過去①
天花の、過去のことです。3歳ぐらいの頃です。なので、出てくる、「お母さん」は、一話などに出てくる人とは別人です。
過激な言葉が含まれているので、苦手な人は、とばしてください。
◈◈◈◈◈◈◈
「ねえ、天音、あきらとそうと遊びに行こ!」
天花が、絵本を読んでいる天音に近づいて、顔をのぞき込みながら言った。
天音は、黒と赤のグラデーションの髪に、紫色の瞳をしている。
「んー、いいよ。」
「やった!」
天音が答えた瞬間、天花は天音の手を引いて走り出した。
「わっ、びっくりした〜。」
天音はそう言いながら、天花のあとをついていった。
玄関に着き、ドアを開けると、二人の男の子が待っていた。
「あ、天花、天音、おはよう!」
そう声をかけたのは、黒髪の男の子・彰だった。
「久しぶり! 何してたの?」
と聞いてきたのは、茶色の髪の男の子・颯だ。
「ふふん、お父さんとお母さんと遊びに行ってたのだ!」
天花はそう言って、得意げに胸を張った。
「私は、新しい本を買ってもらったよ。」
天音は、おとなしくそう答えた。
この四人は、いつも一緒に遊んでいる仲良しの仲間だ。
「今日は何して遊ぶ?」
公園へ向かう途中、彰が聞いた。
「色鬼!」
「鬼ごっこ!」
「かくれんぼ!」
みんなが、それぞれ別の遊びを口にした。
「じゃあ、色鬼にしよう!」
彰がそう言って、遊びが決まった。
◈◈◈◈◈◈◈
「楽しかった! また明日ね!」
遊び疲れて座っている彰と颯に、天花が声をかけた。
空は紅く染まり、ちょうど五時の鐘が鳴っている。
「ばいばい!」
「また明日ね!」
誰もいない公園に、四人の声が元気よく響いた。
家は近いけれど、方向が違うため、天花と天音は、彰と颯に手を振って別れ、それぞれの帰り道を歩き出した。
(ここから、天花の視点になります。)
「天音、楽しかったね! 明日はなにして遊ぼう?」
ほんとに楽しかった。明日は、かくれんぼがしたいな――そう思いながら、私は言った。
「そうだね。かくれんぼは?」
「私もそう思ってた!」
そんなふうに、いつも通りおしゃべりしながら帰っていた。
……けど、途中で――私たちは突然、意識を失った。
気がつくと、知らない部屋の中にいた。
「天音、ここ……どこ? 知ってる?」
私は恐怖で天音にしがみつきながら、声を震わせて聞いた。
「……ううん、知らない。」
天音は私の手をぎゅっと握り、不安そうに答えた。
「なんか怖いから、動かないでいよう。」
天音はそう言って、立ち上がろうとした私を止めた。
そのまま、じっとしていると――
ガチャリ、と扉の開く音がして、変な男の人が部屋に入ってきた。
「わあ、すごいね。そこから少しも動かないなんて。やっぱり警戒心が強いんだね。マレナって、やっぱり特別なんだ」
少し興奮したように、その男は言った。
「だれですか? なんで私たちがここにいるんですか? 返してください!」
天音が私の前に出て、声を張った。
「別に、誰でもいいよ。どうせ君たちは、すぐに死ぬんだし。でも、返せないな。君たちは重要な人質なんだ——君たちのお母さんをおびき寄せるための」
ちらりと天音を見て、興味なさげに言いながら、男は何かを取り出した。
「だから、一人だけでいいね!」
明るくそう言うと、男はナイフを取り、天音の胸あたりへと突き立てた。
「え……? 天音……?」
天音はドサリと倒れ、赤が床に広がっていく。
その後のことは、よく覚えていない。
ただ――とても痛かったこと。
そして目を覚ましたときには、少しだけ楽になっていたことだけは、覚えている。
「天音は? お母さん、天音は……?」
そう聞いたときの、お母さんの顔は、きっと一生忘れない。
悲しそうに顔をゆがめ、苦しげに、こう言った。
「……ごめんね」
たった一言。それだけで、すべてがわかってしまった。
私はただ、声を上げて泣いた。泣きながら、そのまま眠ってしまった。
――そのあと、私は生きる気力をなくし、ずっとベッドの中で過ごしていた。
家族も天音のことを忘れたわけじゃない。でも、少しずつ、みんな日常に戻っていった。
私は、それがつらかった。
もう、いやだ。……天音のいる場所に、行きたい。そう思っていた、そんなときだった。
「だーめ! なにしてんの? 私は死んじゃったけど、妹のために、来てあげました!」
ふいに、頭の上から声がした。
見上げると、そこには天音がいた。
「な、なんで……。え、ていうか……浮いてる?」
嬉しくて、悲しくて、私は泣き出してしまった。
天音は、私が泣きやむまで、ずっと隣にいてくれた。
そのことが、とても嬉しかった。
「天音、これ……夢じゃないよね? 私の精神が壊れて、幻覚を見ているだけじゃないよね?」
私は、天音にそう尋ねた。
本当は「うん、夢だよ。私は実在しないよ」と答えてほしくはなかった。
でも、知りたかったし、現実を見たかった。
「そうだね。私は、幽霊として、生きているよ。心配なら、お母さんに聞いてごらん」
天音はそう言った。
お母さんを呼び、恐る恐るお母さんに聞いてみた。すると――本当だった。
お母さんも、どこか嬉しそうにそう言ってくれた。
それから、天音は私の周りか、あるいは私の体の奥に、いることになった。
他の家族には話せなかったけれど、だんだん私は回復していった。




