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廃城より出でしモノ─②

「あぁ、それにしても随分と派手にやってくれたものだ。いやはや、随分と愉しんでくれて何よりだ」


 血塗れの廃城の中を、ひとりの中年の男が探索していた。

 そんな彼のパートナーは、子羊のバービー──ついさっき拾った子羊だ。

 自由奔放にその辺へ小便を撒き散らすバービーを眺めながら、男は近くにあった椅子に腰かけ、テーブルにあったワインを口に入れた。


「やはり酒を飲まずにはいられない! 快楽に満ち溢れたこの空間で、想像を膨らませながら飲む酒は最高の(さかな)ではないか! そんな素晴らしい者へ──乾杯!」


 狂気に満ちた笑みを浮かべながら、ワインを一気に飲み干すと。

 今まさに糞をしようとしていたバービーを抱えた途端──首筋を噛み千切り、一気に血を飲んでいく。

 その様はまるで、猛暑日の中で外仕事を終えた後の一杯のようだった──それほどまでに、彼は飢えていた。


「あぁ! やはり酒は素晴らしい! まだ若い──いや、若かったか、まぁいい。子羊にする前は何だったか……忘れた! なんで我輩は子羊にしたのだ? まぁ、そんなことよりもだ! 我輩の信奉者達を皆殺しにし、我輩を奉っていた祠をも破壊し、そんな我輩のためにこのような素敵な内装にし、そして我輩はこうしてここにいる! いやはや、なんとも清々しい気分だ!」


 男は手を二度叩くと、トロールよりも巨大な瞳が、その場に出現した。

 「見せるのだ!」と叫ぶと、巨大な瞳は真紅の渦を巻き、やがてこの場で何が起きたかを映し出した。


「──おぉ! これは予想外だ……。我輩の眼をもってしても、肝心の愛しき相手の姿が分からぬではないか! だが、分かったことはあるぞ? 外なる世界から来た来訪者とは、随分と久しいではないか! これは楽しくなりそうだ! で、確か我輩の手帳によると──おぉ! バービーの次はキャ……。むー、なんて書いたんだったか? まぁ、呼べばいいか」


 口笛を吹くように鳴らすと、男の目の前に高級娼婦のような出で立ちの女が現れた。

 咄嗟の出来事で何が起こったか分からず、その場で慌てふためく女に対して男は、口に人差し指をかざして優しく告げた──「鴨は言葉を喋らんぞ?」と。


 その言葉を終えた直後。

 叫ぶことも泣くことも許されず、かつて女だった存在はそこにはなく。

 一羽の大人の鴨となり、ただわけも分からぬまま、その場でてくてくと歩きだした。


「──あぁ! キャミ―にしよう! そうだった、後で蒸し焼きにするのを忘れていたのだ! 全く、酒が足りんからこうなるのだ! 我輩、猛省! ふむ──我輩の眼よ。外の様子を見せろ。ほぉ? なるほど、祠を破壊した者は──そういうことか、それなら我輩も納得。つまり──どういうことだ? よし、直接本人に聞こう! 流石は我輩、気になる年頃!」



§



 恐らくここは、夢なのだろうか?

 何処かの大衆酒場のような造りと、楽し気に軽快な音楽を演奏する動物達。

 目の前には豪勢な料理が置かれ、謎の男がにこやかな笑みを浮かべながら俺に酒を注いでいた。


「さぁさぁ、まずは飲め! 酒は健康にいいぞ! 我輩の世界では、まずは酒を飲むことが大事なのだ。ほら、こうやって飲むのだ!」


 陽気で胡散臭く、女遊びが大好きそうな中年の男が、そう語りかけてきた。

 どうせここは夢なのだし、味なんてしな──え、めっちゃ美味いんだけど!?

 あー、昔もこんな味のある夢見たことあったな。そういう感じの夢ってことか。


「どうだ、美味しいだろ!? さっき我輩が仕入れた酒だ! そう思わないか!?」


「とても喉越しがいいですね。えっと、お名前を伺っても?」


「あぁ! 全く、我輩は! 確かに名をまだ名乗っていなかった、謝罪しよう! 我輩の名はホヌイ・オズキ──ありとあらゆる快楽を愛する男だ! そしてここは、我輩の一つの領域。歓迎しよう、客人よ」


 ホヌイはそう言うと、一気に酒を飲み干し、ウェイターに追加の酒を注文した。

 俺も彼には負けじと酒を飲み干し、同じものを注文する。どうせ酔わないだろうし。


「中々な飲みっぷりだな! 酒はともかく、鴨の蒸し焼きはどうだ? これも先程仕入れ、我輩の専属料理人に作らせたのだ! ささ、このソースを付けて食べてみろ! 感想を聞かせてくれ!」


 普通に美味くて、なんと反応すればいいか困ってしまうが──。


「ピリっとしたソースの辛さも相まって、酒によく合い、本当に美味しいですよ。いやはや、お招き頂き、ありがとうございます」


 現実では村人達にこっぴどく嫌われた後に、俺を歓迎してくれる夢を見るだなんてな。

 全く、これが現実であればどれだけ良かったかと思ってしまうよ。


「招い──え? あぁ! なるほど、お前はそう考えるのか! これは本当に面白い! 招いたのは理由があるのだが、まずは名前を聞かせてくれないか? 我輩の大切な飲み友達よ!」


「これは失礼。朝倉光と申します。ホヌイさんのような美食家と仲良くなれて、光栄です」


 どうせ夢であるが、ここは素直に彼を褒めておこう。

 これだけのおもてなしをしてくれたんだし、どうせ夢から醒めれば忘れるのだから。


「カカカカカ! 確かに、我輩は美食家だ! 特に、極上な味を提供する者であれば、それ相応の礼をしたくなるのは当然ではないか! ──我輩の祠を破壊したのは、光。お前だな?」


 ……? 何を言っているんだ、この酔っ払いは。

 祠を破壊って──まるで自分が神様だと言わんばかりじゃないか、この人。


「……え? そうなのですか? 仮にそうであれば、この通り謝罪しましょう」


 揉めるのも面倒だし、とりあえず深々と頭を下げておくか。


「カカカカカ! いやいや、それは別に構わない! その方が面白いからな! 酒を飲んでくれたわけだし、謝罪を受け入れよう! じゃんじゃん飲むぞ! 光! ホヌイ・オズキの名の下に、お前は我輩の飲み友達に認定しよう!」


 そうしてくだらない雑談をすること数時間ほど経過しただろうか?

 途中からは酒の飲み比べ勝負で遊んでいたのだが、ついにホヌイは酒を飲み干すことが出来ず。

 「参った!」と叫んだ後、テーブルの上に崩れ落ちてしまった。


「おーい、ホヌイさん? そろそろ帰りましょうよー?」


「……むにゃむにゃ。……近いうちにな」


 一気に世界が加速していき、目覚めるとそこはジニーさんの家の天井だった。

 何やら外から騒がしい声が聞こえてきたが、とりあえずもう少しぐっすり眠るとするか。

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