の鐘が一気にアレックスの上を落下するかのような感覚が、彼を踏みつける。


「おぉ! 酒はどこだ!? ここにあるのか!? って、何かを踏んで──おぉ! 新鮮なカーペットか! まぁ、いい。カーペットはただのインテリアだからな! 我輩達のことは、忘れてもらうか」


 そこから先は、アレックスは何も覚えていない。

 ただ自分の父親が魔物であり、そうして今、実家が延々と燃え続けている。

 その炎にどこか、アレックスは救われた気分に浸っていた。

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