過去②
『』は天音、そして、()は、天花が天音に話しかけているときです。
過去の話です。天花が4,5歳ぐらいの時です。
言葉使いというか、一部、過激な言葉が含まれています。苦手な人はとばしてください。
一年経っても、私の怪我は治らなかった。どうやら、特別な魔力で刻まれたものらしい。
体のあちこちに、不思議な模様が浮かび上がっていて、その部分がずっと、私の肌を焼き続けている。
痛いし、熱い。でも、もう慣れてしまった。慣れって、ほんと不思議。
「慣れちゃダメでしょ。まったく……痛みを肩代わりしてやりたい……!」
天音が悔しそうに言う。彼女は私の心の中にいて、時々外にも現れる。心の中にいるからか、どこにいても私と会話ができるし、私の気持ちを読み取ってくれる。
(大丈夫だよ。私は、今、元気だから!)
『なら、良かった!』
そんなふうに、穏やかな時間が流れていった―― しかし、悲劇は突然訪れた。
……ここは、どこ?
朝、目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。 天音との記憶がよみがえる。 胸が締めつけられ、息がうまく吸えなくなった。 意識が遠のいていく。もう、限界だ――そう思った瞬間、
『起きて!気を失うな!』
天音の声が、私を引き戻した。
『このリズムで、吸って……吐いて……吸って……吐いて……』
背中を軽く叩きながら、呼吸を整えるのを助けてくれる。
『大丈夫。大丈夫だから。』
私が少しずつ落ち着いてきたのを見て、天音は安心したように言った。
『良かった!すぐに助けが来てくれるよ!』
その言葉に、私はほっとして、深く息を吐いた。 (ありがとう……まあ、来ないかもしれないけど)
そう思いながら、周囲を見渡す。
ここは、天音がいなくなった場所じゃない。 そう思えたことで、少しだけ心が落ち着いた。
「わあ、やっぱり、妹のことを思い出したんだね。」
聞き慣れていないはずなのに、絶対に忘れられない声が耳に届いた。 振り返ると、にこにこと笑う、あの男が立っていた。
……天音を殺した人。 私が心の底から憎んでいる人。
あの事件のあと、私たちは“入り口”を移した。 もう、連れ去られることはないはずだったのに。
「まあまあ、そんなに睨まないでよ。」
男はけらけらと軽快に笑いながら言った。 正直、声も聞きたくない。視界に入れるのも嫌だ。 でも、何をしでかすかわからないから、私は必死に目をそらさずにいた。
『はあ?サイテーじゃん。私のこと忘れたわけ?』
天音の声が響く。もちろん、男には聞こえていない。 私は心の中で大きくうなずいた。
(そうだそうだ!サイテーだ!)
そう思ったら、少しだけ気持ちが軽くなった。
男と睨み合っていると、突然、彼が口を開いた。
「……あ、そろそろ来るね。楽しみだよ。君の子供も、こうなると思うよ。」
嬉しそうに笑いながら、部屋を出ていった。
(なにが……起こるの?) 『さあ?』
私と天音は顔を見合わせ、首を傾げた。 その瞬間、外が騒がしくなり、扉が「バン!」と勢いよく開いた。
怪我をしたお母さんが、息を切らしながら飛び込んできた。
「おかあ……」
「いい?今から瞬間移動するよ。」
私の言葉を遮って、お母さんはそう言った。
「待て!」
男が再び現れ、何かを呟いた瞬間、黒い矢が私に向かって飛んできた。魔法だ。 そして――お母さんが私をかばい、矢を受けた。
「お母さん!」
私が叫んだ瞬間、お母さんの魔法が発動し、風景が一変した。 気づけば、森の中にいた。お母さんも、そこにいた。
「お母……さん……?」
お母さんは私を見上げ、優しく抱きしめた。
「いい?この先に家があるの。そこにいる人は信頼できる人だから、“助けて”って言いなさい。そして、このペンダントを渡すの。」
そう言いながら、ペンダントを外して私に手渡してくれた。
「それから……私の部屋のベッドの下に、隠し部屋があるの。本棚の下から六段目の黄色い本に、このペンダントをはめて。そこに私の日記があるから、それを読んで。……それで、大丈夫。」
一瞬、言葉が途切れた。
「お父さんは……死んじゃった。殺されたって言ったほうがいいね。でも、気にしないて。」
「ありがとう。みんなにも伝えて。愛してるって。」
そう言って、お母さんは静かに息を引き取った。
「お母さん……お母さん!」
何度も体を揺すっても、もう温もりは戻らなかった。
『天花、もう行こう。また来られるから。』
天音がそっと肩に手を置き、優しく言った。
私は、涙を流しながら、お母さんが言っていた家へ向かった。 森の中を抜け、ようやくたどり着いたその家の扉を叩くと、中から一人の人が現れた。
その人は、私の姿を見て目を見開き、
「なにがあったの?」
と驚いた声で尋ねてきた。 私は、言葉にならず、ただ泣きながら、
「……お母さんが……」
とだけ、絞り出した。
それだけで、何かを察したのか、その人は静かにうなずき、
「分かった。どこから来た?」
と優しく聞いてきた。 私は、震える指で森の奥を指さした。
すると、その人は私の肩にそっと手を置き、
「そこで休んでて。私は行ってくる。ここは、安全だから。」
そう言って、お母さんがいる方向へと走り出した。
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