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廃城より出でしモノ─①

 いやー、鹿肉のシチューは本当に美味しかったね。

 ジニーさんは俺に申し訳なさそうに、当分は鹿肉ばかりになるって言ってたけど、ジビエ料理好きな俺からすればありがたい話だ。

 そういや、黒桜にも鹿肉をあげようと思ったけど、どこかへ遊びに行ってしまったようだ。わんぱくな子だな。誰に似たんだか。


「ここが村長宅です。皆さん集まってますので、どうぞ……」


 ジニーさんが緊張したような表情を浮かべているけど、そりゃあそうか。

 これだけ立派なお宅に住んでいるんだし、まるで貴族様の豪邸みたいだ。

 

 となれば、俺もまた朝倉光として振る舞う必要があるな。

 今の俺は異国の貴族──戦国武将のように振る舞うのが吉とみた。

 あ、ジニーさん? ちょっとだけ待ってね? 何度か咳払いをして──よし、スイッチが入った。


「案内ご苦労。では、行くとするか」


 村長宅の前には二人の青年達が警護をしており、俺に気づくや否や、慌てて兜を脱ごうとした。

 恐らくその仕草が、自分達よりも上の立場の者との接し方なんだろうが、それを敢えて止めさせた。

 なんせ俺は異国の貴族なんだろ? そのような接し方など、無用だと伝えたかったからだ。


「挨拶は結構。入ってもいいか?」


「っ!? っは! す、すぐにご案内させて頂きます!」


 変に緊張させてしまったようだが、ジニーさんの方が緊張しているじゃないか?

 だったら、君らも多少の緊張感を持つがいい──異国の貴族様のお通りなのだからな。


「……ほぉ? さぞかし儲かっているようだな」


 村長宅の中へ案内されるや否や、悪態をつくような感じで声を漏らした。

 なんせ村長宅の中は、自分の尊大さを誇るかのような豪華な内装であったからだ。

 調度品の数々はもちろん、家具の一つ一つの細部にまでこだわりが感じられる。


「え、えぇ……。イシスの村は、他の村よりも豊かでありますので」


「なるほど。さぞかし村人達にも慕われているのだろうな。でなければ、このような贅沢が果たして許されるのか? いやはや、なんとも羨ましい生活なことやら」


「こ、こちらですので……。ど、どうぞ……」


 いや、その……、なんかごめんね?

 ちょっと演技に熱が入っちゃってさ? 毒舌家な貴族っぽい感じで接したけど、あまり気にしないでね。


「し、失礼します! お客人をお連れしました!」


『──どうぞ』


 案内役がドアを開け、中へ通されてすぐに気づいたのだが。

 なるほど、どうやら応接室らしき部屋の中にいる者達のほとんどが、俺に対して好意的でないらしい。

 いやはや、どうして、怯えきった小鹿みたいに震えているんだ? ──そこまで嫌われることをした覚えはないんだが?


 んー、もしかしてだけど、黒桜との駆けっこのせい?

 だって馬の扱いなんて知らなかったし、ちょっとだけ飛ばしたのは認めるけど、酷くない?

 仕方ない──謝罪でもするか。


「まずは謝罪しよう」


 深々と頭を下げる。和解の第一歩になればいいんだけど。

 って、どうして今度はざわつくの? え!? 異世界の謝罪の仕方って、こうじゃないの!?


「ま、まずはお座り頂けますかな?」


 最奥に座っている人物は──恐らく村長か、他の者達とは明らかに衣服の質が上等だ。

 さて座って──うぉ!? あ、椅子を──動かしてくれていたんだね? ご、ごめんね? き、気づかなかったよ……。あは、あはは……。


「な、なんてことを! き、貴様! お、お客人に対して無礼──」


「いえいえ。皆さんの空気を和ませようと、間抜けを演じてみたのですが──失敗してしまいましたか。何せ未だに皆様はこの間抜けを、笑って頂けていないのですからな! わははははは!」


「っ!? さ、左様でございましたか……。し、失礼しました……」


「いえいえ。ですので、彼には何も非礼がありません。この間抜けに免じて、どうかこの通り」


 再び俺はその場で頭を深々と下げる。

 この異世界の謝罪の仕方など知らないが、出来ることをやるだけ。

 それでも駄目ならば、次を考えればいい──今の俺は異国の貴族、朝倉光なのだから。


「……ごほん! 私の名前はケネス、この村の長をしている者でございます。異国の御方、まずはお名前を伺っても宜しいでしょうか?」


 ふむ、どうやらまだ俺に対する警戒感は解けてないようだ。

 少々悲しいが、仕方ないな──軽く自己紹介でもするとしますか。

  

「これはこれは、ご丁寧に。俺の名前は朝倉光、異国の貴族という認識で構いません。昨日、イシスの村を訪れましたが、実に素晴らしい村ですね。おかげさまで、今日はとても良い一日でした。感謝していますよ、皆さん」


 よし、このタイミングで無邪気な少年のような笑みで好感度アップ──うん、なんか逆効果だったようだ! え、なんで!?

 いやいや、村のことをしっかり褒めたのに──一体何が悪かったんだろうか……?

 流石に俺もそろそろ傷つくよ? 一応俺さ、客人として呼ばれて来たんだぜ?


「──村長、発言をしても?」


「えぇ。構いませんよ、エリアスさん」


 おぉ……! エリアスだけは、俺の味方だもんね! 

 しっかりお金を渡してあるし、俺の印象を良くしようとするはず! もうズッ友だよ!


「──光様、あの子達の処遇に関して、どうお考えですか?」


 いいねぇ、実にいい! しっかり俺を敬っている感じが、もうエクセレント!


「──あの子達?」


「っ!? 貴方様が廃城で救った女達のことです! お忘れですか!?」


 救ってないんだが!? 

 自分達で勝手に城から出てきただけなんだが!?


「……エリアスよ。お前の意見を聞きたい。お前の意見を尊重しよう──俺はお前達に世話になっているのだからな」


 流石は俺──完璧な切り返しだ。

 フハハハハハ、エリアスちゃんよ! 伊達に長生きしてないんだよ!

 ほら、さっさと意見を出しなさい──君の意見こそが、俺の意見なのだからな!


「──全員保護すべきですね。ですが、ただ家に帰すのはあまりに危険かと。ですので、当分の間は≪漆黒の槍≫が彼女達を保護します。頃合いを見て、順次故郷へ送り届けるのが理想かと」


 ≪漆黒の槍≫──あ、警察みたいな感じの組織のことか。

 なるほど、勉強になるな……。そういう組織に保護してもらうのが理想だよね、うん。


「ならばそうすればいい。それだけのことで俺を呼んだのか?」


「──私にとっては、それが最重要な問題です。なので、私からは以上です」


「で、あるか。ならば俺は帰らせてもらおう。いやはや、折角の一日がまるで台無しだな。不快だ、あまりにも不愉快極まりないことだ。招いた客人に対する接し方を少しは学んだ方がいいぞ、君達」


 そう言いながら俺はゆっくりと立ち上がり、ほんの一瞬だけ蔑んだ目で見下した。

 それに対して皆、激しく恐怖感を覚えながら、悪魔でも見るような目で俺を見返す──このような排他的な村も珍しいものだな。


「お、お待ちを──」


 ケネスがすぐさま反応したが、そんなことはどうだっていい。

 礼には礼を、無礼には無礼を──寛容な心にも、許容量があることを知った方がいい。

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